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内閣支持率と安倍政権

佐藤清文
Seibun Satow

2006年12月28日


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すべて執筆者である佐藤清文氏にあります。


「ニュースと真実とは同一物ではなく、はっきりと区別されなければならない。ニュースのはたらきは、一つの事件の存在を合図することである。真実のはたらきは、そこに隠されている諸事実に光をあて、相互に関連づけ、人々がそれを拠り所として行動できるような現実の姿を描き出すことである」。

ウォルター・リップマン『世論』

 麻生太郎外務大臣は、20061224日午前のフジテレビの番組で、安倍内閣の支持率の急落について「世論調査はマスコミが好きだが、あまり気にしない方がいい」と語りました。

 加えて、「例えば、安倍晋三首相のおじいさんの岸信介、吉田茂の時に支持率調査があったら、間違いなく森喜朗元首相より低い」とし、他方で、「松岡洋右はものすごくマスコミはあおったが、結果として松岡は悪かったから、マスコミは見る目はなかった。そういうことは戦前も戦後もあまり変わっていない」と言っています。

 しかし、この比較は乱暴です。吉田茂や岸信介が首班に選ばれたのは当時の政治情勢であって、世論の動向ではありません。一方、松岡洋右は世論を扇動することで政治家としての立場を強化してきました。麻生大臣は世論に立脚していない政治家と世論頼みの政治家を同列にしているのです。

 安倍晋三内閣総理大臣は、前任者の小泉純一郎前首相同様、世論の後押しで首班に選ばれました。小泉前首相は、森嘉郎元首相が消費税をわずかに上回る程度の内閣支持率であったため、自民党が起死回生を狙って総裁に選出しました。

 また、安倍首相は、来年迎える
2つの大きな選挙、すなわち春の統一地方選挙と夏の参議院議員選挙の顔と期待されて、総裁に就任したのです。両者共に、強固な党内基盤に支えられているのではなく、世論頼りの政権なのです。事実、前政権から首相官邸が世論調査へ並々ならぬ関心を寄せていることはよく知られています。

 言うまでもなく、歴代の政権も世論の動向を気にしています。強固な党内基盤を誇った佐藤栄作元首相も「『栄ちゃん』と呼ばれたい」と常々口にしていました。

 また、内閣支持率が
40%を切ったら、政権の危険信号というのは、かねてより永田町の共通認識です。そうなると、一気に政治は「政局」へと向かいます。ギャロップ社の創業者ジョージ・ギャロップ(George GAllup)は世論調査を「温度計」に譬えましたが、永田町では、天気が温度計を表わすのではなく、温度計が天気を作ることもしばしばです。

 概して、世論に訴える政治家は弁が立つものです。小泉首相や麻生大臣が挙げた松岡洋右はまさにそうです。世論は情に流されやすいものですが、それは逆に、表現力の有無を政治家を支持する基準とすることを意味します。

 世論を利用するのは、実は、政治家にとっても表現力を問われることでもあるのです。世論調査政治をするのであれば、表現能力の高い政治家を選ばなければ、維持できません。

 安倍首相のコミュニケーション能力には、「一身上の都合」発言が示している通り、相当問題点があるのはすでに有権者の間で周知のこととなっています。とすれば、安倍首相が内閣支持率を上げることはきわめて困難です。安倍晋三衆議院議員には、率直に言って、首相となるべき素養がなかったわけです。

 漫才として見るなら、安倍首相の応答は最高です。彼が漫才のボケではなく、内閣総理大臣であることが今の日本の最大の不幸と言っても過言ではありません。

 安倍首相ときたら、何しろ、こんなことさえ言ってしまう始末なのですから。漢字の日の1212日、日本漢字能力検定協会が、2006年をイメージする漢字一文字を全国に公募し、その結果を発表しました。最も総数が多かった漢字は「命」でした。安倍首相は、その日の夜、自身にとっての2006年の漢字一文字を記者から尋ねられ、こう答えたのです。「今年はわたしにとって『変化』の年でした。それは『責任』ですかね」。

〈了〉

参考文献

W・リップマン、『世論』上下、掛川トミ子訳、岩波文庫、1987

青山貞一、「メディア別内閣支持率調査結果から見えるもの(1)

前田幸男、「時事世論調査に見る内閣支持率の推移(1989-2004)」http://www.crs.or.jp/56911.htm