給食費滞納と報道 佐藤清文 Seibun Satow 2007年1月27日 無断転載禁 本連載の著作者人格権及び著作権(財産権)は すべて執筆者である佐藤清文氏にあります。 |
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「書く前に考え方を学べ」。 ニコラ・ボワロー『詩法』 2007年1月25日、各新聞・テレビ・ラジオは、一斉に、給食費滞納のニュースを報道しました。 これを受け、テレビ・ラジオのアナウンサーやコメンテーターは、自分たちのときはこうではなかったと昔を懐かしみつつ、モラルの低下を憂いています。 猪瀬直樹元道路関係四公団民営化推進委員会委員は、テレビ朝日系列の『ワイド!スクランブル』で、「格差を強調しすぎたせい」と政府が聞いたら泣いて喜びそうな発言をしています。 しかし、asahi.comは、2006年1月3日17時09分に、「年就学援助4年で4割増 給食費など東京・大阪4人に1人」という次のような記事を更新しています。
このニュースは、当時、話題となり、各メディアも衝撃的に伝えました。わずか一年で親のモラルが急速に堕ちることもないでしょう。 それにしても、今回の親の規範意識をめぐる記事は政府にとっては最高のタイミングです。何しろ、25日は通常国会の開会日です。昨年、1月初頭に給食費未納が話題となったことを思い起こせば、世論誘導や情報操作を疑われてしまうほどです。教育再生会議の報告を受け、教育三法の改定案を表明した安倍首相にとって、この規範意識の低下を焦点にした報道は願ったり適ったりだったでしょう。 給食費を支払えるだけの経済力がありながら、屁理屈をこねてそれに応じない親は、残念ながら、以前からいました。今に始まったことではないのです。学校関係者であれば、笑ってしまうのから怒りを通り越して呆れてしまうものに至るまで。ありとあらゆる手口で給食費の支払いを拒む親の話を耳にしたことがあるでしょう。 なお、地域によっては、二桁成長が終わる1974年くらいまで、給食費は現金だけでなく、米などによる支払いも認められていました。 給食費の未納問題を担当するのは、主に、事務職員です。悪徳サラ金の取り立てのような態度で臨まず、親を教育するつもりでその姿勢を問いただし、諭して、納めさせる達人もかつては少なくなくありませんでした。 学校に勤務するカウンセラーも、子供だけでなく、むしろ、親のカウンセリングを行うものだとよく言います。滞納を解決するのも同じだというわけです。 給食費の滞納は親の規範意識だけによるものではありません。学校の側にも問われるべき点があるのです。未納者はいないと報告しながら、実は、やりくりをしてそれを補っていた学校もあったという噂もしばしば流れています。 そもそも、経済的理由で滞納しているという学校側の発表も少々納得がいきません。もしそうだとすれば、学校はさまざまな支援があることを親に伝え、そうした補助で支払わせることができるからです。その3割強の未納者は、学校側が親にコミュニケーションを十分にとっていない現われだとも言えます。 こう考えてくると、給食費の未納がモラルではなく、コミュニケーションの問題ということが明らかになってくるでしょう。コミュニケーションがうまく成り立っていない状況が給食費の滞納の本質的な原因であり、規範意識を育てるのもまさにコミュニケーションにほかならないのです。この点まで考察しなければ、真の意味でジャーナリズムとは言えません。 理不尽なことを口にし、迷惑な行いをする人は、実際、いるものです。けれども、報道の役目は、喫茶店や居酒屋、携帯電話で「そういえばさあ…」と始まるよもやま話のネタを提供することだけではありません。 ボブ・ウッドワードやカール・バーンスタインのようなやる気に溢れるものの、少々危なっかしい記者が持ってきた衝撃的なスクープに対し、ベン・ブラドリーみたいな頑固なおやっさんタイプのデスクが「どうも腑に落ちんな。釈然とせん」と首を傾げることがあって、初めて、いい報道はできるものです。そういうコミュニケーション過程が受け手に伝わってくるニュースが望まれているのです。 |