「ゼロだよ。とにかくゼロに賭けるんだ」。
フョードル・ドストエフスキー『賭博者』
新聞休刊日に、その影響を小さくする目的で、大きな政治・経済的問題が政府などから発表されることが以前からありました。テレビの時代になっても、この手法は変わりませんでした。しかし、今では各報道機関もウェブ・サイトを通じて報道しています。『北海道新聞』は9月10日の社説で「安倍首相 民意より対外公約とは」と批判しています。
安倍晋三首相は、2007年9月9日午後、シドニー市内のホテルで内外記者会見を行い、テロ対策特別措置法に基づくインド洋での海上自衛隊の給油活動継続を「国際公約」と位置付け、継続に際しては、「野党の理解を得るため、職を賭して取り組んでいく。職責にしがみつくことはない」と述べました。
この「職を賭して」の意味について、さまざまな解釈がなされています。新聞各紙は「退陣」と理解していますが、テレビやウェブなどでは、継続できなければ、内閣を総辞職するのか、それとも解散総選挙に打って出るのかつかみかねています。もっとも、参議院議員選挙でも、「私を選ぶか小沢さんを選ぶか」と発言して、大惨敗しても辞任しなかった首相のことですから、また言っているよと首相の言葉の軽さが批難されています。
各政党の幹部の反応も同様です。自民党の麻生太郎幹事長は、これを「日本の決意」とし、公明党は総辞職や解散という意味をこめていないと認識していると述べ、与党内には早まったことをしてくれたという思いや真意は一体どこにあるのかという戸惑いが見られます。一方、野党は一斉に反発しています。民主党の鳩山由紀夫幹事長は「小泉純一郎前首相が郵政民営化で決意を示したのをまねたのだろう。本来とっくに辞めるべき人」と批判していますし、国民新党の亀井久興幹事長は「普通なら参院選の敗北で辞めるはず。本当に辞めるのか」と冷ややかです。共産党の市田忠義書記局長は「国会の意思よりも米国への協力しか頭の中にないのかなとの印象を持つ」と糾弾し、社民党の福島瑞穂党首は「進退について参院選の敗北後には何も言及せず、今になって急に言い出すのは、まことに奇異な感がする」との談話を発表しています。
参議院議員選挙で政治的賭けをして負けたにもかかわらず、また賭けに出るとは、首相はギャンブル依存症ではないかと疑いたくなるほどです。首相は、常々、その危機管理能力が問われてきました。しかし、実は、危機を管理するどころか、それを愛好するリスク・ラバーなのかもしれません。「リスク・ラバー(Risk-lover)」は「危険愛好者」とも呼ばれ、投資の際に、自分には優れた予測能力が備わっていると自惚れがあり、リスクの高いものを選ぶ傾向があります。まさにこれは安倍首相の政治センスそのものです。
安倍首相は総理の座にいるよりも、それを辞して、ギャンブル依存症の治療に専念することをお勧めしたいところです。
〈了〉
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