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名寄せ作業と政治の目線


佐藤清文

Seibun Satow

2007年12月12日


無断転載禁
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すべて執筆者である佐藤清文氏にあります。


「嘘をついて得られることは一つだけ。真実を言う時さえも信じてもらえぬことだ」。

『イソップ寓話』

 舛添要一厚生労働相は、2007年12月11日、記者会見し、該当者不明の約5000万件の年金記録について、4割弱に当たる1975万件が、社会保険庁のコンピュータ上での持ち主を探す「名寄せ」作業において、持ち主の特定が困難であるとし、全員特定の政府公約が実現不可能になったことを正式に認めました。

 舛添厚労相は、これまでにした自身の答弁に関して、「3月までと言った覚えはない、照合作業なんかエンドレス。誰がやっても解決できない」と言い訳しています。つまり、大臣なんて要らないというわけです。

 また、政府公約について、町村信孝官房長官は「選挙ですから『年度内にすべて』と縮めて言った」と釈明しました。つまり、選挙公約はその場限りの言い逃れだというわけです。

 さらに、福田康夫内閣総理大臣に至っては、「『解決する』というように言ったのかな。それは取り方もあるかもしれない」と言い、名寄せの難航が判明したことには「この辺のことは、あるだろうと予想していた」と述べています。つまり、年金問題は他人事だというわけです。

 はっきり言って、浮気の言い訳だってもう少しましというものです。有権者の負託にこたえるどころか、開き直っています。

 その一方で、政府・与党は、今国会での給油新法成立を目指すため、会期を来年1月中旬まで1カ月程度再延長し、参院で否決された場合、衆院で再可決する方針を固めました。各種の世論調査の結果によると、この法案に対する眼は厳しく、また、再可決に関しても決して肯定的とは言えません。

 今の福田政権は前二代の内閣の姿勢を継承しているようです。小泉純一郎元首相は公約などどうでもいいと国会答弁をしましたし、安倍晋三前首相は政策の優先順位が恣意的でした。両者に共通しているのは暮らしへの関心の低さです。政治の目線が高いのです。おそらく、当初福田内閣に期待していた世論は、二代続いたエキセントリックさや未熟さの政治に代わって、落ち着いた政治が展開されるのではないかという思いだったでしょう。しかし、内実は同じだったのです。

 政治の目線は、まず、暮らしに向けられていなければなりません。そうして政治は、初めて、信頼を得られ、それを背景に、さまざまな政策を実施できるのです。

 福田総理は、同じ11日に、今年を表わす漢字として「信」をあげました。しかし、皮肉な態度もここまで来ると嫌味でしょう。この字は「人」と言葉の意の「言」から成っています。本来、口から出る言葉とその人の心と一致しているという意味があるのです。言葉が軽い人が「信」を口にしたところで、人々から「信」を得られないことがどうも福田首相はわかっていないようです。

〈了〉