名前のないスキャンダル 佐藤清文 Seibun Satow 2010年1月26日 無断転載禁 本連載の著作者人格権及び著作権(財産権)は すべて執筆者である佐藤清文氏にあります。 |
「名は体を表す」。 近代日本において、数多くの政治スキャンダルが顕在化している。開拓使官有物払い下げ事件に始まり、日糖事件、シーメンス事件、造船疑獄、ロッキード事件、リクルート事件、佐川急便事件、撚糸工連事件など非常に多様であるが、多くに共通点が一つだけある。名称に企業や産業などが含まれている点である。内容を知らなくても、事件名を聞いただけで、疑惑の対象が推測できる。 しかし、小沢一郎民主党幹事長をめぐるスキャンダルには明確な名称がない。新聞記事をよく読み、頭の中で整理しないと、何が疑惑となっているのかがわからない。それどころか、しばらく経つと、問題点が移動していたりして、混乱することさえある。果ては、多くの政治家が金額はともかくそれをしていることを記者たちは知っているにもかかわらず、たんす預金の話が信じられるかどうかという話まで飛び出している。いずれにせよ、小沢幹事長が不適切なカネの問題で東京地検に逮捕されるような嫌疑ではない。とにかく、この疑惑は輪郭がはっきりしていない。 こんな名前のないスキャンダルは記憶にない。システム・キッチンの包丁を刺して置く器具が壊れたので、荻窪西友に行って、店員にそれをああでもないこうでもないと説明すると、「ああ、包丁刺しでございますね」と教えてくれる。それが壊れるまでは名前を知らなくても済んでいたが、買い換えようと人とコミュニケーションするときには、名前が必要になる。困っていなければ、名前を知らないどころか、なくても差し支えない。選挙で選ばれた国会議員をめぐるスキャンダルを報道するのであれば、名前くらいつけなければならない。 率直に言って、ニュースのないときならともかく、これだけあやふやな状況のスキャンダルについて紙面を大きく割いて報道しなければならないかどうかは疑問である。市民の最大の関心事は経済状況であり、国会での実りある政策論議を望んでいる。にもかかわらず、市民生活に大きな影響を及ぼす予算案がどのような内容のものであるかの紙面は相対的に小さい。いつの間にやら通ってしまったという扱いだ。 実際、自民党も予算案の問題点を明らかにすることもせず、この名前のないスキャンダルを主にとりあげている。これでは無責任と言われても仕方がなく、お互いに競い合う二大政党制の定着は遠い。 〈了〉 |