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顕在化する在沖縄米軍基地の脆弱性
佐藤清文
Seibun Satow
2014年9月4日
初出:独立系メディア E-wave Tokyo
無断転載禁
「ここはどこ?ちっちゃな輪?ううん、おっきな輪。沖縄!」
加藤茶『ドリフ大爆笑』
日米ガイドラインにより日本の防衛は自衛隊がプライマリーに担うことになっている。尖閣諸島は台湾正面に当たり、中国の空軍力は日本と比較にならないほど強力である。日本政府が離島の防衛・奪還と言ったところで、制空権がなければ、自衛隊も動けない。在日米軍は尖閣対立に巻きこまれたくないというのが本音である。
にもかかわらず、Google Earthで確認すればわかるように、沖縄には広大な米軍基地がある。駐留する理由としてその地理的位置が挙げられる。沖縄は朝鮮半島と台湾海峡に近く、アメリカ軍の東アジア戦略に欠かせない。両潜在的紛争地に対応するための立地条件がいい。
ところが、その長所が短所になったと公言され始めている。在沖縄米軍基地は、中国のミサイル技術の向上に伴い、地理的優位性を低下させている。実は、これはかねてよりアメリカの安全保障関係者から指摘されている。現在のミサイルは中国本土から沖縄に向けて発射された場合、目標到達後差は1mのレベルである。
現代の国際社会では武力不行使原則が認められている。その例外の一つである自衛権は、国際法上、他国からの武力攻撃に対する緊急性と均衡性に基づく反撃権である。けれども、この命中精度では最初のミサイル攻撃によって基地や空母が壊滅する可能性がある。中国を潜在的なライバルと想定するならば、在沖縄米軍は自衛権行使に役に立たない。
ジョセフ・ナイ元米国防次官補は、こうした現状を踏まえて、ニュースサイト『ハフィントン・ポスト(The Huffington Post)』へ論文’ Japan’s Robust Self-Defense Is Good for Asia’を14年8月7日に投稿している。
「多くの日本人は日米同盟の非対称性に憤りを抱いており、特に沖縄の基地負担に対する怒りもある」。ナイ元国防次官補は中国のミサイル技術の発展によってその在沖縄米軍基地が脆弱になったと指摘する。そうした上で、沖縄に基地を集中させる理由として日米両政府が説明してきた「地理的優位性」が事実上乏しくなっていると認める。この実情を考え、「日米は同盟の構造を再考しなくてはならない」との課題を提起している。
ナイ元国防次官補は、在日米軍基地について、「次第に日本の管理下に移し、米軍はこれらの施設を巡回配備することが長期的なゴールだ」と見通す。しかし、 「ただその過程は注意深く行われるべきだ」とする。基地の脆弱性を認めつつ、「米軍にとっての利益が減ったために基地を日本に返すとの認識は避けなくてはならない」と強調している。日米両政府で基地の管理権移行を進める合同委員会を設置すべきだと提言する。
このナイ論文は14年9月1日付『琉球新報』の「『在沖基地は脆弱』 ナイ氏寄稿 日米同盟再考求める」で紹介されている。引用は同紙の邦訳を参考にしている。安全保障に関して沖縄のメディアは概して建設的な情報を提供している。それを読むと、本土の右派が独善的イデオロギーによって思考停止に陥っているかがわかる。
アメリカ軍の中には、在沖縄基地の脆弱性を考慮し、兵力をグアムやオーストラリアへ移す提案の声も上がっている。グアム島は沖縄より2000km以上も離れており、中国の中距離ミサイルの射程外に位置している。
元米海兵隊司令官ジェームズ・ジョーンズ将軍もその一人である。バラク・オバマ政権の安全保障担当の大統領補佐官も務めた経歴もある。14年5月24日付『沖縄タイムス』によると、将軍は、普天間飛行場の名護市辺野古への移設に対して、異論を唱えている。
1999〜2003年まで米海兵隊総司令官を務め、米軍再編協議にも関わったジョーンズ将軍は、在任当時、普天間飛行場の名護市辺野古移設について異議を申し立てている。海兵隊の兵員とヘリコプターを別個に配備する案に疑問を抱き、なおかつ人口密集地への基地の移設にも否定的に捉えている。そこで、ドナルド・ラムズフェルド国防長官に、辺野古移設の代わりに、グアムの空軍基地の活用を提言する。長官は「それは可能だ」と受け入れている。ところが、日米両政府が将軍の提案を拒否してしまう。
ジョーンズ将軍は、この決定について「政治の問題だった」と述べている。辺野古への移設は安全保障上ではなく、政治上の事情に基づいている。将軍は、60年代後半や72年の本土復帰後に、沖縄に駐留経験がある。 彼は「海兵隊は、陸上と航空部隊が一体となったチーム。その分散が米側でも論点になった」とヘリ部隊だけ他基地に移転することへの反対もあったと明かしている。
「普天間は長期駐留すべき基地ではない。基地周辺の人口を考えても無理な基地だ」とも指摘する。将軍は提言が政府に受け入れられなかったことを「非常に残念だった」と語っている。辺野古移設は「非常に高くつくし、環境破壊も大きい。もっと他のやり方があったと思う」。
10年以上前の時点で、すでに在沖縄米軍基地からの兵力の移動を現場、それも海兵隊の司令官が政府に提言している。第二次世界大戦の沖縄戦において敵前上陸を担当したのは海兵隊である。他の軍以上に犠牲を払ったのであり、在沖縄米軍の中でも海兵隊の発言力は大きい。しかも、将軍は沖縄駐留の経験もあり、同地の事情も心得ている。
現在はジョーンズ提言の頃以上に、在沖縄米軍基地の脆弱性が明白になっている。軍事技術の進歩によりリスクが大きすぎる事態を迎えている。普天間から辺野古への移設はこの危険を何ら改善しない。在沖縄基地の維持は非合理的な観念論でしかない。沖縄は、長年、臓器くじに基づいて日米同盟の負担を押しつけられている。しかし、今やその軽減をする時期を迎えている。鳩山由紀夫元首相が言ったように、米軍兵力は国外に移動せざるを得ない。それは安全保障上の合理性が要請することだ。
〈了〉
参照文献
「普天間グアム案 長官了承も日米政府拒む」、『沖縄タイムス』、2014年5月24日 06:10
http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=70532
「『在沖基地は脆弱』 ナイ氏寄稿 日米同盟再考求める」、『琉球新報』、2014年9月01日
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-230915-storytopic-3.html
Joseph Nye, ‘Japan’s Robust Self-Defense Is Good for Asia’, “The Huffington Post”, 07. Aug, 2014. 03:59 EDT
http://www.huffingtonpost.com/joseph-nye/japan-self-defense_b_5658883.html