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環境省が温暖化促進の
マネーゲーム市場を開設

〜温室効果ガス排出枠取引サイト〜


鷹取 敦

掲載日:2006年6月7日


 環境省が三菱総合研究所に委託して、温室効果ガス排出枠の取引サイトをオープンしたと報じられた。


日経ITProより引用
http://www.nikkeibp.co.jp/news/eco06q2/505379/
環境省、温室効果ガス排出枠の取引サイトをオープン

 環境省は6月5日、温室効果ガスの排出枠をネット上で取引できるサイト「GHG-TRADE.com」を立ち上げた。三菱総合研究所が中心となって、日本国債の電子取引システムの開発などに強みを持つジェイ・ボンド証券と、証券業界向けJavaフレームワークを開発するファイテックラボと共同で開発した。

 GHG-TRADE.comは、環境省が2005年度から進めてきた「自主参加型国内排出量取引制度」をインターネット上で実施できるようにしたもの。国内排出量取引制度は二つの事を定めている。一つは、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスについて一定量の排出削減約束を設けて、自主的・積極的に排出削減に取り組む企業や自治体に対して、補助金を交付すること。二つめは、目標以上に排出量を削減できた場合、その差分を排出枠という形でほかの企業に売却できることである。

●随意契約にふさわしい事業か

 上記記事の排出枠取引サイトは、当初2006年4月下旬リリースの予定だったということだから、事業実施は2005年度ということになる。

 以前のコラム『データでみる環境省随意契約の不透明な実態』で示したデータによると、三菱総合研究所は平成17年度(1月まで)に全19件、契約額にして2億5千万円の事業を「随意契約」で環境省から委託されている。
 ここにある「平成17年度国内排出量取引推進事業」(契約金額4,900万円)が排出量取引制度に関わる事業だから、おそらくこれが今回の取引サイト開発に関わる事業なのだろう。

 本事業の随意契約の理由として、環境省は公開文書中で、


「当法人は、本業務に必要な地球環境問題を始めとする各種環境政策の企画・立案の支店からの調査研究、計画策定や精度か及び事業化支援に係るコンサルティング等を行っている。また、これらの事業を円滑に遂行するため、地球環境研究センターを母体とする地球環境研究本部を設置する等、地球温暖化問題に対する調査研究を専門的に行う体制を整備している、排出量取引制度についても、諸々の国内外調査を行い、最新の情報を収集できる体制があり、それに基づく高い専門的知識を有している。以上のことから、契約の性質又は目的が競争を許さないことから会計法第29条の3第4項に該当するため。」

(文中の誤字は環境省文書のまま)

としているが、排出権取引制度に知見のある機関が、日本中に三菱総研以外に存在しないとは考えにくい。

 また、三菱総研が請けている他の19件の事業の随意契約理由をみても、公募で選定された事業を除けば、およそ随意契約の理由として説得力のないものばかりである。

 さらに、記事をみると、共同開発として証券会社とシステム開発会社の名前が挙がっており、三菱総合研究所自身がシステムの開発を行ったわけではないことが分かるが、これらが三菱総研からの再委託(下請け)として発注されているのであれば、一番、費用がかかる部分、かつ随意契約にふさわしくない部分について、三菱総研を通じて一括して随意契約していることになる。

 随意契約にふさわしくない事業を随意契約とする、ということは談合の必要のない官製談合のようなものであり、むしろ悪質だ。


●そもそも「排出権取引」制度は温暖化物質削減に逆行

 「排出権取引」制度についての説明は引用した記事にあるので、詳しくは省略するが、要するに削減努力をして余った分を売ってお金に換えよう、という制度である。もっと言えば、売られた排出枠(沢山削減した分)は、他の企業が買って、その分だけ削減努力をしないで温暖化物質を排出してもいいです、という制度だ。

 つまり、この制度が活用されることによって、削減がより進むのではなく、最大でも排出枠までしか削減されなくなってしまうのである。余分に削減された部分があってもそれはお金に換えられて、別の企業から排出されてしまうことになるからだ。環境省が作ったシステムはそのための市場なのである。

 そもそもの国別の削減目標が、妥協によって決められたものであり、削減目標にギリギリ到達したところで、温暖化を回避できるわけではない。その目標にすら達成しないような役割を果たすのが「排出権取引制度」ということになる。

 この「排出権取引」の市場においては、莫大な金額の取引が行われている。温暖化物質削減という本来の役割を果たせない、取引制度は単なるマネーゲームでしかない。地球が暖まるのを防ぐどころか、加熱する市場でさらに温暖化が促進されてしまいそうだ。

関連コラム:
池田こみち:『地球温暖化防止キャンペーンに27億円、その効果は』
http://eritokyo.jp/independent/nagano-pref/ikeda-col0115.html