池田こみちさんの紹介で、岩波ホールで7月4日まで上映されている「花はどこへいった」を見る機会を得た。(今後、大阪、京都、神戸、名古屋で上映が予定されているので、詳しくは下記のシグロのサイトを確認していただきたい。)
肝臓ガンで亡くなったフォトジャーナリスト、グレッグ・デイビスさんのパートナー、坂田雅子さんの初監督作品である。作品の内容等については、下記のサイトをみていただきたい。
シグロ:「花はどこへいった」作品紹介
http://www.cine.co.jp/hana-doko/
岩波ホール:「花はどこへいった」上映作品紹介
http://www.iwanami-hall.com/contents/now/now.html
VIETNAM AGENT ORANGE RELIEF & RESPONSIBILITY CAMPAIGN
http://www.vn-agentorange.org/
この映画のテーマである、ベトナム戦争の時に米軍が散布したオレンジ剤(枯れ葉剤)による被害がいまだに続くダイオキシン問題の現状については、昨年夏の国際ダイオキシン会議でも報告を聞く機会があった。本映画のパンフレットに解説を寄せられているフォトジャーナリストの中村悟郎さんのお話も聞くことが出来た貴重な機会だった。
中村悟郎さんは長年にわたりこの問題の取材を続けられているが、本映画の監督である坂田雅子さんは、夫のグレッグ・デイビスさんを、ベトナム従軍の際に浴びたオレンジ剤が原因と疑われる癌で短い期間のうちに失ったことをきっかけとして、取材を始められたそうだ。
スクリーンに映し出されるのは、主に現在のベトナム人々の姿である。ベトナム戦争を直接経験していない世代、そのさらに子供の世代、すなわち第三世代ですら深刻な障害を持って生まれる子が少なくない。最後に障害が確認されたのが2000年に生まれた子供だというが、これで終わりだという保証はないという。40年も前のベトナム戦争当時に浴びた枯れ葉剤による被害が未だに補償も解決もされずに続いているというだけでなく、新しい被害が世代を超えて現在も発生しているのだ。
米国の裁判所は、米兵への影響については認めても、ベトナムの人たちへの影響を認めない判決を出したという。ベトナム戦争の被害者は未だに生まれ続けているのである。
ただし映画は米国の責任や戦争を直接的に批判するという立場は取らない。監督のパートナーであったグレッグさんが写真家として取っていた姿勢と同様、写真、スクリーンに映し出された人々のあるがままの姿に語らせるという手法を取っている。
そこには、深刻な障害を受けた状態で生まれてきた子供に対する家族の深い愛情、そしてそれを映像化する監督の愛情を感じられる。「かわいそうな被害者」ではなく、個々の人生が描写されているだけに、かえって問題の大きさ、深刻さが伝わった。
そして、監督の取材を通じて写し出された、グレッグさんのベトナム従軍後の生き方、無関心である人々や社会のあり方への強い憤りを感じた。
また、この映画が映し出すベトナムのダイオキシンの被害は、多くの環境問題、社会問題と共通する側面を持つことに気がついた。たとえば、それが使われた当時には「安全だ」とされたものが後で深刻な問題を起こしていたことが判明したという経過は、PCBやアスベスト問題等に共通するし、世代を超えた影響は多くの環境問題に通ずる。戦争が後々の世代にまで残す問題としては、核、地雷、劣化ウラン弾、クラスター爆弾などとまさに同じである。原因となった企業や政府がその責任を認めず被害をさらに深刻にし長引かせてきたこと、先進国と途上国の格差の大きな影響もここに見られる。
問題提起されている本質、そこで用いられている手法のいずれも、先に試写を見る機会をいただいた「いま ここにある風景」 (Manufactured Landscapes)http://imakoko.cinemacafe.net/ と共通するものがあると感じた作品だった。こちらは7月から順次、全国公開される。
いずれも、「花はどこへいった」に引き続き上映されたグレッグ・デイビス氏の講演を元に作られた短編におけるグレッグ氏の言葉を借りれば(正確な引用ではないが)「見る人や社会に内省を迫る」作品である。
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