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福島県の被災地において、福島第一原発の事故により飛散した放射性物質が瓦礫に付着し、その処理が困難となっている。 環境新聞の2011年5月18日の記事によれば、5月15日に開催された「第一回災害廃棄物安全評価検討会」で、国立環境研究所から、バグフィルター付きの焼却炉で「セシウムをほぼ100%捕捉できる」とする資料が提出されている。環境省は第1次補正予算でバグフィルタ付きの焼却炉を複数整備していく考えを示している。 つまり、放射性物質の付着した廃棄物を焼却炉で燃やしていこう、というのが環境省の既定の方針、ということである。
この記事で一番気になるのは、バグフィルターがついていれば本当に「セシウムをほぼ100%捕捉できる」のか、ということと、セシウム以外の放射性廃棄物についてそもそも捕捉できるのだろうか、という疑問である。 (ちなみに廃棄物焼却炉では、ダイオキシン対策としてバグフィルタが採用されている例が多いが、この場合でも100%捕捉されているわけではない。) それを確認するために、災害廃棄物安全評価検討会で国立環境研究所が配布した、という資料はどのようなものであるか見てみよう。検討会で配布された資料はすでに環境省のウェブサイト(下記のURL)に掲載されている。 「第一回災害廃棄物安全評価検討会」資料について [PDF:2,728KB] http://www.env.go.jp/jishin/haikihyouka_kentokai01-mat.pdf 42頁あるこのPDFファイルのうち、P.40〜42が国立環境研究所の資料であり、バグフィルタでセシウムが捕捉できるかどうかに関する情報はP.42の1頁のみである。下記に掲載したので見ていただきたい。 おどろいた事に科学的、学術的なデータは一切掲載されていない。「ごみ中の半分程度が主灰に移行し、残りがばいじんに移行したとの報告がある」「温度や粒径によって異なるが、適切な条件下では、バグフィルター…粒子径によらず、ほぼ100%」の2点のみである。 これでは、焼却時にばいじんに移行せずにガス状物質として出て行くのがどれくらいの割合残っているかも分からないし、「適切な条件下」を常に廃棄物焼却炉において維持できるかどうかも分からない。廃棄物、とくに今回のように瓦礫は組成が様々であり一定の「適切な条件」を保ちつづけるのは必ずしも容易ではないと考えるべきではないだろうか。検討会の学識経験者はこれだけの資料で果たして納得したのであろうか。(ちなみにこの検討会は非公開である。) 国立環境研究所の資料を用いて検討会の事務局(環境省)が行ったのは、科学的な根拠を示すことではなく、2つのあいまいな情報を列挙することで、あたかもセシウムがバグフィルタで100%捕捉できるかのような「印象」を与えたことにすぎない。 また核種についても、セシウムにも多くの同位元素があるし、半減期の長いヨウ素もある。またストロンチウムはじめ他の多くの核種については、全くふれていない。 このまま安易に放射線物質で汚染された瓦礫を被災地に建設される焼却炉で焼却することになれば、被災地ではさらなる放射線による被害、農産物等の売れ行きへの深刻な影響を受けることになりかねない。 仮にセシウムが主灰とばいじんのみに100%移行し、ばいじんが100%バグフィルタで捕捉されたとしても(これを証明する科学的データが必要だが)、焼却炉に残されるのは高濃度に濃縮されたきわめて危険な灰ということになる。この灰が飛散しないよう「溶融」した場合には、さらに濃縮される。このような灰を受け入れる最終処分場があるだろうか。 また、炉の中、施設の中が放射能で汚染されるため、焼却炉の事故やトラブルの際に修理等の対応がきわめて困難になるおそれすらある。焼却炉のトラブルは比較的日常的に起きており、その都度対処することで運転を継続している。メンテナンスフリーな機械ではない。 放射線を帯びたものを含む瓦礫を処理するための専用の焼却炉を作ったとして、瓦礫の処理が終わった後も問題になる。焼却炉そのものが巨大な放射性廃棄物になってしまうからだ。 パワーポイント1枚の資料だけで拙速に決めるには、放射性物質に汚染された瓦礫の焼却処理は、あまりにも大きな問題をはらんでいる。 |