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国民生活センターによる
簡易線量計テストの諸課題

鷹取 敦

9 Sep. 2011 無断禁転載
独立系メディア E-wave Tokyo


 福島第一原発事故発生以降、個人で線量計(放射能測定器)を購入して、身の回りの放射線量率を測定し、自己防衛に努めようという人が増えている。個人が購入するような簡易線量計には問題のある製品もあり、一方で測定原理に関連して気をつけなければならない点があることは以前下記にまとめたとおりである。

◆鷹取敦・個人で放射線測定器(線量計)を購入して使う
http://eritokyo.jp/independent/takatori-fnp0004.htm


■国民生活センターによる簡易線量計テストの発表

 独立行政法人 国民生活センターは線量計(放射線測定器)に関する苦情が全国消費生活情報ネットワーク・システム(PIO-NET)に3月から7月末までに319件寄せられたことを受けて、問題ある製品についての調査を行い2011年9月8日に公表した。

◆独立行政法人 国民生活センター・比較的安価な放射線測定器の性能
http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20110908_1.html

 テストの対象は「テスト対象銘柄は、国内で販売されている1万円以上10万円未満で購入できる9銘柄と、校正済の参考品1銘柄」と記載されている。報告書をみるとすべて中国製ということになっている。比較対象データを取るための「参考品」として日立アロカメディカル社のTCS-171(シンチレーションサーベイメータ、約60万円)が用いられている。(これは筆者ら環境総合研究所が福島における現地調査で用いたものと同一機種である。)


環境総合研究所が福島調査で用いた4台の線量計
(左から日立アロカ TCS-171、RADEX RD1503、DoseRAE2、DP802i
ただしDP802iは使わなかった)

 テストの結果として下記の5点が指摘されている。
  • 参考品を除く9銘柄は通常の環境程度以下の自然放射線を正確に測定できなかった。
  • 参考品を除く9銘柄は、照射線量率と測定値に相関がみられたが、総じて正味値が低く、ばらつきも誤差も大きいため、正確な測定はできなかった。
  • 販売サイトの広告には汚染検査に使用できることを期待させる表示が見られたが、取扱説明書等には、放射線に関連する業務での仕様を目的としているものが多かった。
  • インターネット通信販売サイトには、放射線を正確に測定できる旨の表示が見られたが、4銘柄は仕様に記載のある誤差範囲を超えていた。
  • 2銘柄で充電器にPSEマークの表示がなく、プラグの栓刃に穴がなかったため電気用品安全法に抵触するおそれがあると考えられた。
 また消費者へのアドバイスとして、
  • 今回テストを実施した放射線測定器では、食品・飲料水等が暫定規制値以下かどうかの測定はできないので、こうした目的で購入・使用することは避ける。
  • 環境中の放射線を測定する場合、公表されているデータ等を参考にし、測定器の示す値を直ちに信頼することは避ける。
とある。(他に事業者への要望、行政への要望が記されている。)

 国民生活センターの発表を受けて、新聞、テレビでその概要が報じられ、国民生活センターのコメントとして「消費者にとっては、信頼できる測定器は高価で手に入りにくく、自ら放射線量を測定することは難しいのが実態。文部科学省などが発表しているデータを参考にしてほしい」(東京新聞記事より抜粋)等と報じている。


■国民生活センターのテストおよび発表の問題点

 ところで国民生活センターが行ったテストおよび発表には次のような問題点があることが分かった。

(1)テスト対象が中国製機種に偏っていること。それにも関わらず簡易線量計全体の問題であるかのようにまとめられていること
(2)テストの方法が適切でない(機種の特性を理解していない)こと

 以下に詳しく述べる。

(1)テスト対象の偏りと結論のまとめ方の問題

 国民生活センターの発表では対象機種は「国内で販売されている1万円以上10万円未満で購入できる9銘柄」とある。この説明だとテストの対象となった機種がこの価格帯の主要な機種であるかのような印象を受ける。しかしここで取り上げたのは全て中国製(厳密には米国メーカーのライセンス生産のDoseRAE2が含まれており、米国本社の製品と区別がつかない)であり、他国の製品が対象となっていない。

 たとえばRADEX RD1503(ロシア製)、ECO TEST TERRA (MKS-05)(ウクライナ製)、PolyMaster PM1610(ベラルーシ製)等、ある意味「本場」のメーカーで上記の条件に入るものは対象外である。RADEXやTERRA等は、価格もリーズナブルで個人にもよく使われている。日本製でも10万円を少し超えるが堀場のRadiPA-1000等は感度も高く使われている。

 これらの機種がテストの対象になっていない。国民生活センターの報告書では「2011年6月下旬にインターネット通信販売の大手ショッピングモールである楽天市場、Amazon.co.jp、Yahoo!ショッピングにおいて、「売れ筋」「おすすめ」等で上位に掲載されていた1万円以上10万円未満の放射線測定器で、測定値を読み取ることができ、繰り返し使用可能なもので入手が可能であった9 銘柄をテスト対象とした」とあるが、必ずしも使用の実態を踏まえられたものではない。

 中国メーカーの機種は、実際に個人購入している人たちの間では、信頼性の低いものが多いことがよく知られており、事前に十分な情報収集をしている人はそもそも購入の対象にはしない。初期に情報が不足していたころに購入した人と、よく調べず安いものを購入した人がユーザーの中心であろうか。

 筆者自身の経験および情報収集の結果から、あきらかに粗悪品が(中国製に限らず)出回っていることは事実であるが、一方でそうではない製品も多く存在する。

 それにも関わらず、これら一部の機種のテスト結果を持って、簡易線量計という製品カテゴリー全体に当てはまるかのようなまとめ方がされており、テレビ、新聞でもそのような印象を受ける報道がされていた。そしてその結論が「環境中の放射線を測定する場合、公表されているデータ等を参考にし、測定器の示す値を直ちに信頼することは避ける。」である。

 これでは個人での測定はすべからく信用できないから行政の調査の結果のみを信じなさい、と言っているようなものである。簡易線量計の原理と制約を正しく理解して正しく使用しようという消費者にとってなんら有益な情報どころか、むしろ迷惑、風評被害ですらある結論ではないだろうか。

 簡易線量計というカテゴリーの製品全般を評価したいのか、個別の製品を評価したいのか、が明確になっていないのである。テストの実態をみると個別の製品の評価にもかかわらず、まとめがカテゴリー全体の問題であるかのような印象を受けるように記されているのである。本来、あくまでもテストの対象とした製品に限定した評価であることがしっかりと分かるような報告でなければ客観的な調査とは言えないし、調査対象の選択も安易にネットショップの評価で選ぶのではなく、使用の実態を調査して行うべきである。


(2)テストの方法が不適切である点

 簡易線量計は、本格的なサーベイメータと比較して放射線を受ける部分がきわめて小さい。そのため感度が低いので短時間の測定では精度の高い測定は出来ない。積分時間の短い機種は多数のデータを取って平均しなければならないし、積分時間の長い機種は、測定する時間を長くとる必要がある。またいわゆるガイガーカウンター(GM計測管を使った機種)は、下記で指摘したように測定原理に起因する影響も理解する必要がある。

◆鷹取敦・個人で放射線測定器(線量計)を購入して使う
http://eritokyo.jp/independent/takatori-fnp0004.htm

 簡易線量計を「正しく使う」場合には、上記を含めたことを理解する必要があるが、国民生活センターのテストはこれらの基礎的なことを踏まえたテストとなっていない。

 報告書をみると全ての機種で、10秒後に最初の数値を読み取り、その後、30秒間隔で2回目以降の数値を読み取り、全部で10点のデータを記録し平均をしたことが分かる。

 しかし簡易線量計はこのような短時間では正しい数値は出ないし、積分時間は機種によって異なる。たとえばDoseRAE2(米国メーカー製品の中国メーカーによるライセンス生産品)の場合には、5分以上積分しているため、少なくともデータは5分以上の間隔で独立した取らなければ全く意味がない。機種によっては(今回の対象ではないがRADEX RD1503の場合)40秒間隔で自動的に平均値が表示されているが、機種によってはそのようなインターバル測定でないものもある。

 ユーザーはそれぞれの機種の方式に合った記録の仕方が求められ、製品テストも同様に機種毎に合った方式で行わなければ意味がない。50万円以上する測定器と同じ方法では簡易測定器は使えないことをユーザーが理解しなければならないように、テストも個別に対応しなければならない。それにも関わらず国民生活センターのテストでは全ての機種に一律短い時間間隔の測定方法を当てはめて、データを得ているのである。これでは正しい結論を出せるわけがない。

 先に紹介した日本製等の信頼性の高いことで知られている機種のユーザーも、今回のようなテストでは合格しないだろう、と指摘している。

 テスト対象とした機種の中には、筆者の経験(検証)からみても問題のある機種が含まれる。しかしテスト方法が適切でないのであれば、国民生活センターはそのような機種も含めて全て適切な方法で再度テストを実施し、報告書を作成し直すべきである。


■簡易線量計に関わる問題と国民生活センターのテストの実態

 簡易線量計に関わる問題は次のように整理できるのではないだろうか。
  1. 製品の性能そのものの問題
  2. 製品が日本の法律に適合しているかという問題
  3. 売り方(誇大広告、食品を測るなど出来ないことをできるという宣伝、実際より低いレベルの放射線量率を測れるかのような表示)の問題
  4. 販売店のサポートの問題(問題ある製品の返品に応じない、問題が明らかな製品を売り続ける)
  5. 添付されているマニュアル(特に販売店がつけた日本語版)がの問題
  6. ユーザーによる測定の仕方の問題(放射線測定に必要な知識に欠けている、袋に入れるなどの汚染付着対策をしていない等)
  7. ユーザーによる結果の評価の問題(低線量率を測れない機種のデータの理解、β線を含めた数値は評価できない問題等)

 これらのうち国民生活センターは主にa、b、そしてc、eの一部についてのみテストし、指摘したものである。これらの指摘の中には重要なもの、消費者がよく理解すべきものもあるが、全体としてのまとめ方が個別具体の製品への指摘となっておらず、全体として簡易線量計を理解して正しく活用しようという消費者の利益になっていないことが問題である。販売店のあり方についても取り組みが不足している。

 以前に他の種類の製品に関する国民生活センターの発表についても同様の印象を持ったが、苦情のあった製品カテゴリーの問題のある製品のみを取り出し、「やっぱり問題がありました」という結論をカテゴリー全体に広げて印象づけるようなテストをするのであれば、消費者の利益にならないからやらない方がましである。

 国民生活センターの存在意義を示すためのテストではなく、真に消費者のためになるテストを行って欲しい。