福島第一原発から福島県内にもっとも大きな影響を与えた2011年3月15日、SPEEDIの予測結果をもとに福島県浪江町に派遣された職員が、実際に高い放射線量率が測定したにも関わらず、その実測結果が住民に知らされず、住民は高い放射線量率であることを知らないまま、長期間放置されていたことが明らかになった。
原発事故直後に住民の被ばくを回避、低減するために次のことが重要である。
- 放射性物質を含む大気を呼吸によって吸入しないよう(内部被ばくを避けるため)、一時的に屋内に待避すること。
- チェルノブイリの事故の際にもっとも顕著な影響だった子供の甲状腺癌(放射性ヨウ素は甲状腺に蓄積されやすい)を避けるため、放射性ヨウ素を吸入してしまう前にヨウ素剤を服用すること(その判断の目安として、幼児の甲状腺の等価線量を用いるが、それを予想するのもSPEEDIの役割だった)
- その後、フォールアウトによって地面に沈着した放射性物質からの外部被ばくを避けるため、空間線量率の高い地域から迅速に避難する。
しかし実際には、原発事故直後にSPEEDIによる汚染の分布図が公表されず、住民の被ばくを回避するために役立てられなかったことが大きな問題とされてきた。文部科学省は当時公開しなかった理由をSPEEDIはあくまでも予測に過ぎず、発生量も把握できていなかったから、と言い訳をしていたが、現地で実測によって、すぐに避難すべき汚染が確認されていたにも関わらず、その結果が伝えられず、そのこと自体が隠され続けてきたことになる。
SPEEDIや関連する実測調査は、住民の内部被ばくと外部被ばくを回避することが目的であるにも関わらず、それが予想された段階でも、実際に確認された段階でも、まったくその目的のために使われなかった、ということである。
そして、現在再稼働しようとしている自治体に対しては、事故時に想定されるSPEEDIによる予測図が、福島原発の事故の影響範囲からみて当然周辺自治体となるはずの自治体にも提供されておらず、事故が起こった場合に何も備えられていない状況のまま大飯原発が再稼働されようとしているのである。
◆SPEEDIで実測も非公表 - NHKニュース
6月11日 18時31分
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120611/t10015754611000.html
文部科学省が福島第一原子力発電所の事故対応を検証した報告書をまとめ、事故の直後に原発の北西部に職員を派遣し、高い放射線量を測定したのは、SPEEDIという放射性物質の拡散予測を基に調査地点を選んだ結果だったことが分かりました。
専門家は、SPEEDIの予測が実際の放射線量に結びつくことに早くから気付いていたにもかかわらず、データを直ちに公表しなかったのは大きな問題だと指摘しています。
福島第一原発の事故を受けて、文部科学省は、所管するSPEEDIなどの対応について検証していて、NHKはその報告書の案を入手しました。
この中で文部科学省は、全体的な対応について「内外におけるコミュニケーションで不十分な面があった」と対応の不備を認めています。
このうち、原発から最も多くの放射性物質が放出された去年3月15日の対応について、文部科学省は原発から北西およそ20キロの福島県浪江町に職員を派遣し、午後9時前に最大で1時間当たり330マイクロシーベルトの高い放射線量を測定したとしています。
そのうえで、この調査地点は15日夕方のSPEEDIの予測を基に選んだことを明らかにしています。
測定結果は官邸に報告するとともに報道機関に資料を配付し、インターネットで公開したものの、現地の対策本部には報告せず、自治体にも伝わらなかったとして「関係機関との連携に反省すべき点が見られた」と記しています。
しかし、当時、文部科学省は調査地点をSPEEDIの予測を基に選んだことや、測定した放射線量の評価について説明しておらず、こうした点は検証されていません。
また、SPEEDIのデータについては事故直後から報道機関に公表を求められていたにもかかわらず、試算データの一部を除いて4月25日まで公表されませんでした。
これについて、事故のあと、関係機関で繰り返し協議したものの「関係者は予測は現実をシミュレーションしたものとは言い難いと認識しており、当時の状況では適当であった」としています。
福島第一原発の事故を検証した民間の事故調査委員会の北澤宏一委員長は「予測が実際の放射線量に結びつくことが分かった段階で、SPEEDIは不確かとは言えず、直ちに公表して住民の被ばくを深刻なものにさせないよう必死に努力するのが責任だ。この検証ではSPEEDIを生かすにはどうすればよかったのか、住民の立場からの検証が決定的に欠けている」と指摘しています。
SPEEDIを巡る問題
SPEEDI=緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステムは、原発から放射性物質が漏れた場合に、各地で観測される放射線の値や被ばく量を気象や地形などの情報と合わせてコンピューターを使って予測するシステムです。
昭和54年に起きたアメリカのスリーマイル島の原発事故を受けて研究開発され、昭和61年から運用が始まりました。
運用は文部科学省が所管する原子力安全技術センターが担当し、研究や運用にこれまで120億円余りの費用が投じられています。
福島第一原発の事故では、SPEEDIの計算の前提になる原発からの放射性物質の放出源の情報が、地震に伴う停電によって得られなかったため、原子力安全技術センターは、震災当日から放出量を仮定して入力した得られた予測データを文部科学省に報告してきました。
一方、報道機関などは、事故の直後からSPEEDIの予測データを公表するよう求めてきましたが、文部科学省は「放出源の情報が得られていないため実態を正確に反映していない予測データの公表は無用の混乱を招きかねない」として、3月23日に公表された一部の試算データを除いて、事故から1か月以上たった4月25日まで公表を見送りました。
この結果、SPEEDIの情報は、住民の避難や範囲などの決定に役立てられることはなく、原発事故の際の国の情報公開の在り方を巡って大きな問題となりました。
SPEEDIの活用に関して、原発事故について検証する政府の事故調査・検証委員会は「仮に予測データが提供されていれば、自治体や住民は、より適切な避難経路や避難の方向を選ぶことができたと思われる」と指摘しているほか、民間の事故調査委員会も「住民の被ばくの可能性を低減するため、最大限活用する姿勢が必要だった」と述べています。
浪江町長“非常に悔しいし残念”
原発事故への対応を巡る文部科学省の報告書の案について、事故のあと、放射線量が高い地域に多くの住民が避難した福島県浪江町の馬場有町長は「SPEEDIはあくまで予測だと説明してきた文部科学省が、当時、SPEEDIに基づいて実際に町で放射線量の測定をしていたとは驚きだ。当時、われわれは避難を自主的に判断せざるをえず、原発から遠くに離れようとした結果、不要な被ばくを招いてしまった。住民の安全を守るべき国が出すべき情報を出さずに、その責任を果たさなかったのは非常に悔しいし残念だ」と話しています。
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