福島県の甲状腺検査の問題 その3:地域別の甲状腺がんの割合 (補正前と補正後) 鷹取敦 掲載月日:2014年7月12日
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次に被ばくと甲状腺がんの関係をみるため、福島県内を地域区分に分けて、地域ごとの甲状腺がんの割合を出し、その結果に細胞診の受診率と年齢による補正を当てはめてみたい。 地域区分としては、岩波「科学」2014年7月号に掲載されている岡山大学の津田敏秀氏の論文を参考にした。理由は、検査年度を意識した区分になっていること、現状の汚染の程度におおむね一致した区分になっているからである。ただし、津田論文では会津と新地・相馬(浜通り)を一緒の区分にしてるが、あきらかに異なる地域であるため、これを分けることとした。 また、津田論文は2次検査受診割合が70%未満の市町村を対象外としているが、1次検査受診者に対する2次検査結果判明者の割合等で補正すればいいので、全ての市町村を対象とした。 地域名は津田論文の表記を参考に下記の通りとした。
以上の地域別の甲状腺がん(悪性ないし悪性の疑い)の割合を以下に示す。これまでと同様、結果が判明している割合による補正は行ったものである。棒グラフに合わせて示されている線の範囲=エラーバーは95%信頼区間(統計的な不確かさの範囲)を示している。母集団の数や見つかった数が小さいと不確かさは大きくなる。実際の確率はこの範囲の中に入っていると仮定すれば95%間違いないという範囲を示したものである。 これをみると一見、「中(二本松市、本宮市、大玉村、三春町)」が多いように見える。また、年度が後になっても上昇していないことから、検査時年齢が上がることによる上昇も見られない。 これに(2)で示した、細胞診の受診率と年齢のよる補正を加えたものを示す。 甲状腺がんが0名だった新地・相馬が0なのは変わらないが、検査年度が後になるほど上昇していることから、検査時年齢の上昇に伴って、甲状腺がんの割合も上昇している傾向が明らかなグラフとなった。 なお、被ばくによる影響は「近い地域」など、汚染が大きかった地域に現れると考えられるが、特にそのような傾向はみられない。ただし検査時年齢が上昇することによるベースラインの上昇があるため、増加が全くないとも必ずしも言えない。これが(1)で指摘した問題である。ただし増加があったとしても、検査時年齢が上がることによる増加よりは小さいであろうという推測は可能である。 ここまでの検討を行ってはじめて、被ばくによる甲状腺がんの増加について言及できるのである。 これを見る限り、有意に増えているとまでは言えないものの、増加がないかどうかは分からない。ただし増加があっても検査年齢の上昇による増加よりは小さいであろう、という点までは分かる。 そもそもチェルノブイリ事故の後の甲状腺がんの増加が顕著になったのは、事故後5年以後である。その前は増加が小さかった可能性と、検査が十分に行われていなかった可能性が指摘されているものの、いずれにしても5年以降の上昇の程度を確認するために今後の推移を見守ることが重要である。ただし、それが難しい可能性があるというのが(1)から本稿で指摘していることである。 最も大きな問題は、事故直後に個人の甲状腺等価線量の実測をまともに行わなかったことであり、実測値があれば原発事故による被ばくと甲状腺がんの増加の関係をより明らかに出来たであろう。 |