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特集:沖縄現地視察
沖縄現地視察を終えて
A泡瀬干潟・辺野古・やんばる・辺戸岬等

鷹取 敦
 
2009年2月17日 無断転載禁



 本特集では、2009年2月13日(金)から15日(日)に行った武蔵工業大学環境情報学部(この4月より東京都市大学環境情報学部)の青山研究室と株式会社環境総合研究所による合同沖縄県現地調査についてその概要を報告する。


■2月14日(土)

◆泡瀬干潟


 2日目に最初に訪れたのは泡瀬干潟である。昨年11月に那覇地裁で、泡瀬干潟埋め立てへの公金支出を差し止める判決が出たにもかかわらず、既成事実を作るべく工事を強行し、土砂で干潟を埋め立て始めた様子をヘリからの空撮で流している痛ましい映像をニュースでみたばかりだった。


泡瀬干潟にて(満潮時)
 撮影:青山貞一 Nikon Digi Camera CoolPix S10

 干潟のすぐ前には「人・未来・世界を結ぶ海洋都市(東部海浜開発)約200m沖合に展開する出島方式」(沖縄市東部海浜リゾート開発推進協議会−私たちは、「マリンシティ泡瀬」の実現を推進します)と大きな文字で書かれた、やや色あせた看板が立っていた。看板に描かれた予想図は、干潟が無惨に埋め立てられた上に無機質な建物が並ぶコンクリートの「ハコモノ」の街だった。


泡瀬干潟沖で進む埋め立て工事(満潮時)
 撮影:青山貞一 Nikon Digi Camera CoolPix S10

 米軍通信施設のフェンスと満潮の干潟の間を歩くと、海の向こうに十数台のユンボ(建設機械)が見え、騒がしい工事騒音が間断なく聞こえてきた。ユンボの足下まではみえないが、あれで一斉に干潟を埋め立てているのだろう。干潟の浅瀬にはシギが2羽やすんでいた。


◆勝連城跡◆

 泡瀬干潟は北東側の半島の小高いところから見ることも出来る。ここには勝連城という城跡がある。勝連城は琉球王国に最後まで抵抗した有力按司、阿麻和利が済んでいた城である(沖縄県うるま市教育委員会作成・うるま市文化財シリーズ1・勝連城跡より)。首里城跡などとともにユネスコの世界遺産(文化遺産)にも登録されている。石垣が残っており、来訪者が歩いて見学が出来るよう、案内表示や木の手すりや階段も整備されている。海をみおろす絶景の位置にある遺跡である。


勝連城跡にて
 撮影:青山貞一 Nikon Digi Camera CoolPix S10

 城を降りたところには、無料駐車場付きの見学施設があり、城の復元模型等が展示されている。残念だったのは、城に上るすぐ下の道路にプレハブ建ての「監視員詰所」があり、これが城を含めた景観を台無しにしていることだった。


◆海中道路

 勝連城跡のある半島の東側には平安座島につながる「海中道路」がある。金武湾の南端の浅瀬を埋め立てて(一部は斜張橋)作られた4kmほどの道路である。途中には駐車場、海水浴場のような海に出られシャワー等の施設のついている場所、道の家のように見える施設(1階がレストランやお土産屋、2階がうるま市立・海の文化資料館)がある。

 この施設は海の波のような模様のついたコンクリートの1階の上に沖縄風の船を模った奇抜なデザインの建物である。沖縄の伝統を活かしたデザインのつもりなのだろうが、コンクリートの舟形にはやや無理があるように感じた。

 海に面した面は階段状に低くなっており、海に入れるような構造である。「心肺蘇生法の手順」とハブクラゲの注意が大きな看板に図入りで示され、シャワー施設があったので、海に入ることを前提とした場所なのだろう。沖縄の自然海浜と比べると、コンクリートの「海辺」は殺伐としてみえる。


うるま市の海中道路にて
 撮影:青山貞一 Nikon Digi Camera CoolPix S10

 「海中道路」を渡った先の平安座島は、沖縄石油基地である。Google Map で上空からみると、島全体が碁盤の目のように並んだ巨大な石油タンクで埋め尽くされていた。


◆キャンプ・シュワブ・辺野古

 途中で石川市恩納村東西清掃組合の廃止された焼却炉の敷地前まで行って煙突を見た跡、キャンプ・シュワブのある辺野古崎に向かった。キャンプ・シュワブ辺野古崎沖合には普天間基地の代替施設計画がある。辺野古崎沿岸から沖合にかけて大きく埋め立ててV字型の滑走路を造る計画である。


辺野古の座り込み活動
 撮影:青山貞一 Nikon Digi Camera CoolPix S10

 辺野古崎の突端は基地の敷地内で近づけないため、西側で阻止運動をしている場所に向かった。現地に近づいたところ大型のバスが2台止まっていた。偶然にも海上基地建設阻止行動(8年・2639日、座り込み1763日とあった)を行っている地元を支援する全国集会の一行と偶然にも行き合わせたのだ。知人であり環境行政改革フォーラムの会員でもある東京都・三鷹市の嶋崎市議と東京都・江東区の前田かおる区議が参加されていた。


辺野古で開催された全国集会
 撮影:青山貞一 Nikon Digi Camera CoolPix S10

 次に辺野古崎を北側からみるべく大浦湾を回って反対側に出た。「この海には黄金のジュゴンが住んでいます!基地は絶対に造れません!」と書かれた大きな看板の横から辺野古崎をながめ、もう少し進んで久志郵便局のあたり「この美しい海をジュゴンの保護区に!ジュゴンの里・WWFジャパン」と書いた看板のところから珊瑚のちらばる浜へ出た。


大浦湾にあるWWFの看板
 撮影:青山貞一 Nikon Digi Camera CoolPix S10

 引き潮だったのか潮だまりを歩くことが出来、沖合には辺野古崎に基地の建物等が見えた。ジュゴンの住むというこの眼前の海が大きく埋め立てられ、巨大な滑走路が造られ、軍用機が離着陸すると考えると目眩がしそうであった。


大浦湾にて
 撮影:青山貞一 Nikon Digi Camera CoolPix S10

 お昼に入った「やんばる船」という食事処で読んだ琉球タイムスに、昨日訪れたばかりの読谷村の産廃業者に改善命令が出た、という記事が掲載されていた。記事は先に紹介した池田こみち氏のコラムで紹介したものである。全国集会に行き合わせたことといい偶然が続く日であった。


◆東村高江・やんばるの森・ヘリパッド建設阻止活動

 沖縄本島の東岸を北上し、やんばるの森のある北部に入った。やんばるの森には国指定天然記念物(国内希少野生動植物指定)であるヤンバルクイナ、ヤンバルテナガコガネ、ノグチゲラ等の多くの希少な動物が生息している。

 途中で休憩のために立ち寄った「山の駅」(高江共同組合)の中には「やんばるの森にヘリパッドなんていらないよ。」とやんばるの美しい自然を背景に書いてあるポスターが貼ってあった。


高江にて
 撮影:青山貞一 Nikon Digi Camera CoolPix S10

 次に立ち寄ったのが、このヘリパッド建設の阻止活動のためにテントを張って泊まり込んでいる高江東村である。道のところどころにヘリパッド計画への反対を表明する看板が立っている。


高江にて
 撮影:青山貞一 Nikon Digi Camera CoolPix S10

 なかには「ヘリパッドより肩パット」というユーモラスなものもあった。阻止活動を行っている本部のテントを過ぎた先の右側の道路わきにもう1つテントが張ってあり、そこでは泊まり込みで監視活動をしていた。その場所はヘリパッドに出入りする道路の入り口が計画されており、一時でも目を離すことが出来ないそうだ。

 最近はキャンピングカーの小型のトレーラがあり、寝泊まりが少し楽になったそうである。年配にも関わらずお一人でラジオだけを頼りに頑張っておられた。キャンプ・シュワブで会った全国集会の一行も後でここに来るということだった。


寝泊まり用のキャンピングカー(高江にて)
 撮影:青山貞一 Nikon Digi Camera CoolPix S10


◆辺戸岬

 途中で風力発電の風車2基を見て(なぜか2基は違う方向を向き、1基だけがゆっくりと回っていた)、沖縄本島最北端の辺戸岬に到着した。切り立った崖が海に突き出た絶景であった。シーズンオフ(休暇時期でない)せいか、観光客は少なかった。

 駐車場にあった案内図をみて金剛石林山に向かったが、案内表示板も見あたらず、車はそのあたりから離れてしまった。看板にはシャトルバスの表示があったので、シャトルバスでないといけなかったのだろうか。


沖縄本島の北端。辺戸岬
 撮影:青山貞一 Nikon Digi Camera CoolPix S10

 せっかくの観光地なのに、全体的に案内表示がやや不親切であるように感じた。沖縄の公共交通手段の現状では自動車で移動するしかないのだから、不慣れな場所を運転しているドライバーにも分かりやすい表示となっていればと思う。


沖縄本島の北端。辺戸岬の位置

 以前来た時も今回はじめて北端まで運転しても感じたが、沖縄本島は自分で運転して移動するには意外と広い。市街地の朝夕の渋滞では車が使いにくい一方、遠方に足を伸ばすのも楽ではない。不要な自動車交通と環境負荷を減らし、快適に観光できるようにするためには、やはり公共交通手段を整備することが重要であろう。

 やんばるの森に近づいて以降も、すれ違う車はほとんど無いのにもかかわらず、道路工事に伴う片側交互通行だけは頻繁に出くわした。一時的な雇用のために必ずしも必要のない公共工事=道路工事を行うより、同じ税金を支出するのであれば、公共交通機関、たとえば電車やバスなどを、地域に合った規格・手段で整備し、ビジターが自分で運転せずとも身軽に回れるような基盤を作ってはどうだろう。


島内どこにいっても道路は工事中
 撮影:青山貞一 Nikon Digi Camera CoolPix S10

 たとえばシンガポールでは、シンガポール航空利用者は市内21箇所を循環するHOP-ONバスが無料で利用できる。これがあるので、どこにでも気軽に足を伸ばせる仕組みになっておりとても評判がいい。このような発想のサービスがあれば、沖縄も(特に運転しない出来ない人たちにとって)どんなに訪れやすい場所になるかと感じた。


古宇利大橋

 その後、環境省のやんばる野生生物保護センター(池田こみち氏が詳しく執筆する予定)に立ち寄り、名護市の本島から屋我地島に渡り、さらに古宇利島に全長2km以上もある巨大な橋で渡った。

 渡った先の橋のたもとには人工的に作られた小さな砂浜があった。一応ビーチとして整備されているように見えるが、「水産庁所管の海岸保全区域であり、条例等に基づく海水浴場ではありません。遊泳する場合には安全に注意してください。」という看板が立てられている。


古宇利島の人工海浜?
 撮影:青山貞一 Nikon Digi Camera CoolPix S10

 自然が売り物のはずの沖縄に、ビーチ風の人工砂浜、しかも泳いでいいのだか悪いのだかわけの分からない立て札で、役所の所管(なわばり)を主張している。背後には沖縄風とは言えない小さな公園があり、そのさらに後ろにシャワーコーナーの付いた売店が控えている。


古宇利島の人工海浜?
 撮影:青山貞一 Nikon Digi Camera CoolPix S10

 利用者にとって不便きわまりないし、沖縄の風情もない。今は「季節はずれ」(といっても27度くらいある)だから、観光客が少ないのかもしれないが、観光シーズンでも観光客を引きつける場所には見えない。

 公園に表示されている島の説明(実際は「古宇利大橋」の説明)には、土木工事の設計図をそのまま縮小したような趣味の悪い橋の図面がついている。これ1つみても、訪れる来る人を引きつけようというセンスがカケラもないことが分かる。


古宇利島の案内板
 撮影:青山貞一 Nikon Digi Camera CoolPix S10

 この島にも実は自然な海岸があることが後で分かった。島の北側である。ただし、車で島を一周してもどこから入っていいのか、そもそも海岸があるのかどうかすら分からない。「縦割り行政」を象徴する環境省の名前の入った「古宇利等自然ガイド」という看板に自然海岸として示されているだけである。ちなみにこの看板には「海水浴場ではありません」と水産庁の言う人工海浜に「ビーチ」と表示している。海水浴場以外の場所をカタカナで「ビーチ」と表示するだろうか。

 橋の上から海を見下ろすと、東側には小さな魚の一群、西側にはたくさんのなまこが見えた。

 古宇利大橋ほど大きくなくとも沖縄には沢山の橋が周辺の島にかかっている。確かに橋があれば自動車で渡るのは簡単である。だが、橋を使って簡単に渡った観光客はそのまま簡単に本島に帰ってしまう。島に特に魅力的な観光資源、自然資源がなければなおさらのことである。しかしこれがフェリーだったらどうだろう。フェリーそのものが、地元の雇用になるし、フェリーで一旦渡った来訪者はせっかく渡ったのだから、島を満喫してから帰ろうとするだろう、自ずと島で消費もする。フェリーで渡る時間そのものが、非日常的でちょっと「ワクワク」するひとときではないだろうか。

 筆者が昨年、カナダ・ノバスコシア州にゼロ・ウェイスト政策の視察に行った時も、ケープブレトン島の河口の洲の短い区間ではあるがフェリーを使った。長い橋をかけずにそこだけフェリーにしてあるのである。地元の人にとってみればやや不便(十分ほどの待ち時間を要する)かもしれないが、外から訪れた私たちにとってちょっとした楽しい時間だった。


古宇利島に向かう全長2kmを超す立派な橋?
 撮影:青山貞一 Nikon Digi Camera CoolPix S10

 コンクリートで出来たハコモノ、道路、橋がいかに地域振興に役に立たないか、日本全国に事例は事欠かない。それでもまだ公共事業という工事がわずかな期間落とす金のために、地域の大切な資源である自然・景観・文化歴史を破壊することを厭わない自治体は沖縄だけではない。別のコラムで紹介した(珍しいことに)国交大臣が地元に見直しを求めている鞆の浦の埋め立て架橋もその一例であるし、沖縄の資源もまさに同じ構造によって失われてきたのだと強く実感した。

 その後、沖縄の文化と風土を活かした名護市役所の庁舎の横を通り、ホテルに戻った。名護市役所は建てた当時はピンク色がきつく品がないと感じた人もいたそうだが、現在はちょうどよく色あせ、壁面の要所にシーサーが配された建物にはとても味があった。次の機会には歩いて建物を見学したいものである。

つづく