2016年3月10日(木)、自然エネルギー財団が開催した 国際シンポジウムREvision2016 自然エネルギー飛躍の時 に参加しました。
自然エネルギーの財団のサイトから動画を視聴できますが、すべて視聴すると1日かかりますので、当日のメモから講演の概要を紹介いたします。メモから作成したものなので、正確な内容を確認したい場合には、上記のサイトより、資料、動画をご覧ください。
■セッション4: 電力市場の変革と自然エネルギー
セッション4では、ドイツで広域のネットワークを管轄し、電力についても関与している独立行政機関から、広い中国の送電の課題に取り組み、世界規模のネットワークを計画している企業から、日本で広域に電力の需給調整、監視している機関から、そして法的分離に先立ち、火力発電、発送電、小売りを分社化した東京電力からそれぞれ報告がありました。
広域の電力の需給調整、計画についての経験を蓄積してきたドイツ、長期的、超広域的な観点からの計画を持つ中国と比較して、よくも悪くも日本は小粒、堅実、控えめであり対照的でした。
モデレーター:高橋 洋
(都留文科大学教授、
自然エネルギー財団特任研究員)
撮影:鷹取敦(Nikon COOLPIX S9900)
FITによりお金の面でのインセンティブは出来た。これからは制度改革が必要。日本は電力自由化でも再エネ導入率でも遅れている。
市場で需給を合わせるデマンドレスポンス、アンバンドリング、広域系統連携。変動型の再エネにはフレキシビリティが必要。どの電源から優先して入れるか。限界費用の小さいものを優先するなら再エネが優先される。分散型でこれらを行う。
改革競争がデンマーク、ドイツで進んでいる。中国は再エネは入っているが、自由化はまだまだ(発送電の所有権は分離されている)。日本は自由化も再エネもどちらもまだまだで、垂直統合型のシステムが維持されている。
撮影:鷹取敦(Nikon COOLPIX S9900)
セッション4の講演者は、日本と海外(ドイツ・中国)、規制・調整と系統の2つの軸で分けられる4名。
●ドイツにおける送電事業と自然エネルギーの統合
−規制機関の立場から
ナディア・ホーストマン
(ドイツ・連邦ネットワーク庁
エネルギー国際調整部長)
撮影:鷹取敦(Nikon COOLPIX S9900)
我々自身も新規参入者。アンバンドル(発送電分離)による任務。経済省の管轄ではあるが、独立した機関。欧州全体で独立機関があったがドイツのは最初の6,7年は独立機関はなかった。
電気、ガス、通信、鉄道など、ネットワーク系を所管している。最初、通信でうまくいったので、電気、ガスに広げた。エネルギーヴェンデ(Energiewende:
大転換)により人員を300名増やす必要があった。
ステークホルダーからの独立、経済省からの独立。透明性の確保。
ドイツでは独立当局(※講演者の所属する連邦ネットワーク庁のこと、以下「独立当局」)は、電気事業者の中でTSO(送電事業者、系統所有者)のみを管轄している。買い取り料金、系統への接続条件など。
アンバンドルで、電力供給と送配電を分ける。まずは法的分離で、最終的には所有(株式)の分離。所有の分離はヨーロッパでも始まったばかり。
96年からの自由化のプロセスはヨーロッパではまだ終わっていない。ドイツのTSO4社のうち所有権分離は2社。独立当局はアンバンドルの認証もしている。
原発の閉鎖により、北部の再エネを南部の消費地へ届けるため、南北をつなぐ必要があるが、系統が古すぎる。系統の増強、強化、新設をTSOと当局が協力して進めている(規制の仕事ではない)。これまではTSOとの連携はしていなかったが、協力関係が強化され、TSOも立法に関わるようになった。
撮影:鷹取敦(Nikon COOLPIX S9900)
●中国における送電事業と自然エネルギーの統合
趙 守和
(中国国家電網公司日本事務所 所長)
撮影:鷹取敦(Nikon COOLPIX S9900)
中国の発電容量が高まっているが、これは課題でもある。再エネは増えているがまだ低い水準。
中国国家電網公司は国土の88%、11億人をカバーしている送電事業者。小売りも行っているが、規制があり規制で決まった価格で消費者に売っている。大規模な消費者とは価格交渉をしている。市場の自由化は遅れている。
よい点は、電力市場の改革を始めたこと。3つの自由化(発電所自由化、産業用の自由化、新しい配電事業者の自由化)、3つの改革、1つの独立。
再エネは市場で取引も。電気料金に加え、再エネファンド、政府予算から追加的な支払いがあり、政策的な支援により競争力が高い。
風力は容量拡大している。風力のリソースは、北西、北、北東に集中しており、消費地である東部からは数千キロ離れているので、輸送が必要。地域連携はほとんどなくボトルネックになっている。そのため超超高電圧(UHV)の送電網を開発している。
撮影:鷹取敦(Nikon COOLPIX S9900)
再エネ統合を解決でき、さらに発展。再エネのグローバル配電。中国国内数千キロ、そしてUHV系統をバックボーンとして2050年までに世界にクリーンエネルギーを送電する計画。化石燃料を置き換えることが出来る。2020年までに国内、2030年までに大陸間、2050年までに更に進める。
●日本の電力系統の新時代
遠藤 久仁
(電力広域的運営推進機関 理事)
撮影:鷹取敦(Nikon COOLPIX S9900)
設立経緯。2011年の震災の計画停電のような事態は避けたい。それを実現する仕組み。
役割は、送配電網の整備の長期計画、需給運用、日々の融通の中央での監視、ルールの策定、系統利用者の利便性。全電力事業者が会員となっている。
将来の需給バランスをチェックし、10年先までの計画を立てている。電力が不足しそうな時は自ら入札を行い調達する。周波数安定のため、調整力、予備力が必要で、見直しを検討している。
撮影:鷹取敦(Nikon COOLPIX S9900)
広域系統の整備計画、電力会社間の系統線増強の検討。需給状態の監視、気温の変動や大きな電源の脱落に対応し指示。系統線の管理。限られた資源をどう使うか。先着優先、空抑え禁止だが課題も。
できてまだ1年。4月からは小売り自由化で新しい状況。
●東京電力の系統運用と自然エネルギーの受け入れ−展望と課題
岡本 浩
(東京電力株式会社 常務執行役
経営技術戦略研究所長、
新成長タスクフォース事務局長、
次世代サービス担当)
撮影:鷹取敦(Nikon COOLPIX S9900)
再エネと電力市場。
4月以降、法的分離の先取りで、ホールディング、燃料・火発、送発電、小売に分社化。福島の復興はホールディングが担い、各子会社にも福島復興の部署がある。福島の復興対応と競争への対応を両立するための分社化。
東電エリアの「パワープール」で、発電と消費をバランスしている。小売り、パワーグリッドは、30分単位で取引をして需給両面からバランス。
トレンドは、4つのD(分散化、脱炭素、デジタル、Disruption)
分散型電源のグリッドへの組み入れ、サービス提供。
燃料調達は中電と組んで統合。
再エネのためのフレキシビリティの拡大を行ってる。ソーラーは6GW、近年中に20GWになるが、揚水発電が10GWあるので調整できる。
再エネの出力抑制を最小化するための広域調整も行う。マーケットメカニズムを活用して調整力の調達も。再エネは変動費ゼロで入ってくるので、ガスタービンで変動分を調整する必要がある。
撮影:鷹取敦(Nikon COOLPIX S9900)
系統の増強には時間がかかるので、現有あるものを有効活用する必要があり、そこのマーケットメカニズムを活用。将来は自動車の蓄電池等の容量も大きくなるので活用できるように。
市場と制度の最適化→ソフトウェア(サイバー空間)→ハードウェア・デイバイスの三層。
●セッション4討論
撮影:鷹取敦(Nikon COOLPIX S9900)
岡本 浩(東京電力株式会社)
・揚水発電の調整力を広域調整に使うことは技術的には可能。どういうマーケットメカニズムにするか。
・1時間前なら再エネの予測ができるので、市場で調達、調整できる。
・30分以内でもマーケットで調整できればいい。
・現状の課題は先着優先。予見性を与え、事業を可能にするために必要ではあるが、一方で後から入れないという問題がある。市場メカニズムで調整することができれば。
遠藤 久仁(電力広域的運営推進機関)
・先着優先の問題をどう見直すか。海外のやり方を参考にしたい。
(発送電分離に関して日本へのアドバイス)
ナディア・ホーストマン(ドイツ・連邦ネットワーク庁)
・まずは海外の間違いから学んでいただくことから。
・自由化をしてもそれほど大規模に顧客は乗り換えないことが分かった。それだと競争が起こらない。
・TSO(発送電事業者)のみでなく、需要家側も変えないといけない。課金を簡素化するなども必要。インターネットポータルでどういうサプライヤーがいるか比べられるなど。
・顧客はコスト削減にならなくても、よりグリーンな電力を選ぶ傾向はあった。
・最初にマスタープランが必要。みなさん(国民、需要家も)意思決定のプロセスに関わりたいと思っている。権限をどう付与するか。
・複数の当局があるので連携が必要。
趙 守和(中国国家電網公司)
・電力市場とともに系統システムを作っていなければならない。より多くの
再エネを入れられるように。北海道のように距離が離れていても対応でき
る。
遠藤 久仁(電力広域的運営推進機関)
・市場原理、情報公開も必要。
・ヨーロッパを参考にして検討したい。
岡本 浩(東京電力株式会社)
・日本は遅れていると言われたが、「伸びしろ」と考えたい。社内でもそう
言っている。
・欧州の経験を学び、日本のテクノロジーを結びつける。
・デジタルが世の中を変えている。
・分散型電源はUberに似ている。固定費をどうシェアするかという考え。
今回のシンポジウムに参加して実感したのは、世界の現実、大きな流れと比較すると日本の現状の問題がよく見えてくるということです。
化石燃料によるエネルギーは地球環境や大気汚染などの環境面だけでなく、投資家の立場なども含め、経済的にも合理性を失いつつあり、現実にその容量は小さくなり、関連する企業が縮小、倒産してきていることが分かります。
一方、政策的な支援により風力・太陽光(ソーラー)発電は、大きく拡大しています。技術革新も進み、コスト的にも化石燃料や原発などの既存の発電に対する競争力をつけてきたことが報告されました。
フレキシビリティの無い、大きな火力発電・原子力発電所を設置して発電するのではなく、小規模な自然エネルギーによる分散型の発電の方が、社会的・経済的なコストやリスク、環境負荷が中長期的に低下することが分かります。
そのような方向に向けて、世界では安定した政策的な支援を行い、化石燃料依存を脱却しつつありますが、日本では2011年3月の東電原発事故以来、ようやく取り組みつつあるとはいえ、十年、二十年遅れているようには見えます。しかも同じ方向を同じスピード感で目指しているているようには感じられませんでした。
このような世界の自然エネルギーに関わる近年、著しく発展し、さらに大きく前進しつつある自然エネルギーをめぐる世界の潮流について、貴重な情報を得る機会を頂き主催者、講演者には心より感謝申し上げます。
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