エントランスへはここをクリック   

私が知事室を去る時に
言いたかったこと


田中康夫

掲載日2006年9月6日



「私達が学び、働き、暮らすこの社会は、一部の予め守られた既得権益者の為に存在するのではありません。私は、政治こそは生活そのものであり、その生活を共にする人々を結び付けるのは言葉であり、即ち政治こそは言葉そのものであると。その思いを私は抱き、この6年間を過ごして参りました。(拍手)この事を理解頂き、御支持頂き、そして共に行動をして下さった全ての皆様に改めて深く感謝を申し上げたいと思います」。

 8月31日の夕刻、県本庁舎前に集った3000人近い県民に、信州・長野県知事としての最後の挨拶を行いました。

 2人の県職員出身者が40年以上に亘って知事を務める中で、「政官業学報」と呼ばれる既得権益者が「排除と翼賛」の論理で利権分配ピラミッドを築き上げてきた山国に5年10ヶ月前、1人で落下傘降下しました。

「何ら後ろ盾の無い、その中に於いて時には悩み、傷付き、そして悲しみ、或いは憤る、こうした私利私欲無き方々の為に言葉を通じて」現場主義と直接対話を実践し、地域から信州を変え、地域から日本を変えるべく、「未来の子供達に借金の山を残さない」と僕は訴え続けました。

 再び巨額の借金をすれば信州に、ダムのみならず超高層ビルを林立させる事も可能です。が、どんなにお金を積み上げようとも他の都道府県は、北アルプスを始めとする美しい山々を手に入れられないのです。

 日本海側と太平洋側へ命の水を供給する水源県としての信州は、「借金の山」ではなく、福祉・医療、教育の"恵みの山"と"緑の山々"を次世代の県民に財産として贈るべきなのです。

 その気概と営為こそは、脱物質主義の21世紀に生きる私達に課せられた真の革新であり、真の保守であります。

 而して、その為にも既得権益者との闘いを「怯まず・屈せず・逃げず」、更には如何なる時に於いてもぶれる事無く、貫き通すべきなのです。

 この文脈に於いて前週も言及した、18世紀後半にイギリスで活躍した保守主義を代表する政治家にして思想家のエドマンド・バークが喝破した真理を改めて拳々服膺すべきです。

 曰く、社会の矛盾や格差が放置され続け、人々が蜂起せざるを得ない事態へと陥る前に、指導者たるもの、民主主義の社会を保持するべく絶え間なき変革を行う先見性を持ち合わせねばならぬ。即ち、真の保守主義とは実は、民主主義を護る為にこそ存在し、故に地域利害に囚われない政事家(ポリティシャン)ならぬ政治家(ステーツマン)が社会に於いて求められているのだ、と。

 翻って、1時間に66億円もの速度で借金が増え続け、僅か5年間で250兆円。総額1000兆円を超える世界一の借金国に陥るも危機感無き政事屋ばかり、「左」「右」の別無く跳梁跋扈する嘆かわしきニッポンです。日本の似非保守も似非革新も、大義の何たるかを露程も把握していません。

 「人々の革命への要求を先取りするような、その結果、人々が革命など必要としなくなるような賢明な政治」の実現こそが真の保守であり真の革新なのです。その気概と覚悟を抱き、生活こそ政治であるとの真理を掲げて今後も奮闘します。

 猶、退任時の挨拶全文は「新党日本」のHPで閲覧可能です。


http://www.love-nippon.com/