風力発電システムの立地選定

〜科学的な適地検討が最重要〜

鷹取 敦
  環境総合研究所調査部長、法政大学工学部講師
青山貞一
 環境総合研究所所長、武蔵工大環境情報学部教授


無断転載禁

 欧米では温暖化対策やエネルギー自立の一環として、大型風力発電装置を数十、小高い里山の尾根などに設置するウィンドファームが広まっている。


ドイツのウインドファーム(出典:Wikipedia)


スペインのウインドファーム(出典:Wikipedia)


デンマークのウインドファーム(出典:Wikipedia)


ウィーン郊外、スロバキアとの国境付近のウィンドファーム
(出典:青山貞一が現地で撮影)



オランダアムステルダム郊外の2枚羽風車のウインドファーム
(出典:青山貞一が現地で撮影)

 我が国でも全国各地で、市町村やNPOが資金を出し合い欧米並の巨大な風力発電施設の立地が盛んとなっている。

 風力発電は、化石燃料やウランを必要としないソフトエネルギーであるが、課題がないわけではない。

 私(青山貞一)がいた長野県環境保全研究所では、この巨大風車がワシ、タカなど猛禽類などのいわゆるバードストライクを起こすものとして、自然環境保全の観点から大きな問題となっていた。

 最近では、大型風力発電に関連した強風時の倒壊や逆に発電が想定していたほどできず、投資が回収できないと言うニュースが相次いでいる。

 これに関連し、たとえば、茨城県つくば市が早稲田大学(橋詰研究室)と共同で進めていた風力発電機の発電量が期待を大幅に下回り責任問題に発展しているという問題というニュースがある。報道によれば発電量は計画の1/600とのことである。

 その他としては、2007年1月23日の読売新聞に大きく報道された青森県東通村に設置された「岩屋ウインドファーム」の倒壊事故がある。


出典:鹿島建設、新エネルギー最前線


 このれはGLからの高さ68メートルにある風力発電機が根元から倒壊したというニュースである。

 つくば市のケースでは、ブレードの直径15mの風力発電機で検討を行い、実際に設置された発電機のブレードの直径は5.3mであったと報じられている。

 責任の所在がどこにあるかは別として、直接の原因は設置した場所の風速が風力発電機が期待する風速よりも遙かに弱かった、ということに尽きるだろう。つくば市は内陸で比較的風が弱いので、風力発電機を設置するにあたっては、まずは局所的な風速の強弱をあらかじめ検討すべきであった。

 青森県の岩屋ウインドファームは逆のケースであった。

 このケースではデンマーク製の風力発電機を採用している。報道によると地形がなだらかで偏西風によって風向きが安定している欧州と、起伏が多く台風が頻発する日本では条件が大きく違う、ことが原因とされている。

 起伏が多くとも起伏に沿った一定の風が流れる場所と、風が巻きやすい場所があるから、設置場所の検討はきめ細かく行うべきであった。

 台風のような強風は日本にしか起こらないわけではないから、デンマーク製だから台風に耐えられないという説は疑問に思うし、風速16〜20m/sで倒壊したということだから台風と比べると遙かに弱い風である。

 風力発電機の設置場所を検討するに当たって、まず知っておかなければならないのは、風の強さは同じ地域でも場所によって大きく異なるということである。

 まず、地面(GL)から離れ地上高が高まれば風速は大幅に強くなる。

 例えば岩屋ウインドファームの風力発電機の高さは中心部までが68m、羽根の直径が62m(半径31m)であるから、羽根の下端(地上37m)と上端(地上99m)では風速は大きく異なる。例えば街中程度に建物が建て込んだ場所では、一般的には上端の高さの風速は下端の高さの風速より3割くらい強い。

 次に地形や建物・構造物などの影響がある。

 これらの影響によって風速は何倍も異なる可能性がある。風の強い地域でも部分的に風が弱いところもあれば、風が弱い地域もで比較的風速が高いところもある。また風がまきこみやすい条件の場所もある。

 例えば岩屋ウインドファームだが、この地域は街中ではなく山間地であり地形の影響を大きく受ける。そこで、仮想的に山間地を想定して風の流れを数値シミュレーション(ここでは仮に2次元流体モデル、Cross-section model を用いた)によって表現してみた。

 風速は周辺部(境界条件)の地上10mで10m/sの場合と20m/sの場合を想定した。

 シミュレーションによって風の流れの方向、強さを矢印で表現したものが図1、図2である。風速は以下に示すような結果であった。


図1 地形の影響を受けた風 境界条件風速:10m/s

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図2 地形の影響を受けた風 境界条件風速:20m/s

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●10m/s
境界条件の風速(地上10m) :10m/s
谷底の風速 : 1m/s
山頂部(風車の足下)の風速 :12m/s
風車の羽の頂上部の風速 :20m/s

●20m/s
境界条件の風速(地上10m) :20m/s
谷底の風速 : 1m/s
山頂部(風車の足下)の風速 :24m/s
風車の羽の頂上部の風速 :40m/s


 これをみると、同じ強風時でも谷底(1m/s)と山頂部では大きく異なるし、風車の足下と羽根の頂上部でも約2倍近く異なることが分かる。

 岩屋ウインドファームで風力発電機が転倒した時の風速は16〜20m/sと報じられた。現場に設置された風速計による測定値とされているが、ひとことで「現場」といっても設置場所によって風速が大きく異なることは、上記の試みのシミュレーション結果をみても分かる。転倒した風力発電機の設置された場所のしかも羽根の上端から下端までの風速がどうであったのか、詳細に現地の状況を検討する必要がある。16〜20m/sどころではない風が吹いていた可能性も否定できない。

 一方、つくば市のケースは小中学校に設置されているということだから、岩屋ウィンドファームのように風に恵まれているとはとても言えない。つくば市が内陸に存在するというだけでなく、市街地はそもそも建物の影響を受けて風速は弱くなるし、小中学校に設置されたのであれば、校舎の影響も想定しなければならない。

 つくばとは風車の種類、設置状況は異なるが、ここでは建物のそばに風車を設置した場合を想定した数値シミュレーション(3次元流体モデルを用いた)を行ってみた。

 図3、図4は実際の学校とは異なるが、住宅地のような場所に設置たことを想定した例である。風の分布図をみると建物の影響によって風の強さも向きも大きく変化していることが分かる。


図3 建物の影響を受けた風(3次元図)
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図4 建物の影響を受けた風(断面図)
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 そもそも風に恵まれない地域、しかも市街地に設置するのであれば、このように建物による風への影響を事前に検討し、年間を通じて出来るだけ風が当たる場所、高さに設置するべきであった。

 風が強いことによる影響、風が足りないことによる発電力不足。風力発電機は決して安価なものではないし、転倒すれば人命に危険が及んだり巨額の損害賠償の対象となることもあるだろう。

 他方、初期の目的、すなわち発電量がそれなりに確保できなければ、設置そのものが全く無意味なものとなる。

 したがって、風車の形状、種類、発電能力、機種などの検討だけでなく、立地地点や設置位置の風況について、きめの細かい検討が不可欠である。

 もちろん、現地での長期調査が一番重要だが、風洞実験で検証された数値シミュレーションと3次元ソリッドモデル(地形データ)による科学的な検討も重要な手段となるだろう。いずれにしても同じ失敗を全国で繰り返えしてはならない。



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