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ロシア外務省:米国がEUにINF全廃条約を導入すれば、モスクワは鏡のような方法で対応する
INF(中距離核戦力全廃条約)解説付

 МИД РОССИИ: МОСКВА ОТВЕТИТ ЗЕРКАЛЬНО, ЕСЛИ США РАЗМЕСТЯТ РСМД В ЕС
RuNews24 War in Ukraine #4337  15 October 2023


ロシア語翻訳:青山貞一(東京都市大学名誉教授)
Translaeted by Teiichi Aoyama, Emeritus Professor, Tokyo City University
E-wave Tokyo 2023年10月16日
ロシア外務省:米国がEUにINF全廃条約を導入すれば、モスクワは鏡のような方法で対応するだろう 写真:RIA Novosti / ナタリア・セリバーストヴァ

本文

 ロシア外務省の不拡散・軍備管理局長ウラジミール・エルマコフ氏はメディアブリーフィングの中で、米国による欧州連合の国々への中・短距離ミサイルの配備に対してロシアも同様の対応をするだろうと述べた。

 同氏は記者団に対し、ロシアによるINF(中距離核戦力全廃条約)システム配備の一方的な一時停止は米国政府の行動に直接関係していると説明した。

 「ロシア指導部が一時停止を宣言する際に使用した、対抗措置の必然性に関する明確な文言には、他の解釈の余地はない」とこの外交官は指摘した。

 これに先立ち、アメリカのジョー・バイデン大統領は、2期目の大統領計画の一環として、西側諸国とともに「世界をより良い場所にする」ために、ロシアとロシアの指導者ウラジーミル・プーチン個人を「抑圧」するつもりだと述べた。」


◆中距離核戦力(INF)全廃条約

 
中距離核戦力(INF)全廃条約は、500~5,500㎞の射程を有する、地上発射型の弾道ミサイル及び巡航ミサイル(搭載される弾頭が核弾頭であるか通常弾頭であるかは問わない)を3年以内にすべて撤廃することを定めた米ソ(ロ)の二国間条約である(英語)。

 正式名称を「Treaty between the United States of America and the Union of Soviet Socialist Republics on the Elimination of their Intermediate-Range and Shorter-Range Missiles(中射程、及び短射程ミサイルを廃棄するアメリカ合衆国とソビエト社会主義共和国連邦の間の条約)」という。1987年12月8日に、米国のレーガン大統領とソ連のゴルバチョフ書記長の間で調印され、1988年6月1日に発効した。条約の履行期限である1991年6月1日までに、米ソあわせて約2,700基のミサイルがこの条約に基づいて廃棄された。なお、条約が廃棄を定めたのは地上配備の中距離ミサイルのみであり、海洋配備や爆撃機搭載のものは含まれない。

 INF全廃条約は、二大核大国が初めて核兵器の削減に踏み切り、特定のカテゴリーの兵器の全廃に合意した歴史的な条約であり、冷戦終結への重要な布石となったことで知られる。また、現地査察やデータ交換を含む詳細な検証メカニズムを導入し、STARTⅠ条約などその後に続く軍備管理・軍縮の検証制度に先鞭をつけた条約である。2019年2月1日、トランプ政権は、ロシア側の条約不履行を理由に、INF条約の履行義務の停止を正式に表明し、6か月後(8月2日)に条約から脱退する意思を明確にした。

経緯

 1970年代半ば、ソ連は東欧において、SS-20中距離弾道ミサイル(IRBM)などの配備を開始した。これらは米本土には到達しないが西欧全体を射程に含めるものであり、欧州はこれらを重大な脅威と受け止めた。北大西洋条約機構(NATO)は1979年12月12日の理事会で「二重決定(dual decision)」方式を採用した。これは、ワルシャワ条約機構に対し1983年末までにINFを撤去する軍縮交渉を求める一方、交渉が実らなかった場合には米国のINFである地上発射巡航ミサイル(GLCM)とパーシングⅡ弾道ミサイルの西欧配備を行うという二重性を持った決定である。

 1981年10月、欧州のINF撤去に向けた米ソ交渉が開始された。しかし結果を出せる見通しがなくなったと米国が判断したことから1983年11月にミサイル配備に踏み切り、交渉は一旦決裂した。1985年3月に再開された交渉は、ゴルバチョフ書記長のリーダーシップもあって無事に進み、条約の対象となるINFも欧州配備だけでなく、グローバルに拡大された。そして1987年12月8日、レーガン米大統領とゴルバチョフ書記長によりINF全廃条約が調印された。条約に基づき、約2,700基のミサイルが廃棄されたのは上述の通りである。

 しかし冷戦終結を迎え、世界の戦略環境は大きく変化した。ユーラシア大陸においては中国に加えてインド、パキスタン、北朝鮮が核武装に進み、ロシアの周辺にINFの開発や配備を行う国が増加した。また、NATOの東欧拡大と米国のミサイル防衛システムの欧州配備をロシアは脅威とみなし、反発を強めた。そうした中、ロシア側からは条約からの脱退を示唆する発言が相次ぐようになった。

 他方で米国は2013年以降、ロシアの条約義務違反に対する批判を繰り返してきた。2014年7月、国務省はロシアが条約違反となる地上発射型巡航ミサイルの生産・実験を行っていると初めて公式に指摘、2017年3月8日には米軍のセルバ統合参謀本部副議長が下院軍事委員会公聴会で、これらの巡航ミサイルがすでに実戦配備されているとの新聞報道を追認した。

 問題となっているのは、ロシアの地上発射巡航ミサイル(GLCM)「SSC-8/9M729」であるが、ロシアは条約違反の指摘を否定しており、逆に欧州配備の米国のミサイル防衛システムが巡航ミサイルの発射にも応用できると反論して米国側の条約違反を非難している。


出典:長崎大学核兵器廃絶研究センター