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公共工事の諸問題
予定価格の原点から考える

その8 英国の多様な工事入札方式(2)

阿部 賢一

2006年10月1日


3. 多様な入札契約方式

 英国における公共工事調達には多様な入札契約方式があり、発注者はその中から最適な方式を選択することができる。現在ではPFI方式、プライムコントラクティング、設計施工一括発注方式の三方式が推奨されている。しかし、VFMが提供されることが示される限りにおいては、従来の設計施工分離方式を採用してもよいとされているが、その場合にはその正当性、妥当性、適切性の説明が求められる。

 しかし、推奨三方式は発注者および入札者双方にとって多大の労力を必要とするため、件数で見ると現状では従来方式の方が多いとの報告がなされている*

*『日・米・欧における公共工事の入札・契約方式の比較』会計検査研究 20059月号

 具体的な工事契約あるいはプロジェクト戦略の面から工事契約方式には二つの視点がある。

 ひとつは価格の提示の求め方、もうひとつは契約方式である。

1) 価格の提示方法による区分

(1)数量内訳書bills of quantities

 数量については、確定(詳細)数量firm、概算数量approximate、暫定数量provisionalの提示区分がある。

総価単価契約である。

標準契約書類としては、GC/Works/1 (1998) Lump Sum with Quantities,

JCT*80 Local Authorities Edition(with quantities)

がある。

 大規模改修工事および新規プロジェクトで金額は25万ポンド以上に採用する。

* Joint Contract Tribunal

(2)価格一覧表schedule of rates

 入札時点で詳細数量が未定の場合の契約で、施工数量は契約単価に基づき測定精算される。

 個々の工種の価格は入札者が提示するか、または公表されている標準単価が用いられる。

 様々な工事のやり方がある場合、一般の工種で値入すると高くなる場合などに用いられる。

(3)一式金額提示simple lump sum contracts

 数量関係書類なしの一式契約である。

 標準契約書類としてはGC//Works/1 (1998) Lump Sum without quantitiesがある。

 発注者の図面および仕様書が十分用意されている小規模工事もしくは競争入札方式では価格を提示させることが困難な工事に採用される。

2)契約方式による区分

(1)従来方式による総価契約方式[traditional lump sum contracts]

 設計施工分離方式による総価契約である。

(2)設計施工契約方式[design and build contracts]

 設計施工契約方式では発注者側のリスクが最小限となり、設計施工請負者が設計・施工の全責任を負う。設計についての考え方から次の三つの方式がある。

a.競争手続をとらずに(特注で)設計者/施工者が指名される。

b.数社による設計提案と価格提示の競争手続の結果、業者が決定される。

c.設計者が設計をある段階まで行い、必要な許認可も取得する。施工業者は設計者の設計を引き継ぎ、実施設計を行って施工する。

 さらに、一回で設計施工業者を決定する方式と二段階で設計施工業者を決定する方式もある。

a.単段階業者選定方式[Single Stage D&B Contracts]

 住宅や施工が容易な建物などに採用される。発注者は要求事項を作成して、6社以上業者と面談して、3社以内に絞込み競争入札手続きを経て業者を決定する。

b.二段階業者選定方式[Two Stage D&B Contracts]

 より複雑で品質上の高さも要求されるようなプロジェクトに採用される。

 第一段階では、概略設計、実施設計作成費用、工事費概算額、概略工程表を業者に提出させる。

 発注者にとって最も経済的に有利な入札書類を提出した業者が第一段階契約を締結する。

 第一段階終了時点で、その業者は発注者が受け入れ可能な設計図を作製して提出するとともに発注者が受け入れ可能な工事金額を提出すれば、両者が合意した工期と金額で施工第二段階の契約が締結される。

 契約締結後、業者は自らが積算して契約した金額を増額しようと試みる傾向がある。

 このため、発注者としては、第一段階の契約条件書で、発注者が工事契約入札用に業者の提出した設計を使用する権利を有する旨を規定すること、第一段階から第二段階に移行するにあたって、コスト管理を行う積算士(Quantity Surveyor)を雇うこと、第一段階の設計が他の業者によって施工可能であることを確認する、などを行う。

 標準契約書類としては、

GC/Works/1(1998) ? Single Stage Design and Build Version

JCT81 ? with Contractor’s Design

などがある。

(3)プライムコスト契約方式[prime cost contracts]

 実費あるいはコストプラス契約。実費精算契約である。発注者は工事の実費に経費(フィー/報酬)を加えて業者に支払う。業者は実費に対して、フィー(報酬)として何パーセントという料率をかけた金額を受け取る。

 この契約は発注者にとって高いリスクが見込まれ最終コストがいくらになるか分からない、契約後のコスト管理が困難な工事に採用される。

 フィー(報酬)の決め方には次のような方式がある。

a.フィー固定契約fixed lump sum fee。請負者にとっては工事の実費が増加してもフィーは増えない。

 標準契約書類としては、

JCT Prime Cost Plus Fixed Fee Contract

がある。

b.スライド方式フィー[sliding scale fee]

 実費が増加するに従ってフィーの料率が減少する方式。

c.目標コストプラス報酬料率方式[target cost plus contractor’s percentage fee]

 目標コスト契約は、工事の実費見積金額と請負者のフィーからなる。実費が当初の見積金額より少なくてすんだ場合は、その差額分について発注者と請負者の受け取り割合を規定しておく。実際の工事費が実費見積金額を超えた場合、請負者はその超過額の支払の全額を受けるか、その何割を受けるかは契約に規定される。

標準契約書類としては、

Engineering and Construction Contract (2rd Edition) - Target Contract with Activity Schedule

がある。

(4)マネジメント契約方式[management contracts]

 マネジメントコントラクターは工事全体をマネジメントすることにより、マネジメントフィーを受け取る。

 フィーは通常工事費に対するパーセント料率である。

 この方式はファーストトラック(fast track)方式であり、設計が完了した部分から工事が発注される。

 マネジメント契約の理想的なかたちとしては、まだ設計が完了しない前に指名されて、ビルダビリティ[buildability]、工程、工事順序と発注などを発注者に助言する体制をつくり、発注者に対する支援を行うことである。各工事契約は数量内訳書付もしくは価格一覧表付総価契約である。発注者は設計チームと契約する。このため発注者は設計についての責任を負う。そしてマネジメントコントラクターと契約する。マネジメントコントラクターは、設計が完了したものから順次、工事契約者を選定して契約を締結し工事を管理する。

標 準契約書類としては、

JCT87 Standard Form of Management Contract

Engineering and Construction Contract (2nd Edition): Management Contract

がある。

(5)コンストラクションマネジメント契約方式[construction management contracts]

 この方式は設計および施工についての経験豊かな人材を必要とするような大規模複合プロジェクトに用いられることが多い。コンストラクションマネジャーは、ビルダビリティ、設計要件に対する助言、設計および工事施工の工程作成、コーディネーションなどの業務をフィーで受け取る。発注者は各工事施工業者と契約を結び、コンストラクションマネジャーは、プランニング、現場マネジメントおよびそれら施工業者のコーディネーションを行う。コンストラクションマネジャーは施工をマネジメントする役割を担うが、資金面のリスクは負わない。

(6)設計・管理契約方式[design and manage contracts]

 設計とマネジメントはマネジメント契約と同様である。違いはマネジメントコントラクターのフィーには工事契約のマネジメントととともに設計についても責任も含まれることである。

 この方式もファーストトラック方式であるが、設計のリスクを業者に負わせる方式である。

 設計が複雑でなく大きな問題もない場合には設計施工(design and build)方式がよい。

 設計・管理契約方式は、大規模複合施設の契約に向いており、設計施工方式を契約する業者が工事資金については全リスクを負うのと違い、そのリスクを負わない。

 設計管理契約方式では、設計施工方式に比べて、品質の管理がしやすく、設計により柔軟性が与えられる。しかし、プロジェクトの相当後半になるまで最終コストがいくらになるかはっきりしない。

 標準契約書類はない。

(7)延長契約および設計変更[extension contracts and variations]

 この契約は、すでに現場にいる業者が設計変更による変更あるいは追加工事を行うためのものである。

 設計変更は、その内容が当初の契約範囲内および工期内のものとし、それを超える場合には別契約を締結する。

 契約条件書は当初の契約条件書とするものとし、その中の設計変更条項に従って行われるものとする。

 追加工事は工期の追加および一般管理費の追加が必要な状態となる可能性があるので、発注者及び請負者双方が事前にその工期とコストを一式金額で合意しておく必要がある。

 この契約は契約条件書の変更規定にもとづいて行われるが、当初契約が固定数量にもとづいてなされている場合には困難が想定される。

(8)定期契約方式[term contracts]

 定期契約方式は、契約範囲が価格表で大まかに定められた継続的な工事に向いている。例えば、維持管理や定期あるいは不定期にある維持管理や些少な工事などである。契約期間は3年から5年に及ぶ場合があるが、どちらか一方の通知により契約が解除される場合がしばしばある。

定期契約方式の種類

a.数量清算方式[measured term contracts]

 通常一般に公開されている標準価格表あるいは標準単価表に基づいて検測精算される。

 空調設備の保守管理、ボイラーの点検など。

b.専門業者定期契約[specialist term contracts]

 エレベーター、窓、清掃などの維持管理関係工事などで一件一式契約。

c.常傭工事・常傭作業(日給労働)工事契約[daywork term contracts]

 請負者はインセンティブがないので一式金額契約に比べてゆっくり仕事をする傾向にあるので発注者側による作業の監督と確認が必要である。作業記録などのチェックが必要である。

4.プライムコントラクティング方式[prime contracting]

 財務省ではプライムコントラクティング方式がプロジェクトの多様性に対応するものであることを認識していた。事実、国防省の機器調達に関してはすでに二十年以上にわたりこの方式が採用されていた。

 しかしながら、1990年代の半ばまで防衛施設庁のプロジェクトには用いられることはなかった。

 財務省は1999年に手引き第5*PFI方式の導入政策を推進した際、防衛施設庁のプロジェクトにPFI方式が採用できない場合に、プライムコントラクティング方式の導入を奨励した。

*Treasury Taskforce Technical Note No. 5 How to Construct a Public Sector Comparator

 PFI方式とプライムコントラクティング方式の大きな違いは、プロジェクトの資金手当である。

 PFI方式では民間資金が手当てされるが、プライムコントラクティング方式では国家予算で手当てされる。

プライムコントラクティング推進プログラムが1990年代後半において大きな前進をとげた。

Building Down Barriers*(障壁をなくす)』という国防省革新的建設調達プロジェクト政策の下で大きく前進し二つのパイロットプロジェクトが実施された。2003年に到ってプライムコントラクティング方式による調達が国防省のプロジェクトや業務の大きな流れとなった。

*“Building Down Barriers”

Prime Contractor Handbook of Supply Chain Management

Section 1 & 2 March 1999

 1997年、国防省防衛施設庁*1と環境・交通・地域省建設局*2が合同で『Building Down Barriers』政策を推進し、2001年に終わった。19993月、『Building Down Barriers』報告書が国防省から公表された。サプライチェーンマネジメント(Supply Chain Management(SCM)についての高い視点からみた障壁撤去手法を提供しようとするものであり、国防省防衛施設庁、当時の環境・交通・地域省、民間からAMEC*3、ジョン・レイン*4*の四者によって支援された建設供給ネットワークプロジェクト(Construction Supply Network Project:CSNP)と一緒にまとめたものである。プライムコントラクティング方式の標準契約書も作成された。

*1 The Defense Estate Organization of the Ministry of Defense

*2 Construction Directorate of Department for Environment, Transport and the Regions(DETR)

*3 AMEC Construction Ltd.: Multi-disciplinary consultancy, Architect, Architectural technician, Building

services engineer, Civil engineering consultant, Interior designer, Specialist consultant, Construction

 manager, Main contractor, Structural engineer.

多分野に渡るコンサルタント業務、建築関係業務、土木コンサルタント、設備関係業務、CM

ゼネコン業務、構造エンジニアリング業務

*4 John Laing Construction: Main Contractor 総合建設業者(ゼネコン)


【注記】

 わが国では、このような事例では、学者、評論家、民間の専門家を集めた委員会、研究会方式で討議が進められ、官僚が作成した原案をベースにして議論をまとめるという方式がとられており、官僚主導で報告書がまとめられることが多い。

 英国では、発注者側の担当者レベルと民間側で一番精通していると認められている業者(専門家)が集まって、議論が進められ報告書がまとめられるというのが一般的なやり方である。


 サプライチェーンマネジメント(SCM)は、個別最適化から全体最適化、すなわち、機能別部分最適マネジメントからサプライチェーン全体の最適状態の維持を目指したマネジメントであり、組織構造も縦型機能別垂直分業から水平型サプライチェーン型に変えるものである。組織の効率は、機能の総和でなく、機能の鎖(チェーン)で考える必要がある、という考え方である。

 プライム・コントラクティングは、建物の調達および保守についての体系的な手法である。施設の供用期間全体にわたるコスト、SCM、バリュー・エンジニアリング(VE)、リスクマネジメントなどが含まれ、完成した建物の効率を相当程度あげるための、最もすばらしいツールであり、テクニックであり、実践である、と国防省はその自信の程を示している。

建設サプライネットワークプロジェクト(CSNP*)

*The Construction Supply Network Project (CSNP)

 CSNPは、建設調達にプライム・コントラクティング手法の実際的な原則を確立するための学習メカニズムとして設けられた。プロジェクトでは、具体的なプロセスと、プライム・コントラクティング調達モデルを支援するためのツール一式、そして多数の重要な成功要因などが確認された。このツールについては開発途上段階にあり、順次改善がなされて広く一般に公開されることになっている。

CSNP*建設プロセスモデル

CSNP: The Construction Supply Network Project

CSNP建設プロセスモデル

プロジェクト開始段階

Inception

[発注者チーム]

発注者のニーズを確立

選択肢の検討

方針要綱案の作成

アドバイザーの任命

定義/資格審査段階

Definition and qualification

[発注者チーム]

プライム・コントラクターの選定

 

[プライム・コントラクター]

プロジェクトプログラム案の作成

本プロジェクトの主要サプライチェーンパートナーを確定する。

基本設計段階

Concept design

[プライム・コントラクター]

発注者の機能要求事項を調査する

プロジェクト要綱案を作成

サプライチェーンを参加させる

可能性のある設計案を作成し事前評価する。

運営コストを最適化する初期段階のGMPを提示する

詳細設計および施工段階

Detailed design and construction

[プライム・コントラクター]

設計を完成させる

建物建設に邁進する

供用期間全体のコストを最適化する

遵守計画書を作成する

施設の引渡し

引渡後の段階Post Handover

[プライム・コントラクター]

遵守していることが実証されるまで監視し保守管理をおこなう。

 プライムコントラクティングの契約価格は固定価格ではなく、目標価格設定方式であることが多く、プライムコントラクターは最高保証価格(Guaranteed Maximum Price:GMP)を提示して契約する。

 実績額との差額については、発注者とプライムコントラクターとの間で、契約書に規定された割合で分け合うことになっている。これにより、民間事業者にコスト節減と新技術導入のインセンティブを与えることを意図している。コストの透明性を確保するために、オープンブック・アカウンティングという、事業に係る経理を発注者および会計検査院(National Audit Office:NAO)に公開して、審査を受ける方法が取られている。さらに、契約期間中、継続的に業務測定を行い、その結果を事業にフィードバックしてたゆまず改善を図るという方法が取られている。

 この方式で大きなコスト節減の実績が上がった理由として、英国では、従来から専属・継続的な元請・下請関係(いわゆる系列)が存在していなかったことが挙げられている。

   従来方式のコスト設定と目標コスト設定との比較

従来方式のコスト設定

目標コストの設定

コストが価格を決定する

価格がコストを決定する

性能、品質、利益(そして、まれにムダと非効率性)はコスト削減の焦点である。

設計は、コスト削減の鍵である。

コストはそれが発生する前に徹底的に管理される

コスト削減は、顧客が推進するものではなく、プロジェクト/設計チームが推進するものでもなく、別の「商取引をおこなう」人々が推進する。

顧客はどの領域のコスト削減をするかのガイドをインプットする。

品質監督者はコスト削減に責任を負う

横断機能チームがコストを管理する。

サプライヤーが設計プロセスに後で関与する。

サプライヤーが早い段階で関与する。

 現在、国防省では、英国全土を五つの地域に大きく分けて、各地域にプライムコントラクター一社(コンサルタントと建設会社のコンソーシアム)とプライムコントラクティング契約を結んで防衛施設関係の建設と維持管理を行っている。陸軍、海軍、空軍のすべての施設の新設・維持補修等、建設に関するすべてのプロジェクトがプライムコントラクティング方式で網羅されている。

 プライムコントラクティング方式は国防省のコスト節減と調達業務改革の進め方は極めて革新的であり意欲を示すものである。

 それに引き換え、わが国防衛施設庁の最近の「官製談合」裁判における幹部の有罪判決、天下り公益法人との随意契約に癒着の実態を見ると、コスト節減どころか逆にコスト水増しに意欲を注いでいることが白日のもとに晒されていることに、わが国官僚群の堕落振りに大いなる憤りを感じる。

つづく