公共工事の諸問題 その9(2) 『この一年の「随意契約」を総括する』 阿部 賢一 2006年12月20日 |
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5.中央競馬会の巨額の随意契約 一方、本論の主題である「随意契約」については、財務省の報告で一段落した感があったが、この年末に至って農水省所管団体の超大型随意契約が明らかにされた。しかし、なぜか全国紙などには報道されていない。 日本中央競馬会(JRA)は中央競馬を独占事業とすることで、競馬事業等で、平成17年度は320億円もの当期純利益を上げ、約2,895億円もの国庫納付金を納めて国家歳入に貢献している。設立当初からの国庫納付金は9兆円を超えるそうである。 そのJRA発注の清掃事業において、入札参加資格がない業者1社を入札に参加させ、平成17(2004)年度だけで11件をこの業者が落札していたこと、加えて、JRAは官報による公告・公示が必要な特定調達契約について、平成17年度の161件中136件で手続きをしていなかったこと、資格のない業者を入札に参加させるなど内規違反の入札をしながら、会計検査院が昨年と今年の決算検査報告で指摘していないことも、本年12月6日、衆院決算行政監視委員会で民主党長妻昭議員の質問で明らかになった。 まったくでたらめな公共調達を行っていたものである。 随意契約が60億円を超えるJRAのファミリー企業、共栄商事(株)*にはJRA職員が役員として天下っている。 JRAには、農水省幹部の天下りは勿論のこと、会計検査院からも天下っている(現在は8代目、農水省関係の会検査を担当していた)。まさに役人の天下り天国である。
農水省、所管団体、そのファミリー企業による「随意契約」の枠組みは、国土交通省、旧道路公団、そのファミリー企業群による内輪での利益の取り込み*とまったく同様の構図である。 JRAと共栄商事との清掃業務契約(抜粋)の最近の実態は以下の通りである。 一般競争 2件 50,866,980円
随意契約 21件 6,063,067,171円
同時期、廣島ケイソウとの随意契約が一件ある。
上記契約資料出典:京都政経調査会HP http://kyoto-seikei.com/06-1211-n3.htm JRAのHPには18年度の入札結果しか公表されていない。 これらの契約実績を見ると、清掃業務関係22件はすべて「随意契約」であり、その理由も「技術的理由による競争の賦財政」となっている。内訳は、共栄商事(株)契約21件(総額60.6億円)、廣島だけが「廣島ケイソウ」との1件(約3,200万円)である。同時期の一般入札は2件とも共栄商事(株)が落札し、約5,100万円である。 共栄商事は、年末から年始にわたる一ヶ月にも満たない期間に、廣島を除くほぼ全国の中央競馬会関係の施設の清掃業務を年間売上高の43%にも及ぶ60.6億円もの契約を獲得している。しかも、随意契約の理由として、さして専門的特殊業務とも思われない場内清掃業務に「技術的理由による競争の不存在」とは、疑問である。 中央競馬会設立以来半世紀を過ぎてもなお、清掃業務が「技術的理由による競争の不存在」などということは、独占で競馬事業をやっておりながら、むしろ独占事業であるが故のコスト削減にあまりにも無頓着であること、ファミリー企業にご執心なことを如実に示すものであり、到底、国民や競馬ファンを納得させるものではない。 平成17年10月31日付の農水省行政評価において、
と報告されている。 JRAが発足した1954年(昭和29年)の競馬の発売金は約112億円であったが、2004年(平成16年)は約2兆9314億円、2005年(平成17年)は、2兆9,025 億7,695 万8,300 円(対前年比98.8%)となり、平成10 年以降8 年連続して前年実績を下回る厳しい結果となっている。(過去最高は1997年の約4兆円) 総務省『特殊法人に関する行政評価・監視結果に基づく勧告』(平成14年1月)でも次のように指摘されている。
地方競馬には廃止の嵐が吹き、中央競馬も8年連続の発売金減少と、競馬事業の環境も厳しくなっている。 この結果は国家納付金の減少となり、国家歳入の減少にもつながる。その中で唯一既得権を満喫しているのは、JRAのファミリー企業のみである。 公共工事同様、毎年事業縮小傾向となっている中で、いつまでも「随意契約」を続けていることは、コスト削減(役人言葉ではコスト縮減)の努力を怠っていると断ぜざるをえない。 6.国土交通省の随意契約に対する取り組み 随意契約については、昭和58年3月16日付けで中央建設業審議会から建設大臣に対し、建議がなされた。 建設省は、これを受けて、昭和59年7月11日付建設省厚発第308号『工事請負契約における随意契約方式の的確な運用について(随意契約ガイドライン)』*を該当先(各地方建設局長、施設等の機関の長、特別の機関の長)宛に出している。 このガイドラインがいつの間にか忘れ去れた。あるいはガイドライそのものが甘いものだったのか。 その後、国土交通省では、平成14年3月27日、「公共工事の入札契約の適正化徹底のための方策検討委員会」を開き、公共工事での不正行為をなくすために取り組む施策の骨子を明らかにした。 その中で、随意契約については、不適切な運用事例が横行しているのを看過できずに、以下のような内容になっている。
随意契約に対する指摘に対応する一層の取り組みを発表しているのである。 しかしながら、本年6月の財務省報告で国土交通省の随意契約は6,652億円、相変わらず繰り返されている「随意契約」の実態が明らかになったのである。 国土交通省の「随意契約見直し計画」(平成18年6月)によれば、
と報告している。 さらに、今後の対策として、(1)計画実施を担保する執行・監査体制の確保、@決済体制の強化、A内部会計監査の重点実施、B地方支分部局等における見直しの徹底、(2)見直し実施の透明性の確保、@電子入札による透明性の確保、A第三者機関による外部委員の活用、(3)契約に関連する制度等の見直しの実施、@公募手続きの導入および企画競争の本格的な導入、A総合評価方式の導入拡大、B複数年度契約の活用、(4)その他の取り組み、等々を行うとしている。 出典:http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha06/00/000613/01.pdf これまで、これらの対策を等閑にしてきたことを認めたことであり、昭和59年7月の「随意契約ガイドライン」も有効に働かず、平成14年3月の「公共工事の入札契約の適正化徹底のための方策検討委員会」の施策も行われてこなかったということである。 今回の「随意契約見直し計画」には、これらについての言及がさっぱりない。過去への反省がすっかり忘れ去られている。 今後数年後ほとぼりがさめたら、同じような事態が起こることは当然予想しておいたほうがよい。国民が監視を怠るといつの間にか、元に戻ってしまうことを肝に銘じておきたい。 7.建設弘済会及び建設協会の実態 本年2月6日の衆議院予算委員会で、民主党の前原誠司衆議院議員から、国交省出先機関、地方整備局の問題が提起された。 前原議員の選挙区は京都であるので、近畿地方整備局の実態を追及したのだろう。 近畿建設協会の役員13人のうち、国交省OB12人、職員403人のうち、省庁OB99人、2000年から2005年の事業収入394億円のうち、近畿地方整備局からの受注が348億円。随意契約がすべてで3,820件。 近畿地方整備局と随意契約したある調査案件5,880万円を民間に4,280万円で丸投げ、1,600万円をピンはねしたと指摘している。小泉首相はこれに対してまともに答えていない。国会予算委員会の質疑応答の実態もまったく空虚で、こうしてすべてがうやむやになるのである。
読売新聞は、国交省所管の八つの公益法人(建設弘済会及び建設協会)が随意契約で受注した業務の多くを民間企業からの出向者に任せている実態を報じた。「出向とは名ばかりで、事実上の“下請け専門会社”との批判もある。国交省によれば、所管の八つの公益法人が平成17年度、非常勤職員として雇用した民間コンサルタント会社などからの出向者は計3,498人、八つの公益法人の職員計2,268人の1.54倍にも達する。 「東建工営」(仙台市)の場合、出向者数は全社員の約8割(133人)、「スタッド」(東京都日野市)の場合、約9割(43人)が出向している。 現在もほぼ全従業員を複数の公益法人に出向させているという会社経営者は、その理由として「出向の形だが、実際は公益法人の仕事をもらうのが目的。この仕事がなくなると会社が立ち行かなくなる」という。 また、ほぼ全員を出向させているというコンサルタント会社も、「天下りを受け入れることもできない小さな会社は、国の仕事を自前で受注することは無理。役所の仕事をとるために、弘済会への出向という形をとるしかない」と話す。」-------読売新聞 2006.4.14 公益法人の専属下請けという重層構造の実態が一般紙に明らかにされたが、業界では既知の常識である。 もう一度【3.国交省の随意契約報告】を振り返ってみる。
建設弘済会の職員の1.54倍もの人数を民間から「出向」させて、上記のいわゆる「補助業務」を行っているのである。しかも、記事で『「国交省」によれば』と書き出しているので国交省もその実態を承知しているということである。 @ABはまことに崇高な文言であるが、その実態は、民間企業からの「出向者」が汗を流しているということである。「中立性・公正性」「秘密保持」などという美しい文言も、これではむなしい限りである。 建設弘済会と随意契約しなくても、民間企業へ委託できるということを如実に示している。 筆者の友人に建設コンサルタント業務を行っている社長がいる。 「公共工事縮減(削減)で君の会社も大変だろう」と問いかけたら、「とんでもない、神風が吹いた。今まで、公益法人の下請け業務もやっていたが、直接契約しろと言われて、社員も俄然忙しくなり、人手不足で手当てが大変だ」という。新聞・TV等で「随意契約」問題が槍玉にあがって、どうやら役所側があわてて、公益法人を中抜きして、直接、民間コンサルタントに発注しているようである。 市民オンブスマン事務局日誌(ブログ)*でも近畿地方整備局、中部地方整備局の天下り法人との癒着状況を追求して奮闘している。中部地方整備局に個別の契約と予定価格、特命随意契約にした理由を情報公開請求したところ、ファイルが1事業所や1契約ごとに分かれており、膨大な請求手数料(約10万円)を取られてしまったという。資料の集中管理化が行われていない。手数料も大変な金額であり、意図的に情報入手を困難にしているとしか思えない。 これが役所側の極めて消極的な「情報公開」の実態である。市民オンブスマンは、特命随意契約などという不透明な契約は許さないという「志」でがんばっている。役所側の姑息な情報隠しが、安易な「随意契約」を発生させている。閲覧手数料自体を廃止する運動が必要であると実感したと報告している。 引用箇所 *http://ombuds.exblog.jp/2189986/ 地方整備局と所管公益法人の間に随意契約がまかり通るもうひとつの原因は、社団・財団法人には、現在、直接情報公開請求をすることが出来ないことが原因でもある。 国と公益法人の間の契約は公開されているが、公益法人から先の契約の実態は追及できないという、「情報公開」のブラックゾーン、抜け穴が最大限に活用されている。 (つづく) |