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女川町復旧復興雑感

産業・雇用編

青山貞一

掲載日:2015年7月6日
独立系メディア E-wave Tokyo
無断転載禁



 女川町の将来を考えるとき、当然のことながら大幅に減少した人口をとどまらせ、逆に増やすことが大切になります。そのためには、当然ながら女川町の産業、企業、雇用が重要なものとなります。

 小規模な町では、どうしても公務員なりそれに準ずるひとの割合が大きくなり財政を圧迫します。他方、電源三法の交付金や補助金依存では福島県浜通りにある小さな自治体の二の舞になることは明白です。

<参考論考>
◆青山貞一:”原発依存症”に陥った福島県双葉町の小さな町の実態

 言うまでも無く、女川町が平成の大合併で周りを囲んでいる石巻市と合併しなかったのは、他のPAZ自治体同様、電源三法の交付金や補助金があってのことでした。

 私が以前行った調査、すなわち全国規模で財政健全化指標で上位、すなわち財政が比較的良かったのは原発立地や基地立地自治体であることが分かっています。しかし、これはリスクと裏腹であり、他力本願に過ぎません。


 下は女川町の概要です。


女川町の概要 出典:Wikipedia

 上記は3.11以前のデータですが、現在、人口は6642人となっています。

 女川町の人口推移について伺ったところ、下のグラフにもあるように30年以上前は1万5千人以上も住んでいたことがわかりました。


女川町の人口      出典:Wikipedia

 女川原発が着工したのは1980年7月8日、運転開始は1984年です。上記の人口推移をみると、原発が稼働してからは、女川町の人口が単調減少していることが分かりました。当然のこととして、女川原発が竣工し稼働すればそれなりの人口増加があるにも関わらず、上記の人口推移をみると、さらに大幅に減少し、現在6642人となっていたのです。


東北電力女川原発の概要 出典:Wikipedia

2000年時点の産業人口

第一次産業:997人、第二次産業:2,256人、第三次産業2,942人(2000年国勢調査)

出典:Wikipedia

 このように原発が稼働してから人口はどんどん減少し、3.11前の2010年時点でほぼ1万人となっていました。そして3.11以降、1万人いた住民は、現在6642人となっているのです。

 3.11以降の人口減少は、地震、津波で住む場所がなくなっていたり町外への移転、さらに原発が停止したための減少と推察されます。

 今後を考えたとき、当然のこととして女川の産業、企業、雇用といえば水産業が重要なものとなるでしょう。

 3.11以前、女川原発が稼働していた時は原発関連の雇用があり、女川港から見えるところに4階建ての鉄筋コンクリートのマンション形式のアパートが3棟ほど見えるように、社員の多くはそこから原発に通っていたようです。


 そこで女川町の原発以外の産業、企業、雇用について伺ってみました。
 
 現在やっと女川漁港では、気仙沼に次いで日本第二位のサンマ漁が盛んで漁業についてはかつての活況がもどりつつあるようです。それはそれで大変喜ばしいことですが、原発が再開された場合どうなるのかが心配です。これは他の地域にあっても同じです。


 おそらく原発と漁業を両立させるのは、難しいのではないでしょうか?

 これについて伺ったところ、大変興味深い返事が返ってきました。

 女川原発立地以前、水産加工の大手企業(おそらく日本水産)が女川町にあったそうです。しかし、女川に原発が立地されるという計画の段階で、その大手の水産会社は、東京都の八王子に移転してしまったそうです。

 日本水産といえば日本を代表する水産加工の企業です。その企業が立地の話しが出た段階で早々と移転してしまったというのです。先見の明があるといえばあるわけです。

 これには驚く、とともに,水産加工や食品関連の企業にとって原発とは共存できないというある意味当然のことが起きていたことを初めて知りました。

 
 ところで、女川漁港に案内されたとき、下の写真の正面に見える大きな白い建物が気になりました。というのも、よく見ると建物の右上にアラビア語が書かれているからです。


女川町の多機能水産加工施設建設(白い建築物)
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix S8 2015-7-4


女川町の多機能水産加工施設建設(白い建築物)
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix S8 2015-7-4

 聞けば、3.11以降にできた魚類を冷蔵冷凍する施設で、中東のカタールからの援助でできた施設だそうです。地元のひとに伺ってもそれ以上わからないとのことです。

 グーグル検索で少し調べてみると、日本財団のWebに以下のような記述がありました。

 「宮城県女川町は津波により、町の人口のおよそ1割が失われる大きな被害を受けた。絶望した人々が復活に向けて立ち上がるきっかけを作ったのは、サンマ水揚げ日本一を奪回するという目標。2012年10月、達成のカギを握る多機能水産加工施設がオープンした。」

とあります。さらに

 「そんなとき、女川にもたらされたのが、カタールからの大型援助である、カタールフレンド基金設立の知らせだった。この基金は被災地の復興のため「子どもたちの教育」「健康」「水産業」の3分野を対象に、資金の提供を目的として設立されたものである。日本財団が本基金の「水産業」の分野での最初の大型支援プロジェクトパートナーとして決定されたことで、女川町の多機能水産加工施設建設の工事がスタートした。」

ということだそうです! 

 それにしても女川港の一角にアラビア文字が入った施設がドカーンと存在しているのはおろどきです。


 女川港で水揚げされる魚種は、以下の通りです。

 ただし、3.11で漁業が停止に追い込まれた後、現在、かつて全国第一位だったサンマが気仙沼漁港のついで第二位になったそうです。

 主な魚種
  サンマ - 2002年度(平成14年)陸揚量全国1位
  イカナゴ
  イワシ
  サケ
  タラ - 2002年度(平成14年)陸揚量全国5位

 女川町は漁業が全面再開されれば、雇用機会も増えることは間違いないとしても、肝心な漁港は、下の地図及び環境総合研究所の3次元流体シミュレーション結果にもとづく影響予測でわかるように女川原発から6km〜7kmの距離にあり、大事故でなくてもひとたび放射性物質が漏えいすれば、風評被害を含め漁業は壊滅的になることは明らかです。


出典:グーグルマップ 


女川漁港、右下に東北電力女川原子力発電所があります
出典:グーグルアース

◆女川漁港概要
 女川漁港(おながわぎょこう)は、宮城県牡鹿郡女川町にある第3種漁港である。女川湾に面する。東日本大震災で被害を受けたがカタールの基金から約20億円の資金援助を受けて整備した冷蔵施設「マスカー」が完成し、関係者による竣工式が2012年10月13日に開かれた。    出典:Wikipedia


女川原発事故時の周辺自治体線量率(直後)と積算線量(1年後)の推計
出典:環境総合研究所

 これは福島第一原発事故後の福島県の小名浜はじめいわきなどの主要漁港を見れば歴然としています。

 さらに石巻市についてもひとたび大事故がおきれば、石巻の漁業も壊滅的な影響をうけることは明らかです。

 原発があることにより電源三法などによる補助金、交付金で女川町の財政が安定化することはあっても、福島第一原発事故で明らかになったように、ひとたび大事故が起きれば、原発依存は不可能になり、かつ漁業は壊滅的な影響を受け、女川町は限界集落化する可能性もないとは言えません。