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中南米の国際メディア
「テレスール」とは
¿Qué es TeleSUR?

:青山貞一(東京都市大学名誉教授)
Teiichi Aoyama, Emeritus Professor, Tokyo City University

独立系メディア E-wave Tokyo 2006年10月29日

ベネズエラ大統領、ウゴ・チャベス氏

 反米、反ブッシュを旗幟鮮明にし、過去何百年と続いたスペインから米国まで、欧米諸国による植民地、分断統治、その結果として抑圧されそして虐げられてきた中南米諸国民が中南米全体として独立するための「共通メディア」を目指すテレビ局が2005年7月24日、ウゴ・チャベス大統領の本拠地、ベネズエラのカラカスで産声を上げた。

 そのテレビ局の名は、Televisora del Sur、直訳すると 南のテレビ。 略称、TeleSUR、テレスールは、中南米諸国を対象とする テレビ局である。本社はベネズエラの首都カラカスにある。

 テレスールのWeb



 周知のように、米国を軸に経済、文化までがグローバル化する国際社会にあって、国際メディアはといえばCNNやBBC国際など、米国や英国など欧米系のものばかりだ。もちろん、中東のアルジャジーラもあるが、圧倒的に強力な国際メディアは米国そして英国系である。

 それら米英系の国際民間放送局に、米国のお膝元である中南米がメディアとして対抗する。その手段としてテレスールは大いに注目に値する国際メディアといえよう。

 テレスールの資本出資比率は、ベネズエラが51%、アルゼンチンが20%、キューバが19%、ウルグアイが10%である。今後、他の中南米諸国も参加する予定だが、ポルトガル語圏であるブラジルは今のところ素材や技術面での協力にとどまっている。

 テレスールは、今年、中南米の国際テレビ局としてははじめてレバノンとイスラエルの紛争の現場に記者兼カメラマンを送り、現地から一週間にわたり、逃げまどうレバノンの国民に軸足を置いたニュースをテレスールを経由し、リアルな映像を中南米諸国に送り続けた。

 テレスールは、ベネズエラ大統領、ウゴ・チャベスの肝いりで設立されたことからも分かるように、将来、それはEUのように中南米諸国の統合の象徴でもあるとされる。

 ベネズエラ大統領肝いりで設立されたことからも分かるように、この国際放送局は、中立の民間放送局とは言えない。しかし、何しろかつてはスペインそして現在は米国に蹂躙されてきた中米諸国が団結し、地域的な独立を達成するための暫定的なメディアとしてみれば、非常に興味深いものがある。

 一方、民間放送局とはいえ、反米を旗幟鮮明とするチャベスが設立した国際放送局への反感を強める米国政府は、テレスール記者の米国政府への取材を許可しないなど、対抗措置を強めている。

 たとえば、同局の放送開始1週間前に、米国下院は「ベネズエラ国民に真実を知らせる」目的で米国当局のベネズエラへの放送を許可する法案を可決した。これはVOA(ボイス・オブ・アメリカ)のように米国がベネズエラ国民に直接電波を送り、米国の言い分を知らせることを意味する。

 なお、テレスール社長を兼任するベネズエラのアンドレス・イサラ公報長官は、米国の対抗措置について次のように語っている。

 テレスール社長を兼任するベネズエラのアンドレス・イサラ公報長官は、テレスールの発足は『強い力を発揮してきた文化帝国主義』に対抗する戦争で、『新しい布石だ』と評価した後、米国が電波妨害をすれば衛星システムではない他の代案でプログラムを送信するとラテンアメリカの通信会社メルコプレスを通じて伝えた。

 さらにベネズエラ副大統領のホセ・ビセンテ・ラグエル氏は「今、米帝国主義は彼ら自身が包囲されているという事実を発見するだろう。その事実はこのチャンネル(テレスール)の発足に反映されている」と述べた。

 このテレスールについては、NHK BS1が「地球特派員2006」として、「“アメリカ メディア支配”への挑戦 ~南米・新興テレビ局を追う~ 」が10月8日(日)後10:10~11:00 放映され、その再放送が10月29日昼にもBS1で放映された。

 NHKの番組紹介は以下

“アメリカ メディア支配”への挑戦
~南米・新興テレビ局を追う~


 「アメリカの裏庭」といわれ、新自由主義を推し進めてきたラテンアメリカでは、最近、左派政権が急速に台頭している。こうした中、去年7月、南米に新たなメディアが誕生した。

 衛星放送で24時間、無料のスペイン語ニュースを放送するテレビ局「テレスール」は南アメリカのテレビという意味、反グローバリズムを掲げ、CNNなどアメリカ中心のメディア支配に対抗することが目的だ。ベネズエラを中心に5カ国が出資、支局を中南米だけでなくワシントンにも開設、いわば南米版アルジャジーラである。

 10月1日に行われるブラジル大統領選挙に向けても「テレスール」は、貧困層の連帯を呼びかける取材を行うが、メディアとして、チャベス政権との距離感があまりに近いのではないかと、懸念する声もある。

 番組では、南米を20年以上取材するフォトジャーナリスト・桃井和馬が特派員として「テレスール」の最新の動きをルポ、メディアをめぐる攻防を通して、大きな変革期を迎えた南米の現状を報告する。スタジオではアメリカ政治が専門の中山俊宏(津田塾大学助教授)と共に議論を深めていく。

 上記のNHKBS1の番組では、チャベス大統領がカラカス市内にある富裕層が使うゴルフ場を強制収容し、貧困層の住宅にすると言う施策をめぐり、テレスールが果たしてどれだけバイアス無く取材ができるかについて桃井氏と中山氏が議論していた。

 しかし、反米を明確にするチャベス大統領の肝いりで虐げられてきた中南米諸国が国際メディアの設置という一点でまとまると言うことと、欧米諸国の民主主義におけるメディアの独立性を同一の軸で評価することには無理があるだろう。

 番組では桃井氏の視点が光っていた。

 もっぱら、欧米日本のメディアがどれだけ時の政権、政府から独立した存在であるかについては、NHKと自民党、フォックステレビとブッシュ政権など、ここ数年の間に起こったことを見ても、決して人ごとではない、と思う。

 以下は現地及びテレスールのニュース、コメントである。

ボリバール肖像の前で開局祝いの演説をするウゴ・チャベス
Vheadline.com

 ラテンアメリカの24時間TVネットワーク『テレスール』が革命の英雄、シモン・ボリバールの222回目の誕生日にあたる7月24日12時(現地時間)、ベネズエラの首都カラカスで歴史的な初めての電波を送信した。

 カラカスのナショナル・パンテオンで開かれた開局記念式で、テレスールの発足はラテンアメリカの魂を呼び覚ますと評価したベネズエラのウゴ・チャベス 大統領は、いま『解放者』シモン・ボリバールの理想はテレスールを通して生きていて、盛んだと感想を述べた。

 テレスールが初の映像をきれいな画質で流した直後、チャベスはテレスール企画会議チームに電話をかけて「これは大ホームラン、立派なゴールのようなものだ。われわれは初のゴールをすばらしく成功させた」と祝ったとキューバの通信社、Prensa Latinaが報道した。

 『南側のテレビ』という意味のテレスールの発足は、ラテンアメリカのニュースを米国とヨーロッパの巨大放送会社が彼らの視点に合わせて歪曲して伝えていることに対抗し、独自の見解でニュースを伝えようとするという意味を持つと評価される。

ベネズエラ、アルゼンチン、キューバ、ウルグアイなど、領域内の左派政府が出資


ウゴ・ラファエル・チャベス・フリアス
Hugo Rafael Chavez Frias
ウゴ・ラファエル・チャベス・フリアス
ベネズエラ 第53代大統領
任期: 1999年2月2日 現職
副大統領: ホセ・ビセンテ・ランヘル
出生日: 1954年7月28日
生地: バリナス州
サバネタ
配偶者:
政党: 第五共和国運動

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

テルスールWebより

 テレスールの最大の株式はベネズエラが所有する。ベネズエラが51%、アルゼンチン20%、キューバ19%、ウルグアイ10%など、領域内の左派政府が大挙してテレスールの設立に参加した。

 テレスールの社長になるアンドゥレス理事とベネズエラ公報長官が「テレスールはわれわれの文化と文明を破壊しようとする民営化と新自由主義の全世界的の殺戮の中で、新しい国際的情報秩序を構築するものだ」とし、領域内の多様なケーブルTVチャンネルとディレクTV衛星システムを通じて、徐々に視聴領域を拡大すると述べた。

 また、テレスール製作スタッフはニュースカイ衛星806により、ラテンアメリカを超え、北米、西ヨーロッパ、北アフリカなどにも放送電波を送出する野心に充ちた計画を伝えた。

 これに対してBBC放送は最低20か国の視聴者がテレスール放送を見るものと観測した。

 現在、アルゼンチンでは地上波チャンネル7、ウルグアイでは地上波チャンネル5、ブラジルではCommunity TV STation、コロンビアではTVカリブ・チャンネルでテレスール放送を見ることができ、ベネズエラではTVファイブとベネズエラTVという二つの国営放送チャンネルを通じて見ることができる。

 テレスールの本部はベネズエラの首都カラカスに置くが、コロンビアのジャーナリスト、ホルヘ・エンリケ・ポテロが報道局長を担当し、ウルグアイ のジャーナリスト、アラム・アアロニアン本部長を担当するなど、ラテンアメリカの著名ジャーナリストが大挙参加している。

 テレスール本部長、「われわれの目でわれわれ自身を見る時がきた」

 これは、政府主導のニュースチャンネルという限界を超える努力と見られる。

 アアロニアン本部長は「多様性と多元主義に基づき、ラテンアメリカ統合を強化する大衆ニュース番組を生産」するとし、米国、アルゼンチン、ブラジル、ボリビア、コロンビア、キューバ、メキシコ、ウルグアイに駐在する予定の独自の特派員と共に、独立プロデューサーが放送に参加することになると製作の方向を明らかにした。

 また「国際的メディアを所有する者の歪んだ目ではなく、われわれの目で、われわれ自身を見ることができる時になった」とし、「米国は私たちを黒や白の観点でながめるが、実際にはわれわれはフルカラーの大陸だ」として、テレスールの電波が米国にも送られるという事実を想起させた。

 一方、横車を押す米国、ベネズエラを対象に放送局を開局する法案を通過させた。

 米国はテレスールの発足に怒りを隠さない。テレスールが発足するという知らせが伝えられた先週、米国の下院はベネズエラだけを対象としたテレビとラジオ放送局を米国政府が設立することを骨子とする法案を通過させた。

 この法案には『一貫性を持ち、客観的で正確で包括的なニュース源をベネズエラ国民に伝える』という内容が含まれている。

 この法案の発議者はフロリダ選出のコナー・マック共和党議員だ。コナー・マック議員は、テレスールが反米・反自由主義の論調を伝え、アメリカ大陸の勢力均衡を害し、米国の脅威に浮上すると述べた。

 テレスールをアルジャジーラTVにたとえたコナー・マック議員は「われわれの裏庭に自由と民主主義は強く残さなければならない」とし、「チャベスは民主主義の脅威であり、自由の敵だ」と述べ、帝国主義者の面目を遺憾なく表わした。

 米国はキューバを狙い、1985年からマルティラジオ放送局を設立し、反キューバ放送を送信している。マルティ放送局はコナー・マック議員の選挙区であるフロリダに位置している。

 ベネズエラ公報長官、「文化帝国主義に対抗する戦争の新しい布石」