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最新ICで
簡易補聴器を製作


青山貞一


2007年1月21日



完成した簡易補聴器


完成した簡易補聴器をつける母


 93歳になる母の耳がかなり遠くなっていたが、いわゆる補聴器は使ってこなかった。

 デパートや家電量販店などの補聴器コーナーに行ってもらえば分かるが、本格的な補聴器は何と25〜27万円もする。

 もちろん、5〜10万円のものもあるが、それにしても高額だ。

 私の周辺のお年寄りは、それら高額の補聴器を買いながら、あまり使っていないと聞く。

 ITや電子機器の進歩はすさまじい。

 にもかかわらずお年寄りなど社会経済的弱者にその恩恵がもたらされていないことにつねづね疑問を感じている。これも一種の格差社会であろう。

...


 お年寄り仲間でも、補聴器について話すことが多いようだ。

 母にその理由を聞くと、高額であること以外に、使いずらい、設定が面倒、修理に時間と費用がかかるなど、いろいろあるようだ。

 その結果、せっかく高額で買いながら使っていないひとが結構いる。

 最近の補聴器はデジタル補聴器などと言ってアナログでマイクから入ってきた信号を一端、A/D変換しデジタル化した後、DSP、すなわちデジタル信号処理している。

 それにより不要な雑音を抑制し音声を明瞭に聞けるようにするだけなく、位相処理することで方向性を出したりと、いろいろ多くの機能をもっている。Ipod紛いに機能がついているものもある。

 とはいえ、最終的にはデジタル信号をアナログ化しなければ音として聞けない。そこでは、@マイク→Aアンプ→Bイヤフォンの3つで構成されていることには変わりない。

...

 超本格的なデジタル補聴器を使いこなすのは超高齢者には難しいし、そもそも20万円以上出せるひとはそういない。

 インターネットで調べてみると、本格補聴器とは別に、集音器などの名称でそこそこ使えるシステムがある事が分かった。

 そこでも基本は、@マイク→Aアンプ→Bイヤフォンである。

 であるならと、いつものようにアキバに出かけ、使えそうな部品を物色してみた。

 製作の前提としては、

 1)まず小型、軽量であること。
 2)使う電池もせいぜい単四2本(3V)であること。
 3)マイク、イヤフォンを含めた部品の総額は3000円
   を超さないこと。
 4)操作が簡単というか、電源スイッチを入れるだけ
   で使えること、

とした。

アンプ

 以前、TDA2009のICを使って本格的なアンプを作ったが、今回は同じメーカ(オランダのフィップス社)のオーディオアンプITのTDA7052を使ってみた。

 このICは電圧利得約で37dBあり3Vでも稼働する。

 今回は簡易補聴器なのでスピーカーを鳴らす必要はない。たかがひとつのイヤフォンをならせば十分、せいぜい50mWの出力が得られればよい。

 以下はTDA7052を使ったアンプの諸元。

電源電圧:DC3〜12V
■最大出力:1.05W(6V〜7V時、THD=10%)
  3V時の最大出力は約100mW
■最大消費電流:300mA
■無信号時消費電流:約12mA
■電圧利得:37dB
■周波数特性:5Hz〜370kHz(−3dB)
■SN比:67dB
■入力抵抗:10kオーム(※電源電圧DC6V、8オーム負荷時)
■適合スピーカ:8オーム

TDA7052のIC
                    長さは1cm


TDA7052を使ったアンプの全回路図


マイク

 これが結構大切。

 アキバをあちこち歩き、最終的に秋月電子で米粒程度の超小型シリコンマイクのエレメントにであった。

 大きさは以下の写真にあるように6mm×4mm程度。厚さも1.5mm程度しかない。しかも、このLSIのなかにマイクと超小型オペアンプも入っている。このシリコンマイクはノウルズ・エレクトロニクス社が開発したもの。
 
超小型のシリコンマイク
            出典:秋月電子

キーボードに置いたシリコンマイク
             黒い部分は梱包部分でマイク本体
             は灰色部分。           
出典:高千穂交易

 以下にシリコンマイクの諸元を示す。

■電圧:DC1.5〜5.5V動作(DC1Vでも動作可能)
■電流:0.35mA
■外付け抵抗・コンデンサでゲインを変えられ
■標準感度:−22dB(1kHz)
■出力インピーダンス:100Ω
■S/N:59dB(1kHz)
■周波数範囲:100〜10,000Hz
■電圧利得 20dB


回路図:左端の○はシリコンマイクのエレメント、
中上の三角はアンプ部


 
性能は上記にあるようにすばらしい。値段は1個で300円、2個だと500円。しかも1〜5.5Vで稼働する20dBのアンプも内蔵されている。


イヤフォン

 これも結構難しい。と言うのも、マイク、アンプの周波数特性は低域から広域までほとんどフラットでHIFIであるが、補聴器に準ずるものとして使う場合には、ハイファイ過ぎると音声の明瞭度がよくなくなる。

 通常のハイファイ用の両耳タイプのイヤフォンではなく、帯域が音声領域をしっかり浮かび上がらせるイヤフォンが欲しい。

 そこで、アキバを探したところ、ソニーのラジオ用イヤフォンにぶちあたった。値段も400円である。ただし、このイヤフォンはパンフにもあるようにハイインピーダンス・タイプなのでそのままでは使えない。

 次に探したのは無線用のイヤフォンだ。ロケットのアマチュア無線館に行ったら特価(120円)で売っていた。これはインピーダンスが8オームでそのまま使える。

 とりあえず上の2種を購入した。


それ以外の部品

 上記以外で必要な部品は、単四×2の電池ケース、電源スイッチ、ケースである。

 以下は必要部品の費用である。

(1)アンプ  1300円
 TDA7025を使った完成品アンプを千石で見つけた。税金を含め1300円。この基板には10kオームの音量調整用ボリュームもついている。

(2)マイク   300円
 秋月電子で1個300円(税込)のシリコンマイクを見つけた。いろいろ試したがこのイヤフォンが周波数特性、感度その他で一番だった。ただし、全体としてハイ・インピーダンスとするためジャックの中に抵抗が入っているので、この部分を削除する。

(3)イヤフォン 400円
 ソニーのラジオ用イヤフォン税込で400円。

(4)その他
 プラスチックケースは100円ショップで。中身(ダブルクリップが20個ほどついている)で100円。単四電池2本用のケースが千石で100円。電源スイッチは150円。

 部品にかかったお金は2350円である。


製作

 製作上難しかったのは、名にしろ米粒大のシリコンマイクに4つ(電源、アース、出力、感度調整)の線を接続することだ。またアンプの利得調整用のコンデンサーは0.47マイクロFで最大となると説明書にあったので0.47を使ってみたが、これだと利得がありすぎ、発振状態となることがある。

 それ以外は面倒はケースの穴開け程度で超簡単。アンプの完成品を使えば、1時間で完成する。

 電池ケース等はねじ類を使わず接着剤で固定した。

外観:赤い帯は、マイクがついている
                  面を示すため。赤い面を上にし
                  て置く。左側に電源スイッチ、
                  右側の黒い突起が音調調整。
内部:全体の1/3弱を電池が占める。
                  右上の緑の基板がアンプ部。
                  左の穴はシリコンマイクエレメント
                  用。2/3に小さくできるが、重さ
                  は大部分g電池が占めている。

操作

 使い方は至って簡単。耳にイヤフォンを入れ、電源スイッチを入れるだけだ。マイク用の穴がついている面(赤い面)を上にする。音量は一端調整すれば後はほとんど調整不要。
 
 音質はマイク、アンプが超高域でフラットなので、ほとんどがイヤフォンで決まる。5種類ほどチェックしたがソニーのラジオ用イヤフォンが歪み、周波数帯域の両方で最も良かった。このイヤフォンは税込みで400円だった。


 母は喜んで使っている。課題は使わないときに電源スイッチをOFFにすることだが、93歳ともなると結構これを忘れる。まだどれだけ電池がもつか分からないが、仮に電池の容量を約1Ah、アイドリング電流を14mA、一日7時間使用するとして、10日間使えるはずである。

 もっぱらテレビだが、今まで自分の部屋のTVのボリュームを上げ目一杯あげていたが、アキバで見つけた40年以上前に使っていた以下のイヤフォンを見つけ、これをテレビのジャックに突っ込んで聞くこととした。電池は使わないですむし、テレビのボリュームを調整して番組を楽しめるようになった。価格はアキバで280円だった!