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米軍基地と公共工事
のまち、沖縄県D
〜泡瀬干潟開発〜

青山貞一、宇都宮朗、坪根将太
武蔵工業大学環境情報学部青山研究室

2007年2月18日、2009年1月31日拡充



2007年2月13日(2日目)夕方

◆嘉手納基地から泡瀬干潟へ

 嘉手納基地での現地調査を一段落した後、私たちは沖縄県の土建的公共事業の典型事例と言われる泡瀬干潟埋め立て現場に向かった。

 私は沖縄サミット直前の2000年6月、WWF及び地元市民団体からの依頼でキャンプ・シュワブ沖に環境調査を行った際、この泡瀬干潟問題が現地で話題となっていた。

 そのときは遠くから干潟一体を見るだけで、現地視察はしなかった。

 嘉手納町から沖縄市の泡瀬干潟がある米軍泡瀬通信施設までは途中沖縄高速道路を横切り、直線距離で10kmと近い。

 最近ではレンタカーにGPSが標準装備されているので、米軍泡瀬通信施設と入力すると、結構容易に目的にアプローチできる。とは言え、目的地近くまで来ると当然後は目視によらなければならい。

 まず通信施設近くの漁港・マリーナまで行った。しかし、どうもここは港であって干潟でない。

 そこで目視で東に行った後、南に移動。やっとのことで米軍泡瀬通信施設のフェンスに到着した。この周辺は基地以外は何ら変哲ない閑静な住宅地であった。

 また通常なら「○○建設反対」とか「○○を守れ」と言う看板などがあるが、この住宅地には見た限りその種の看板は見あたらない。


図12 泡瀬干潟周辺地図。地図の中央が米軍泡瀬通信施設

 以下の衛星写真1は、泡瀬干潟の拡大衛星画像である。画像ではほぼ真ん中に米軍泡瀬通信施設がある。


衛星写真1 泡瀬干潟の衛星写真

 写真44のフェンスには他の基地、施設でも同じだが「在日米軍施設...、許可なき立ち入りは日本国法令により処罰される」という看板ある。


写真44 基地のフェンスにある標識

 以下の写真45は、フェンスの外から通信施設を撮影した写真である。


写真45 米軍泡瀬通信基地

 なかには、以下の写真46にあるような鳥居の形をした施設サインもある。

 英語でNaval Radio Tranmitter Facility 、すなわち海軍電波送信施設となる。この施設は地図で分かるように半島の先端のほぼ全域を占めており、非常に広大である。


写真46 鳥居の形をしたサイン

 フェンスに沿って車で南端まで行ったら、以下の写真47にあるような緑色のコンクリートフェンスが現れた。そしてフェンスとコンクリートフェンスの隙間から広大な泡瀬干潟が見えた。


写真47 米軍泡瀬通信基地最南端

 この地点は以下の図13の地図で矢印が赤から青に変わる点である。


図13  移動経路

 その隙間にそって干潟側に徒歩で行こうとしたが、フェンスには以下の写真48のようなイカツイ警告がある。

 「制限地域では、司令官の許可無くして立ち入る者は違法とする。刑事特別法事項2(法律番号138,1952年5月7日)彼等の管理の下、この施設の全ての者、及び財産は捜索を受けるものとする」、とある。

 ここは日本にありながら日本でない地域である。

 それにしても不可思議なのは、日本国の法律でこのような規定を制定、施行していることだ。

 もっぱら、私たちはフェンスの外(施設外)にいるので何ら問題はないが、何とも気分が悪い。


写真48 最南端のフェンスにあった警告

 金網のフェンスと緑色のコンクリートフェンスの間を通過すると、以下のように、一気に視界が開け海が見えた。


写真49 最南端から泡瀬の海を望む

 まさに以下のような広大な干潟が眼前に展開し始めたのである。


写真50 泡瀬干潟

 米軍通信施設のフェンスは、海(干潟)側にそって延々と続く。以下の写真51では右側が泡瀬干潟、左側が通信施設である。


写真51 泡瀬干潟ぎりぎりまで迫る米軍基地

 眼前に展開する広大な泡瀬干潟。私たち以外、ほとんど人気がなかった。


写真52 泡瀬干潟

 こんな構造の部分もある。
 

写真53 基地フェンスと泡瀬干潟堤防

 写真54はフェンスの網の目から見た通信施設内部。100m級の高さのアンテナが何本も林立していた。


写真54 基地内部のアンテナ群

 一方沖を望遠レンズでよく見ると、クレーンがありこちに林立しており、どうも埋め立てのための堤防を建設していることが分かった。その結果、おおむね、泡瀬干潟開発の規模が分かってきた。下の写真の右側にクレーンがあることが分かる。


写真55 沖合ですでに工事がはじまっている

 私たちはフェンスに沿って北端まで進み、その後、来た道をフェンスに沿って戻ったが、おそらく地元のひととおぼしきひとが数名潮干狩りをしていた。


写真56 潮干狩りをする住民

優遇される補助金、交付金で公共事業:沖縄県の自立はない

 私と同僚の池田こみち氏は、その昔、長崎県からの委託事業で諫早湾干拓事業後の諫早市はじめ湾岸市町村向けの環境配慮指針作成をしたことがある。

 そんなことで長崎県の諫早湾には10回ほど足を運んだことがあるが、何と来てびっくり、沖縄県の泡瀬干潟も諫早湾の干潟に規模は劣るもののかなりの大きさである。ちなみに諫早湾干拓の規模は中央干拓地だけで700ヘクタール以上ある。

 ところで泡瀬干潟埋め立て事業計画(沖縄東部海浜開発計画)は、2000年時点では南西諸島最大の干潟といわれる泡瀬干潟(266ヘクタール)を埋め立て、干潟49ヘクタールが消失するとされていた。

 沖縄県は、答弁書のなかで「埋め立て規模が当初より大幅に縮小されているほか、沖合約二百メートルの出島方式をとり干潟の80%は残ることになった、と環境への配慮を強調して」おり、「市側はすべて市民本位の計画で、市民の利益にはなっても損害が生じることはないと主張。リゾート開発に進出希望が少なかった企業アンケートは一部の企業が対象で不備があった。計画は約十年後で、企業の意向と結論付けるのは早計としている」が、今回の私たちの一連の沖縄県現地調査でも明らかとなったように沖縄県経済が依然として極度な「はこもの」、それも国庫補助率、特別交付金など極度に優遇されている各種公共事業に極度に依存していることには変わりない。
 
 ※ 通常の土木系公共事業への国庫補助の特別補助率に加え
 ※沖縄県への国庫補助率(農業分野)
 ※沖縄県固有の補助金
   米軍基地所在市町村活性化特別事業費補助金
   沖縄北部特別振興対策補助金
   沖縄特別振興対策補助金
 ※沖縄振興r特別振興措置法にもとづく補助率の嵩上げ規定
   公営住宅建設、義務教育施設整備、河川改修等
 ※沖縄に対する特別交付金の創設
   事業量確保のための地方財政措置
 ※離島特別振興補助
 ※その他

 もっぱら、沖縄県では優遇された各種補助金、交付金との関連で、以前から口利き疑惑などが多発している。

 フリージャーナリストの横田一氏は、泡瀬干潟埋め立て事業にからむ疑惑を週刊フライデーで以下のように書いている。

 「沖縄県中央部の沖縄市東側に広がる泡瀬干潟埋め立て、ホテルや公共施設を造ろうという「東部海浜開発計画」。

 01年に一端凍結されたが、沖縄担当大臣だった尾身氏が推進派の尻をたたいて、沖縄市民の約3分の2の署名を集めさせ、工事を再開させた。

 この署名団体「一人で50回書いた」「電話帳から書き写した」などの水増し疑惑が囁かれた。しかも事業自体の必要性についても疑問符がつく。

 『泡瀬干潟埋め立ては、米軍基地に広大な土地をとられているので、沖縄本島東側の海を埋め立てて土地を確保するいうことではじまった。

 しかし米軍再編で沖縄の基地返還が進むことが決まり、土地を造成する必要が薄まった』(泡瀬干潟を守る連絡会・前川事務局長)

 米軍再編に莫大な血税を投入し、その上埋め立て事業を見直さない。娘の選挙対策のためにバラまきを続けていると批判されても仕方がない。」


◆自分の足を食べるタコ状態の沖縄県

 その後、琉球タイムズの記事にあるように、住民団体から泡瀬干潟埋め立て訴訟提起されている。

 限られた県土をタコが自分の足を食べるように、秀逸な自然や生物を痛めつけ、死滅させてきた実態がここにきわまったとしかいいようもない。

 
※泡瀬干潟生物への工事の影響
 
※泡瀬干潟に生息する生物

原告、非合理性訴え/泡瀬埋め立て訴訟
那覇地裁初回弁論/県・市「事業は適正」
琉球タイムズ 2005年7月20日(水) 夕刊 1面

 沖縄市の泡瀬干潟の埋め立て開発をめぐり、五百九十人が干潟に生息する生物や飛来する渡り鳥などの保護を訴え、県と市に事業の予算の差し止めと支出した約二十億円の返還を求めた泡瀬干潟「自然の権利」訴訟の第一回口頭弁論が二十日、那覇地裁(西井和徒裁判長)であった。意見陳述で原告側の代表二人が干潟の保護の必要性と事業の非合理性について訴え、県と市側は事業の適正さを主張し、争う姿勢を示した。

 県側は、原告がずさんだと指摘している環境影響評価について「複数の機関の審査を経ており、ずさんなら審査段階で指摘を受けている」と反論。評価の過程で意見を出さず、公告縦覧後に訴えて出るのは「環境影響評価法の趣旨に反し、違法性を問えない」とした。

 人工干潟で生態系の復元に成功しているほか、移植試験で海草類の順調な生育が確認されていると主張。埋め立て規模が当初より大幅に縮小されているほか、沖合約二百メートルの出島方式をとり干潟の80%は残ることになった、と環境への配慮を強調している。

 市側は「すべて市民本位の計画で、市民の利益にはなっても損害が生じることはない」と主張。リゾート開発に進出希望が少なかった企業アンケートは「一部の企業が対象で不備があった。計画は約十年後で、企業の意向と結論付けるのは早計」としている。

 二百七十五億円の事業費を予測しているが、補助事業で「重大なリスクを負担することはあり得ない」と強調している。

 原告の意見陳述では、小橋川共男さんらが「復帰以後、振興の名の下に自然を切り崩してきた。復帰して三十三年、約二千ヘクタールが埋め立てられ、土地の増加面積が全国一になった。沖縄の豊かな自然はすっかりと変容してしまった」と訴えた。

自然との共生主張/原告指摘「財政破綻の恐れ」

 多くの渡り鳥や、絶滅の恐れが指摘されている海草類の代弁者として、人と生物の共存を訴える泡瀬干潟「自然の権利」訴訟。原告側は、環境影響評価の粗雑さや、埋め立て開発事業の非合理性を主張して、訴訟を通じて干潟の保全をあらためて訴えた。

 原告代表の亀山統一さん(琉球大農学部助教授)は「何年もかけて市民の手で干潟の豊かさを明らかにし、学び、広めてきた。その積み重ねの上にこの裁判があることを確認したい」と訴訟の意義を語った。

 被告の沖縄市側は、将来の支出や契約に対する主張で訴えに具体性がないとして、訴訟の却下を求めている。

 初回の弁論を前にした事前集会で、亀山さんは「かけがえのない自然を失い、財政が破綻してから裁判を起こせと言うのか。自然と共生しなければ人間の未来はないという時代の、行政の態度だとは思えない」などと述べた。

 法廷では、小橋川共男さんに続いて漆谷克秀さん(沖国大教授)が意見陳述し、「沖縄の住民の生活や歴史、文化をはぐくんできた沖縄の海は十二分に埋め立てられた。利用されず、金利負担だけを生み出す塩漬けの土地を周囲にいくらでも目にする。もう海を埋め立てる必要はない」と訴えた。


 以下は、過去における沖縄県における干潟などの埋め立ての歴史である。

 本土復帰後、わずか33年の間に、干潟を含む渚、海浜が実に約2000ヘクタールが埋め立てられている。その結果、沖縄県は、土地の増加面積が全国一となった。

 復帰後、沖縄がもっていた豊饒で多様性を持った自然環境はすっかり変容してしている。秀逸は環境資源を国の税金を浪費し埋め立て、破壊し建設したリゾート施設などの施設がほとんど閑散施設となっているのが実態である。

 いまや日本人の多くは、沖縄に行きながらチンケな人工海浜を見せられ、潤いやすらぎからほど遠いハコモノ主義的なリゾート施設に滞在するより、航空運賃、ツアー料金がリーズナブルとなっている海外のリゾート地を選択しているのが現実である。

 沖縄県は、一体いつまで自然破壊型の公共事業依存をつづけるのだろうか? まさに今の沖縄は極度は「公共事業依存症」に陥っているとしかいいようもない。 

 解説 沖縄本島における干潟等の埋め立ての歴史

 原典:沖縄の渚の現状

 名和・長田・藤井らが作った沖縄本島の調査地図によれば、@埋め立て計画がある渚・干潟は9カ所、A埋め立てによって消滅した渚・干潟は27カ所、B赤土その他汚染の著しい干潟は6カ所あるとされている。

@については、「沖縄の海は、復帰後インフラ整備等の開発にともない多くの自然が破壊された。特に海岸線や湿地帯は埋立開発、土地改良、漁港・湾の整備などで大きく姿を変えていった。さらに赤土や家庭排水によってさらに壊滅的状態に陥っている」され、

Aについては、「埋め立てられた場所の多くは、海岸が開発、整備という名の下に、形を変えて行った。沖縄の海岸線がどれほど変わったかは定かではない。2000年は、日本で最も土地の増えた(埋立の多い)県という名誉?ある報道が流れたほどである」、さらに

Bについては、「沖縄の海は、壊滅的状態である。しかし、その開発の勢いは、弱まるどころか加速し残っている自然を根こそぎ破壊するかのようである。沖縄から海が消える日もそう遠くはないようである」

 ところで、今回視察した泡瀬干潟は、南西諸島(奄美・沖縄)最大の干潟である。

 沖縄の干潟・浅海・湿地帯の多くは、今なお「土地改良」と赤土汚染で瀕死の状態にあるという。

 泡瀬干潟は、たまたま米軍基地に隣接していることもあってこれまで埋め立てられずまた陸地からの赤土の汚染もなく藻場、珊瑚、泥、礫による多様性をもった生態系を保持してきたとされる。

 その環境の多様さ故にそこに住む生物種も多様化しており、生物種は国内トップクラス、たとえば貝だけで270種以上となっており、世界的に見てもシベリアからオーストラリアにかけるシギ・チドリ類の渡り鳥ルートの中継地となっている。

 泡瀬干潟視察後、沖縄市(コザ)内を沖縄北ICまでゆきそこから沖縄自動車道(高速道路)に入り、本部のホテルまで戻った。途中、ゴーヤチャンブルーの専門店で夕食をとる。専門店だけあってすごくおいしい。

つづく