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 沖縄の基地返還跡地で
今度は高濃度のVOC汚染発覚

池田こみち Komichi Ikeda
環境総合研究所 顧問 
Environmental Research Institute

掲載月日:2015年3月25日  独立系メディア E−wave Tokyo

無断転載禁


 沖縄県知事が辺野古問題で国に対して工事の中止要求を表明したその日、タイミングを合わせたように、沖縄防衛局は重要な発表をした。

◆[2015.03.23] 嘉手納飛行場返還跡地内(現沖縄市サッカー場)において 2月6日から2月19日までの間で発見されたドラム缶(17本)の付着物や底面土壌等について(中間報告)

 同日夕方、琉球朝日放送(QAB)、琉球新報、沖縄タイムスなどの記者から本件について問い合わせが相次ぎ、急いで発表内容を確認した。約9700万円をかけて行った調査から明らかになった事実は以下の通りである。

@ ドラム缶付着物
 今回調査した17本のドラム缶のうち、発掘時に強い異臭を確認したドラム缶1本(No.6)の付着物において判定基準値(注1)を超える有害化学物質が検出された。

  1,2−ジクロロエタン(0.19mg/L)
  ジクロロメタン    (9100mg/L)
  テトラクロロエチレン(0.37 mg/L)
  ベンゼン      (0.56 mg/L)

 また、その他のドラム缶 5 本(No.3、4、7、8、9)からも基準値を超えるジクロロメタン、テトラクロロエチレンが検出。(詳細は沖縄防衛局資料を参照のこと)(注1)廃掃法第 12 条第 1 項に基づく金属等を含む産業廃棄物の埋立処分に係る判定基準

A ドラム缶底面土壌
 ドラム缶付着物と同様に、ドラム缶1本(No.6)の底面土壌から基準値(注2)を超える
 有害化学物質が検出された。

  1,2−ジクロロエタン(0.036mg/L)
  ジクロロメタン   (100mg/L)
  トリクロロエチレン (0.040mg/L)

 その他のドラム缶底面土壌 7 検体(No.4、5、7、8、9、11、12)からも基準値を超える ジクロロメタン、テトラクロロエチレンが検出。(詳細は沖縄防衛局資料を参照のこと)(注2)土壌汚染対策法第2条第1項に規定する特定有害物質の溶出量基準

 まず、上記の結果を見る上で注意を要するのは、@のドラム缶付着物については、評価を廃掃法に基づく産廃の埋立基準を用いて判定し、Aの底面土壌については、土対法(土壌汚染対策法)の特定有害物質の溶出基準を用いている点である。そのため、この発表を受けて翌24日の各紙の記事では、基準値の何倍かについて取り上げ方が分かれて読者の間に混乱が広がった。

 琉球新報は、@についても土対法に準拠し45万倍としたのに対し、沖縄タイムスは@は廃棄物なので4万5500倍とした。それぞれ間違いではないが、発見された場所がこれまで同様、嘉手納基地返還跡地で沖縄市がサッカー場として整備している場所であること、また、ドラム缶付着物といっても数十年前に埋められたものが掘り起こされた結果明らかになった物であり、付着物とそれが周辺にこぼれ落ちた土壌との明確な区分が出来ないことから判断し、より安全側にたった評価を行うことが今後の対策の検討の上からも望ましい。

 環境基準や判定基準はあくまでも汚染のレベルを判断し、行政上の判断、措置等を検討するためのものであり、住民にとっては廃棄物であれ、土壌であれ高濃度の汚染が、由々しくも、子どもたちが走り回るサッカー場で発見されたという事実である。

 以下は筆者が取り急ぎまとめたコメントである。コメントが掲載された記事は以下
に示す。紙面の制約からコメントのごく一部しか掲載されていない。

記事挿入

2015年3月24日 琉球新報 33頁


2015年3月24日 沖縄タイムズ 37頁

@ジクロロメタンについて
 
 土壌であるか廃棄物で有るかとは関係なく、9100mg/Lという極めて高濃度の汚染が発見されたことは間違いない。そのような有機溶剤のドラム缶は米軍は、当時、沖縄の一般住民が使用していたとは考えにくく、基地内であることから、米軍が何のために持ち込んでいたのか、またどのくらいの量を使用していたのかの実態解明が必要である。

 金属類の洗浄、油性塗料の溶剤、農薬等の溶剤などとして使用された可能性があるが、通常の土地利用の場所では考えられない濃度なので、工業用・事業用で使用したものが投棄されたか、産廃が違法に投棄されたかしか考えられない。

 新しい汚染であれば、PRTRの対象物質で有り、事業者は使用量、排出量を届け出なければならない物質である。

AVOC類(揮発性有機化合物)の危険性

  米軍が投棄したとすれば30〜40年が経過していることになり、長期間地中で封印されていたため、時間経過があるにもかかわらず依然として高濃度が検出されたということであり、地中の気密性が高かったことを意味している。

 掘り返した場合には、空気中に揮散する可能性も有り、管理を適切に行わないと危険である。土対法の基準値は、その有害物質が口から体内に入った場合を想定しているが、掘り起こした際には揮発したものが大気経由で呼吸器から体内に取り込まれたり、長い間には地中にしみ出して地下水を汚染する可能性もある。ドライクリーニング店などの周辺地下水がトリクロロエチレンなどで汚染されるケースもあるように、一度地下水を汚染した場合には浄化に膨大な時間と費用がかかることになる。

 現在だけでなく、使用されていた頃、投棄された頃などに携わった人周辺の人に影響があったかもしれない。

 ベンゼンなどはVOCの中でも発がん性が高いので注意が必要である。また、ベンゼンに他の化学物質が反応した場合、窒素(N)や塩素(Cl)、炭素(C)などが化学反応してより危険な物質に変化することもあるので注意が必要となる。
 こうした有機溶剤は濃薬類を希釈する際にも使用した可能性があり、先に分析されたダイオキシン類の分析結果と併せて評価する必要もあるだろう。

B処理処分と浄化対策

 高濃度が検出された部分、サンプルだけを産廃として処分するということの繰り返しでは本質的な問題解決につながらない。もちろん汚染が判明した試料については、拡散、流出しないように適切な処分が必要だが、一方で、日本政府として高濃度に複合汚染された基地跡地を汚染されたまま返還され、数億円の分析費や処理処分費を日本側が負担し続ける問題を追求していく姿勢が不可欠である。

 今後、さらに深度方向や範囲の確定のために追加調査を行う場合、掘削した土壌の保管管理は徹底する必要がある。VOCは揮発しやすい。また汚染の範囲とレベルが現時点ではわからないのでどのような浄化対策、技術の摘要が可能かも不明である。 最低限、土対法に準じた広さ、深さの調査は必要だろう。

 もしこれが米国内でのことであれば、国家環境政策法のもと、SUPER FUND法で厳しく対処されることをアメリカ側に突きつける必要がある。

C米国に対する態度

 国民を守る立場から、国は環境省、外務省、防衛相などが連携し、米国に対して原因究明や情報提供などを徹底的に求め、長期的にはこの状況をどう解決できるのかについて特例的な対応についても協議すべきである。 いつまでも、日本政府の費用負担で、その都度掘り出されては分析し「問題なし」として処分するという繰り返しでは国として、また自治体として国民、県民を守っているとは言えない。現行の日米地位協定のもとで、やむなく費用を負担したとしても徹底した責任の追及が必要である。

D徹底した情報公開と説明が不可欠

 今回のドラム缶については、まだその写真すら公表されていないと聞く。結果の評価については、これまでも指摘したように、第三者の専門家も含めて公開の場での議論や検討が不可欠である。沖縄防衛局によるお手盛り的な評価結果では市民が納得しないだろう。また、単なるプレスリリースではなく関係自治体や県民には丁寧な情報提供や説明会の実施は必要である。

 防衛省の一方的な評価判断で「問題なし」との印象を与えるような対応は避けるべきである。