エントランスへはここをクリック   

自然エネルギー財団

REvision2013
シンポ参加記

セッション3

青山貞一・池田こみち
環境総合研究所顧問

掲載月日:2013年2月27日

 独立系メディア 
E-wave Tokyo


 以下は午後のセッション3のプログラムです。配付資料及び動画にリンクしています。



セッション3:
電力システム改革 - 各国の事例と日本が学ぶこと


 セッション3の動画

・ミカエル・オーデンバーリ
(スベンスカ・クラフトナット(スウェーデン国有送電会社)社長兼CEO)
- 国有送電網と競争的電力市場 - 風力発電の爆発的普及 -
配付資料あるいはパワーポイント

・ボリス・シュヒト
(50ヘルツ(ドイツ送電会社)CEO)
- 自然エネルギー時代の電力産業 - 発送電分離は新しい世界の始まり -
配付資料あるいはパワーポイント

・アンネグレート・グレーベル
(ドイツ・連邦ネットワーク庁第3局長) - 独立規制機関の必要性とドイツのシステム改革の成功 -
配付資料あるいはパワーポイン

・高橋洋
(富士通総研主任研究員)
配付資料あるいはパワーポイント

・モデレーター
トーマス・コーベリエル
(自然エネルギー財団理事長)

 午後の第3セッションでは、自然エネルギー財団理事長のトーマス・コーベリエル氏を座長として、実質的に発送電垂直統合そして独占体制にある日本の電力体制をいかにしたら発送電分離させることが出来るかについて、この分野の先進国であるスウェーデンそしてドイツの経験が報告され、それをもとに質疑することとなりました。
 
 なお、座長を務める自然エネルギー財団理事長のトーマス・コーベリエル氏(スウェーデンの元エネルギー庁長官)は、非常にウィット、機知にとみ日本の制度、実態に対する皮肉もたっぷりで聞いていて大変楽しかった(笑い)です。

トーマス・コーベリエル氏(自然エネルギー財団理事長)

 自然エネルギー財団理事長、チャルマース工科大学産業エネルギー政策教授スウェーデン・バイオエネルギー業界で主導的な役割を果たし、2008年から2011年までスウェーデンエネルギー庁長官を務め、同国の再生可能エネルギー社会への転換を牽引した。現在、スウェーデン財団法人産業開発基金「Industrifonden」の役員を務める。政治面では、スウェーデンおよび欧州の環境市民組織やエネルギー・環境関連法案を策定するスウェーデン政府委員会のメンバーとして活動する傍ら、中国の環境と開発に関する国際協力委員会(China Council for International Cooperation on Environment and Development)で低炭 素産業化戦略対策委員会委員を兼任。自然エネルギー財団理事長として、1年の4分の一を日本で過ごしている。

出典:シンポジウムの配付資料より

 最初に問題提起をされたスウェーデン国有送電会社 社長兼CEOのミカエル・オーデンバーリ氏の発言趣旨は以下の通りです。

 問題解決の出発点として、日本が抱える課題は以下の通りです。

(1)発送電の極度な垂直統合がある。すなわち日本では電力会社が発電から送電、最終顧客に至るまですべてを行う垂直統合型のシステムとなっていること、

(2)日本では実質、この分野は独占状態となっていること、

(3)その独占は地方、地域単位で行われていること、

(4)電力料金は政府によって規制されていること、

(5)発電そのものが非効率であること、

(6)送電も非効率であること、

(7)その結果、最終需要者である消費者へのサービスレベルが低いこと

 日本ではあまりにも電気事業法などにより、上記が当たり前のこととして永年行われてきたことから、国民は他国でも日本と同じことが行われてきたと思いがちだが、まさに日本の常識は世界の非常識となっているのです。

 ミカエル・オーデンバーリ氏は、上記を以下のように変えることを問題解決の到達点として提唱していました。

(1)電力システム全体の利用効率を高めること、

(2)電力システムのよりよき資産管理をおこなうこと

(3)最終需要者である消費者に利益・便益をもたらすシステムを構築すること

 そのために、ミカエル・オーデンバーリ氏は以下の具体的提案をされていました。

 現在、日本の電力会社はすべての地域で、消費者への独占的な電気供給を行っている体制にあるが、これを可能な地域から厳密な送電システム監視のもとで、開かれた競争的な供給システムに変えてゆくこと、

 上記を前提に発送電分離を行うこと、また発電と送電の自由競争を行うこと、その上で第三パーティーの送電への参入を保証すること、送電企業に接続・供給義務を課すこと、そして政府は送電システム業者を監視すること

 次にEU法の所有権分離法では次のように規定されているということです。

 すなわち、所有権分離は、<発電・供給事業者>と<送電事業者>の間の利益相反を解決するために明白に効果的かつ安定的な手法であり、このTSOは、非差別的にインフラ投資を促進し、同時に新規参入者への公正なアクセスと市場の透明性のための最も効率的な手法である、とされています。

 以下は、ミカエル・オーデンバーリ氏によるEU法のもとでの送電会社の役割について言及した部分です。

The role of TSOs
┃Own, operate and develop the High Voltage Transmission Grid
┃Manage system operation (i.e. system reliability and short term balancing
┃of production and consumption)
┃Facilitate an efficient electricity market
┃Not an actor in the market, instead a neutral and independent party
┃promoting fair competion conditions

 ミカエル・オーデンバーリ氏は、立法府の役割として、日本でも発送電分離のための立法を行うこと、課税措置と前提となる環境条件の設定を定めること、安全確保のための規制措置と監視を定めることなどを提唱しています。

 ミカエル・オーデンバーリ氏は、上記の措置に対する電力会社の経営者と従業員(労組?)からの反対、電力関連企業、産業からの抵抗、さらに国会での電力業者会寄りの政党の反対、さらに、総じて政治が国民の意向を無視することについても言及しています。さすがですね。

 そして最後にミカエル・オーデンバーリ氏は、発送電分離(TSOを含む)を行うことにより、過剰発電を減らし、消費者へのよりよいサービスと価格がもたらされること、より有効な発電資源の利用がはかられ、結果として環境保全そして電力生産の再編が可能となり、非常に効率的な市場が構築できる

と述べています。

 第3セッションで2番目に登壇されたドイツのボリス・シュヒト氏は、ミカエル・オーデンバーリ氏の発送電分離を軸とした電力業界再編論を受けて、自然エネルギー時代の電力産業 - 発送電分離は新しい世界の始まり -を報告されました。下のグラフにあるように、ドイツでは、今後、現在の3倍程度までの大幅な送電会社の躍進が予想されています。


出典:ボリス・シュヒト氏(50ヘルツ(ドイツ送電会社)CEO)

 さらに4番目に登壇された富士通総研の高橋洋氏もミカエル・オーデンバーリ氏の政策提言同様、日本の電力システム改革の展望 〜発送電分離の断行を〜と題し、日本における発送電分離の必要性を分かりやすく述べられました。


出典:高橋洋氏(富士通総研主任研究員)


出典:高橋洋氏(富士通総研主任研究員)


出典:高橋洋氏(富士通総研主任研究員)


出典:高橋洋氏(富士通総研主任研究員)

 第3セッションに登壇されたスウェーデン、ドイツ、日本の発表者の提言は至極もっともと感じました。

 しかし、日本はなまじの社会主義国より強固な官僚システムと護送船団、談合的な企業、産業的体質をもった国です。

 その日本においてミカエル・オーデンバーリ氏はじめ各氏の政策提言がどこまで可能となるかは、予断を許さないところでしょう。

 ましてあまりにも稚拙な民主党政権が崩壊した後の自民党政権下、どれだけ発送電分離を軸とした電力業界改革が行われるか、国民は大いに注視する必要があると思います。

 これは、分野は異なりますが、世界に冠たる日本の巨大メディアにおけるクロスオーナーシップ分離(解消)やテレビ業界における欧米並みの電波利用オークション制度の創設でも同じだと思います。
 
 民主党政権発足時、数社で巨大な発行部数を占めて日本のメディア界を支配する日本の巨大メディアに、上記の制度改革を問題提起した総務大臣らは、ことごとく激しいバッシングに遭い、その後、それらの改革を推進する国会議員はほとんどいなくなりました。

 まして、既得権益、現状追認の元祖、自民党政権下での政官業学報ペンタゴンが、電力業界の一大改革に着手するか大いに見物だと思います。まずは、私達国民が日本の常識がいかに世界で非常識となっているかについて認識することが第一歩だと思います。

 その意味で、この国際シンポは非常に有意義なものであると考えます。


夕方のセッションにつづく