青山 貞一 環境総合研究所所長 左: 初出の岩波書店「世界」2002年9月号の表紙、 右: 韓国語に翻訳出版された「Emerge」2002年11月号の表紙 |
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★はじめに:米国の世界一国支配とエネルギー争奪 |
ブッシュ大統領は、就任直後にイラクを攻撃し、9.11の同時多発テロ以降はアフガンへの徹底したテロ掃討戦争を展開した。 2002年1月29日にブッシュ大統領が行った一般教書演説ではイラク、イラン、北朝鮮を「悪の枢軸」と名指し、年内にもイラクに踏み込む構えを見せている。 そのブッシュ政権は、同時に地球温暖化防止のための気候変動枠組条約(京都議定書)や核実験全面禁止条約(CTBT)さらに米ロ弾道弾迎撃ミサイル制限条約(ABM)など、国際的にみてきわめて重要な公約を次々に反故にしてきたのである。 このようなブッシュ政権をさして、専門家は国益至上主義、一国主義、孤立主義など新たな保守主義と性格づけている。しかし、果たしてブッシュ政権はそんな形容に値する生やさしいものであろうか。 世界人口のわずか4%にすぎない米国一国は現在、世界のエネルギーの約4分の1を消費している。 他方、米国は世界の総軍事費の3分の1以上を支出している。これは冷戦終結後ほぼ一貫したものであったが、ブッシュ政権誕生後、エネルギーと軍事をめぐる米国の動向は一層鮮明なものとなってきた。 圧倒的な米国の軍事力を背景とした中央アジアや中東の石油、天然ガスそれにパイプライン敷設などへの露骨で執拗なかかわりである。その典型事例がいうまでもなくアフガン戦争である。 私見では、アフガン戦争は「21世紀の新たな戦争」であるとか、「正義の闘い」と言う、いわばテロ報復戦争を正当化する口実とは別に、きわめて重要な側面があると思う。端的に言えば、エネルギー資源にかかわる新植民地主義あるいは新帝国主義とでも言えるものである(1)。 本稿は、米国がなぜアフガン、イラン、イラクなどの中東諸国や中央アジア諸国に執拗にこだわるのか、なぜブッシュ政権となってからそれらが顕在化したかについて、具体的データと情報を駆使し検証する。 そこにはガリバー化した軍事力を背景に新植民地主義や新帝国主義を展開する米国の姿が見えてくる。 |
★世界の軍事費・軍需産業と米国 |
世界の軍事費は、第二次大戦後の1950年に2670億ドルだったが、1984年に1兆1440億ドルと最高潮に達した。だが冷戦構造の終結とともに減少に転じた
図1に示すように2000年の世界の軍事費はおよそ7000億ドルである。その内訳は米国が全体の36%で2500億ドル、ロシアが760億、中国が650億、日本が440億、フランスが430億、ドイツが380億、英国が340億である。 これら7ヶ国が全世界軍事費に占める割合は78%であった。表1には同時多発テロが起る前の2001年度データも掲載している。9.11前の総額は7980億ドル、7カ国の割合は67%と11%減少しているものの米国の割合は37%と依然として断然多い。 このように冷戦終結後、世界の軍事費は一端は減少に向かった。これは主にCISの急激な落ち込みによるものだが、米国だけは冷戦終結後も増加の一途をたどり、ガリバー化している。表1は如実にそれを示している。 |
図1 2000年度の主要各国の軍事費 | 図2 2001年度の主要各国の軍事費 |
米国の軍事費のガリバー化を決定的なものとしたのは、2001年9月11日の同時多発テロである。米国はテロ対策を口実に対テロ戦争を拡大し、大幅に軍事費を増加させている。2002年1月29日、ブッシュ大統領が行った上下両院合同議会での一般教書演説では、@対テロ戦争の拡大、A本土防衛の強化、B経済回復について触れ、とりわけテロ戦争の拡大を強調した。 イラク、イラン、北朝鮮を「悪の枢軸」と名指し、イラクには2002年内にも軍事行動を辞さないとまで言明している。これを受け2002年2月4日、ブッシュ大統領は予算教書を上下両院に提出した。それによると2002年10月から2003年9月の軍事予算は前年度比で15%増、2002年度の予算教書対比で22%増とされている。仮に2002年度の世界の軍事費総額を8500億ドルとした場合、米国一国が実に40%近くを占めることになる。 次に、軍需産業面を見よう。表2は契約高で見た2001年度の世界の軍需産業ランキングである。米国は北朝鮮やパキスタンなの核拡散だけでなく、他国の通常兵器などの武器輸出もことあるたびに牽制し続けている。だが、表の20社を見ると米国の軍需企業が11社と過半を占め、米国の上位3社の総契約額は20社総額の40%以上を占めている。 |
ところで、同時多発テロ後のアフガン攻撃と対テロ戦争拡大のなかで、米国の軍需産業は空前の利権を得ている。アフガン戦争直後の2001年10月26目、米国防省は次世代戦闘機の開発と製造を軍需企業のトップ、ロッキード・マーティンに委託することを決めた。 受注契約高は2000億ドル、実現すれば史上空前の契約となる。2000億ドルと言えば表2の総額1105億ドルの約2倍である。ロッキード社が獲得した戦闘機の生産は米国用にとどまらず、同盟国英国、日本などでも、今後主力の戦闘機になる。 主力戦闘機は、F16戦闘機やA10攻撃機、FA18戦闘機などに代わるもので、空軍1763機、海軍480機、海兵隊609機が購入予定されている。英国も空軍と海軍が150機購入、米英だけで約3000機の需要になる(2)。 史上空前の契約後、ロッキード社の株が高騰し、CEOらは「不況のなかこの受注によって危機を脱した」と述べている。まさに米英では軍需産業が最大の公共事業となっていることが分る。 |
★世界のエネルギー情勢と米国 |
筆者は、「米国のテロ報復戦争の愚」(1)の中で米国が中東で起こす戦争には、いつもエネルギー争奪や権益の確保があると言ってきた。これは第一次中東戦争でも、湾岸戦争でも、アフガン戦争でも変わらない。そこで次に、世界のエネルギー情勢と米国の関係について見てみたい。 2000年時点での世界のエネルギー消費は、石油換算で87.5億トンである。10年前の1990年との対比では11%増である(3)。表3の最新統計によれば、地域別割合は北米が26.4%,欧州18.2%、旧ソ連9.2%、中国7.5%、日本5.1%となる。 北米の割合がEU全体よりも大きく、他地域を大きく引き離している。伸び率では旧ソ連はこの10年間で34%も減少しており経済の凋落がわかる。世界全体の26.4%を占める北米だが、米国はその81%、一国で全世界の23%の消費を占めている。 世界のエネルギー消費を一次エネルギー別に見ると、石油39.4%、天然ガス24.8%と、両者で64.2%を占めている。このうち石油は、米国が全世界の25.2%、日本8.1%、ドイツ4.2%、CIS3.9%、中国5.2%など、米国の消費割合が圧倒的に多い(4)。 1998年から1999年のエネルギーの対外依存率(5)では、米国の全エネルギーの輸入依存率は25.6%、石油が58.4%である。全世界の石油の24.7%を米国、15%を日本が輸入している。 さらに世界の一人当たりのエネルギー消費を1999年の年間電力消費(実績値)で示すと、米国が16mwh/人、1998年対比で25%も増加している。ちなみに日本は6.5mwh/人、ドイツは6mwh/人である。米国人は日本人の2.5倍、ドイツ人の2.7倍の電気を使っていることになる。 |
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次に、エネルギー供給について見てみよう。石油生産量(6)は全世界で現在、1日6534万バーレル、そのうちOPEC加盟国が2781万バーレル、42.6%となっている。国別ではサウジが12.7%で一位、旧ソ連諸国10.9%、米国9.6%、イラン5.7%、中国とベネズエラが4.9%、メキシコ4.7%、ノルウェー4.5%、英国3.8%、UAE3.5%、イラク3.3%、クウェイト3.1%と続く。
1998年末の採掘可能原油量(石油埋蔵量)(7)は、サウジが全世界の25%、イラク11%、UAE、クウェイト、イランが9%、ベネズエラ7%、旧ソ連とメキシコが5%、その他が18%で米国は2%にすぎない。 中東5カ国で世界全体の実に63%、イラクとイランで20%を占めている。可採埋蔵量を同年の生産量で割った可採年数は、1998年末でイラクが140年強、クウェイト130年弱、UAE120年弱、サウジ85年、イラン70年弱と、ここでも中東諸国が圧倒的に多いことが分かる。世界の平均可採年数は44年、米国はわずか7年である(3)。 天然ガスについて見ると、1998年末の埋蔵量は、旧ソ連諸国が全世界の36%、イラン15%、アジア大洋州8%、アフリカ諸国、カタールが7%、中南米、その他欧州が5%、サウジとUAEが4%、カナダなど北米は4%となっている。このように、天然ガス埋蔵量は、旧ソ連諸国と中東諸国をあわせると70%と圧倒的に多い。 このように、エネルギー消費では米国が全世界の約4分の1と圧倒的に大きいこと、またエネルギー採掘量では、石油では中東諸国、天然ガスでは旧ソ連諸国と中東諸国が群を抜いて大きいことが分かる。要約すれば、イラク、イランなど中東諸国とカスピ海沿岸や中央アジアなどの旧ソ連諸国が世界のエネルギー貯蔵庫なのである。 ところで上記の統計には、どいうわけかアフガンがでてこない。これはアフガンにエネルギーがないからではなく、後述するように列強のエネルギー争奪戦略上の思惑からと推察される。事実、北部アフガンには膨大な天然ガスが埋蔵されその一部が生産されていたと言う旧ソ連時代の記録も出ている。では次に、米国がなぜかくもアフガンなど中央アジアにこだわるのかについて見てみたい。 |
★米国の中央アジアエネルギー戦略 |
クリントン政権時代から、米国の石油資本はカスピ海やアラル海沿岸のアゼルバイジャン、トルクメニスタン、ウズベキスタン、カザフスタンなど中央アジア諸国に埋蔵される莫大な量の石油や天然ガスを掘削、搬出し、アジア諸国などに売りさばくと言う戦略をもっていた。ただ、米国は石油、天然ガスをCISやイランをパイプライン敷設で経由しアラビア海、インド洋に搬出するには軍事、政治的にみてリスクが大きすぎることを懸念していた。政情が不安となれば、いつ何時、苦労して得た権益が相手国側に行かないとも言えない。 |
★中央アジアの石油・天然ガス埋蔵量 |
1999年、米下院の委員会でヘリテージ財団代表は、アゼルバイジャン、カザフスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンなど中央アジア4カ国の石油埋蔵総量は150億バーレル、天然ガスの埋蔵量は9兆立方メートルあると推測されると証言した。また、アフガン研究所は、中央アジア4カ国の化石燃料埋蔵量は金額で3兆ドルに上ると報告している。またアフガンそのものについても、旧ソ連占領時代にアフガンの天然ガス探査が行われ、埋蔵量は5兆立方フィートあるという報告があることも分った。 さらに1970年代半ばにはアフガン北部地域で、日産2億7500万立方フィートの天然ガスを産出していたと言う記録もある。だが、当時はムジャヒディーンによるゲリラ活動と、旧ソ連軍撤退後の内戦でアフガンの天然ガスの生産はストップしていた。タリバンが政権をとった後、アフガン国内の天然ガスの生産と販売の権利を持っていたのはアフガン・ガス会社であった。 1999年、図1に示すようにアフガンでマザリシャリフまでのパイプラインの修理工事が開始された。しかし、これはあくまでもアフガン国内市場向けのガス生産であり、輸出向けではなかった。また1999年11月、米国立ち会いのもとトルコと中央アジア関係国がアゼルバイジャンのバクーからトルコのジェイハンに至るカスピ海油田のパイプライン事業計画に調印したが、当時エリツィン大統領は不快感を示した。それはロシアの影響下の中央アジア諸国が米国になびいたからである。 米国による対テロ戦争、アフガン戦争はマザリシャリフから始まった。図6を見れば、なぜマザリシャリフからなのかが分る。アフガンのエネルギーの要所を掌握したと推察できる。 |
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図6 アフガン北部の石油・天然ガス・パイプライン敷設図 出典:テキサス大学オースチン校アフガン地図ライブラリーの地図より青山貞一作成。 |
★ブッシュとエネルギー利権 |
ここでブッシュについて触れておこう。 |
★ブッシュ政権とファミリーの実態 |
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★同時多発テロ直前の隠された会合 |
そして9.110に同時多発テロがおき、米国主導のタリバン掃討作戦がアフガンで展開された。ここで、今まで述べてきた米国とブッシュによる中央アジアのエネルギー争奪と利権について検証して見たい。結論を先に述べれば、事はすべて米国やブッシュの思惑通りに運んだと言える。
筆者は、「米国のテロ報復戦争の愚」(1)を以下で締めくくった。
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