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なぜオバマは「悪い戦争」を
拡大しようとするのか?

Why is Obama Poised to Escalate a Bad War? 

By Daniel Smith,( 21/Feb./2009. Alter Net)
http://tinyurl.com/cexnoj
 Up loded 25 Feb. 2009
独立系メディア「今日のコラム」


 アフガニスタンについて、先週ロバート・ゲーツ国防長官は、この春までに1万5千人以上の増派を行うペンタゴンの提案をオバマ大統領に伝えました。オバマは、アルカイダとタリバンの反政府分子に対するたたかいに軍を増強するという彼の選挙公約の「頭金」として、その計画を了承すると思われます。

 この増派規模は、前線の指揮官の要求に対し約半分に過ぎません。ゲーツは、すぐに新しい要求を持って帰るでしょう。

 この決定は、オバマ自身の選挙公約であるにしろ、オバマの支持者の多くを戸惑わせました。この決定は、アメリカにもアフガニスタンにも配慮を欠いています。結局、アメリカの「重大な国益」は全く考慮されていません。

 ジョージ・W・ブッシュ大統領は2001年9月11日の報復として軍事力の行使を選択しました。そして、外国軍がアフガニスタンに留まる限り、アフガニスタンの人々と政府は、彼らの伝統に基づいた主権を完全に行使しうることができないのです。

 また、この決定は、アフガニスタンで作戦の進捗を上げる事を期待されるアメリカの駐留兵や海兵隊にとっても、前向きな展開とは言えません。イラクの勢力から戦術を受け継いだ「反政府分子」によって、イラクでの恐ろしい代償がアフガニスタンでも繰り返され、二つの国で結びつくでしょう。

 「頭金」として送られる兵力は、陸軍の2個旅団戦闘チームと海兵隊の1個部隊になるでしょう。もともとイラクに派遣予定でしたが、イラクの治安が「改善」し、アメリカ軍の規模が少なくて済むようになったので、アフガニスタンに行く事になった兵力です。1個部隊は、イラクでの展開に備えたトレーニングを終えており、すでに南アフガニスタンでベース・キャンプを設置する作業に入っています。


悪い戦争

 アフガニスタンでの戦争は、「良い戦争(good war)」ではありません。それは、アフガニスタンにとって悪いだけでなく、アメリカの兵士にとっても悪い戦争(bad war)です。オバマは、ゲーツの要求に同意する前に、最近の3つの事態に対し注意深い検討を行うべきでした。

 1番目は、2008年に128人と言う記録的な数の兵士が自殺したと、陸軍がふたたび発表したことです。この記録的な数の代償をもたらした原因を議論するため記録を続ける用意をしていた者は、ペンタゴンには誰もいませんでした。さらに、記録されていない噂話の類はたいてい、金銭的、個人的、法的、仕事関連の問題が原因だと封じ込められています。

 しかし、誰かが記録を精査すれば、最近15か月間の複数の派兵経験、PTSDの発症数と自殺数との間に相関があるのは明らかでしょう。この4年間、自殺者の30%が兵役中に、35%が退役直後に命を絶っています。さらに、複数の作戦に従事した兵士におけるPTSD発症率は、初めての兵役についた兵士よりもはるかに高いのです。

 2番目は、帰還兵の家庭で、家庭内暴力と離婚率の増加が見られる問題です。数か月間、ペンタゴンも知っている通り、兵役についた女性の3分の1が、セクシャル・ハラスメントの被害にあったと告発しました。先週、CBSは、2回に分けたレポートで、全国的な警察の統計によれば、家庭内暴力の50%のケースで、少なくとも一方は軍隊の経験があることが明らかだと伝えました。この10年間で、約90人の女性が殺されています。


■標高に関する問題

 3番目は、アフガニスタンの特殊な地理的条件に関する問題です。アメリカは、増軍の基地をアフガニスタンで極めて起伏が大きく標高の高い場所につくる計画です。

 厳しい環境にもかかわらず、兵士一人ひとりが運ばなければならない武器と保護具の重量は、典型的な3日間の作戦でも130ポンドから150ポンド(【訳註】約59〜68kg!)に達します。わたしは、歩兵隊の小隊長としてでさえ、これに匹敵する重量を訓練で「強行軍」として運べなどと命令したことはありません。

 これは、海軍省が2007年に示した海兵隊一人当たりの推奨携行重量50ポンド(【訳註】約23kg)の実に3倍です。


パキスタンとアフガン国境のKhyber Pass、
いわゆるカイバル峠(Khyver Pass)。(この注は青山貞一)

出典:Chinadaily

 ※カイバル峠遠景  ※カイバル峠遠景2


カイバル峠の位置 Source:Wikipedia

 標高が高く酸素の薄いこと、車が一部使えない起伏の激しい地勢と相まって、必須と見られている装備の重量は、任務からの撤退を促す新しい種類の緊張を作り出すでしょう。

 2007年、アメリカ陸軍は、筋肉または骨格の変形や破損など、25万7千件に及ぶ急性の整形外科的負傷を記録しました。この数字は、2006年より1万件増えています。

 このままでは、物理的あるいは精神的ストレスから、もっと深刻な場合「永久に配備できない」おそれがあるため、オバマがアフガニスタンに派兵しようと計画している数を現在考えている数よりさらに増やして、歩いて兵器を運ぶ人員を軍にもう一度選び出し直させることになるかもしれません。

 その結果、多くの兵士がPTSDに苦しむでしょうが、助けを求めるのを潔しとしないのが、「戦士の文化」のひとつなのでしょう。

 アメリカ市民は、退役兵が、何度も何度も、彼らが強いられる必要のなかった経験によって、精神的にも身体的にもダメージを受けて家に帰ることに疲れきっていました。その経験が、オバマが大統領に選ばれる要因のひとつになりました。

 しかし、オバマがこの方針を変えないならば、「ブッシュが忘れた戦争」は早晩「オバマの戦争」に変わるでしょう。そして、アフガニスタンの民間人とアメリカ兵がこうむるあらゆる損害に対し、ブッシュと同様、オバマも責任を負わなければならないでしょう。

(仮訳どすのメッキー 23/Feb./2009)

 以下は仮訳者のコメント

 オバマ大統領は演説が上手いといわれ、日本でも若い人が彼の演説を真似していると聞きますが、(発音の明瞭さは別にして)果たしてそうでしょうか。確かに、シンプルな語彙を組み合わせてイデオムを作り出す才能はありますね。「One President at a Time」とか「bad war」とか。でも、わたしには、詭弁が上手いとしか感じられません。

 2月17日、オバマ大統領は、国防省で行われた会見で、8月の大統領選挙までの治安維持を名目に、アフガニスタンへ1万7千人以上の増派を承認したと発表しました。これでアフガニスタンだけでも5万5千人の米軍部隊が駐留することになります。しかも、この増派は一時的なものではなく、さらに増える可能性が濃厚です。イラクでの戦争は「愚かな戦争(bad war)」として撤退するが、アフガニスタンの戦争は「よい戦争」として推進する。ここに何ら進歩的な価値観を見出すことはできないでしょう。アメリカのメディアの一部にも、アフガニスタンはオバマのベトナムになるのではないか、といった危機感が見られるようになりました。

 21日には、ペロシ下院議長が議員団を率いてアフガニスタンを訪れ、アフガン「復興」とテロ対策強化に主眼を置いた米国の「新戦略」をカルザイ大統領に伝えたそうです。これがいかに一方的なものかは、後述しましょう。

 しかし、必ずしも増派がスムーズに展開できる情勢でもありません。NATOはアメリカの基本方針に賛成しながらも、具体的に自国の兵を送ることには慎重ですし、中央アジアのキルギス議会は19日、アフガニスタン作戦の重要拠点マナス米空軍基地を閉鎖する法案を可決しました。そこで圧力が高まると予想されるのが、ほとんど無政府状態の日本です。アフガニスタンの戦争拡大を止めるために、日本の運動の努力が今求められています。

 以下は、AlterNetの記事ですが、これを読むと、アメリカ政府やアメリカ軍が、兵士をいかに非人道的に扱っているか、そしてその結果アメリカ社会全体が病弊をかかえるようになってしまったかが分かります。

 そろそろ幻想から醒めなければなりません。

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 国連が発表した報告によれば、2008年、アフガニスタンの戦争で殺された民間人の数は40%も増加しています。昨年アフガニスタンの紛争の結果、2118人の民間人が亡くなりました。そのうち55%が反政府組織、39%が西側諸国の軍隊による犠牲者です。さらに、外国軍に殺された829人のうち、522人が空襲の犠牲者です。アフガニスタンのハミド・カルザイ大統領は、西側諸国の司令官と政治家に繰り返し空襲の中止を訴えましたが、以前チョムスキー教授がインタビューで指摘していた通り、聞き入れられませんでした。

 さらに、空爆は最近ではパキスタンに設けた基地を拠点とする無人機の攻撃によるものが増えています。無人機の攻撃は、軍にとっては安易に行えますが、民間人の被害がかえりみられていない、と国連は非難しています。

 また、アフガニスタンの治安の悪化によって、2008年には人道支援家も38人亡くなっています。ペシャワール会の伊藤和也さんも、残念ながらその一人になってしまいました。この犠牲者数は、2007年の約2倍です。

 イラクの治安改善は、イラク人自身の努力の結果であり、アメリカ軍の成果ではありません。アフガニスタンに外国人部隊が駐留する限り、安定も主権の確立もありえないのです。