東京新聞 2000年4月14日 朝刊

      調整池の水質悪化 漁業被害?も

 長崎県諫早湾で進められている農水省の干拓事業は,湾奥部が通称「ギロチン」と呼ばれる鉄板293枚で閉め切られてから14日で丸3年。この間、堤内の閉鎖性水域となった調整池の水質は環境基準を大きく上回ることが、都内の民間研究所の調査でわかった。汚濁水は水深調整のために月に数回、堤外に排水されており、有明海など周辺海域では、これが原因と思われる漁業被害が出ている。

諫早湾堤防閉め切りから3年

 分析したのは環境問題専門のシンクタンク「環境総合研究所」(東京都品川区、青山貞一所長)。国が堤防閉め切り後の調整池の水質について評価を下さないため、地元住民の依頼を受けて、独自に行った。分析の対象としたのは、堤防閉め切り直前の1997年3月から農水省諫早湾干拓事務所が調整池の5ヶ所で週一回実施している13項目の水質モニタリングデータ。99年10月まで約2年半分、各年ごとに平均値などを算出した。

 その数値を、湖沼類型の緩やかな環境基準と比較してみると、汚濁度の主な指標で有機物を表す化学的酸素要求量(COD)、T−N(全チッソ)、T−P(全リン)は、97年にT−Pが一部で基準を満たした以外、どの項目も基準を大きく上回った。

 また、事業前に行った環境アセス(影響評価)で算出した予測値を実測値と比較すると、CODは予測値が3.0ppmだったのに対し、実測値は2−3倍、T−Nは予測値の約2倍、T−Pは予測値の3−4倍と大幅に超えていた。

 さらに、複数地点の濃度データから、エリア全体の濃度を推定する「スプライン補間法」で解析したところ、年を追って調整池の水質が悪化していることが分かった(グラフ参照)。

 この水質変化について農水省の構造改善局農村環境保全室は「調整池はまだ造成中で水質評価はできない。調整池の水は干拓地工事が終わっていないために、一時的に汚れているだけ。完成後は環境基準をクリアできる」と説明。

 しかし青山所長は「事業前の諌早湾の環境は最高ランクにあった。それだけに、調整池の汚濁が相当進んでいるのは明らかで、環境アセスの予測値もまったく現状を反映しておらず、信ぴょう性に乏しい」と厳しく指摘する。

 諌早湾には下水道が完備していない諌早市の生活雑排水も流れ込んでいるが、かつては干潟によって自然浄化が働いていた。しかし、潮の出入りがなく、干潟が死滅しつつある中ではそれが望めない。調整池の汚濁水は水深調整のために月に数回、堤外に排水されており、有明海など周辺海域で流れ込んだ汚濁水が原因と見られる漁業被害が深刻化している。

 湾の入り口に近い佐賀県太良町漁協では二枚貝のタイラギの漁獲高が堤防閉め切り前は年間二百トン以上だったのが、閉め切り後は半減、十分の一以下となり、昨年はほとんど採れない状態という。

 来年度に始まる「時のアセス」では学識経験者らによる第三者委員会を組織して事業の費用対効果や実施状況などについて検討する。しかし、事業見直し派の環境グループや研究者などは「環境が検討項目に入っていない。メンバーが事業者の国が選んだ委員のみで、これでは正しく事業見直しができない」と批判している。 (東京新聞社会部 佐藤直子記者)

諌早湾干拓事業計画

 長崎県・諌早湾湾奥部の約3分の1の3500ヘクタールを全長約7キロの潮受け堤防で閉め切り、内部堤防で囲んだ約1500ヘクタールを農地に、両堤防間を高潮や洪水対策の調整池とする事業。総事業費は2490億円の見込みで、当初の約2倍に膨らんでいる。
干上がった諫早湾の湾奥部
=長崎県高来町(たかきちょう)で
  

環境基準上回る
 民間団体調査

有明海に汚濁水が流出