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 吉野川河川区域に放置された
廃棄物処分場の後始末
Cその後の検討委員会で明らかになったこと

池田こみち
11 May 2011
独立系メディア E-wave Tokyo
無断転載禁


 2010年7月に開始された「拝原最終処分場検討委員会」も既に8回開催され、大詰めを迎えている。独立系メディア E-wave Tokyoにおいては、これまでに@事業計画及び検討委員会の概要、A現処分場の規模と廃棄物量の推定、B現処分場の埋立廃棄物による汚染の実態と3回にわたり、この事業について問題点を指摘してきた。

 本稿では、最終委員会が来たる7月3日と決まったこともあり、改めて、どのような問題がさらに明らかとなったのかをとりまとめて紹介しておくこととしたい。第4回以降の委員会における配付資料や議事録等については、以下の美馬市のサイトからご覧頂ける。

 ■第4回拝原最終処分場検討委員会(2010年12月12日)
 ■第5回拝原最終処分場検討委員会(2011年2月5日)
 ■第6回拝原最終処分場検討委員会(2011年3月6日)
 ■第7回拝原最終処分場検討委員会(2011年4月9日)
 ■第8回拝原最終処分場検討委員会(2011年5月7日)未掲載
 ■第9回拝原最終処分場検討委員会開催予定(2011年7月3日)未掲載

事業計画の大幅な変更へ
 既にA、Bにおいて、現廃棄物処分場に埋め立てられた廃棄物の量は最終的に推定量を大幅に上回る可能性があることを指摘したが、その後の委員会での議論や追加調査の結果、当初は約11万3000立方メートルとされていた埋立量が覆土等も含めると約22万立方メートルにまで増加することが判明した。なんと2倍近い読み違いである。

 その原因はいくつかあるが、最大の問題は、廃棄物の埋立の深さの見込みが稼働時の実態に即していなかったことである。そのため、ボーリング調査の深さが不足し、なおかつ、ボーリングコアの読み方が不十分であったことが原因である。

 委員会では、保存されていたボーリングコアを実際に確認したが、いくつものコアで、シルト層や粘土層とされたなかに廃棄物の残骸や焼却灰様の層が確認された。

 一方、地下水や地質・地層の専門家からは、現処分場に隣接して計画されている新設処分場の地下水の動きが阿讃山系からの流入、農業用水路である北岸用水路からの表流水の流入、吉野川に流れ込む曽江谷川や吉野川の伏流水などの影響をうけて非常に複雑であるとのことから、現在の水田を深く掘り込んでの廃棄物の埋立は避けるべきであるとの指摘を受け、結果的に覆土分を含め高さ15mのごみの山を築かざる得なくなったのである。

 下図は、既設処分場と新設処分場の位置関係を示したものと、新設処分場の立体模型をもとに作成した図である。模型は、毎回委員会を傍聴している市民がご自身の専門を生かして作成したもので、完成後は委員席の中央に置いて模型を見ながら議論が行われている。


位置図:既設処分場と新設処分場の位置関係(委員会資料より作成)


新処分場模型:岡本静雄氏作成の模型写真をもとに作成

 2011年5月7日に開催された第8回検討委員会では、第7回までの指摘を受けて手直しされたはずの計画案に対し、一部の委員からさらに追加的な細部にわたる技術的な課題の指摘がなされ、現計画は抜本的な見直しが必要であるとの主張が行われた。一方で早く現在の処分場を撤去して堤防を完成させるべきだという推進派の意見も出されていた。

◆主な課題◆
@事業計画の政策立案プロセスと合意形成手続きの面から
 本事業計画は、平成18年度に開催された専門家3名からなるなかばクローズドな検討委員会での議論を経て決定され、地元住民に説明を行い議会で了承を得たものである。しかし、平成22年度の現委員会の審議の結果、廃棄物の量や高さも大幅に見直しが必要となり、改めて合意形成の手続きを経る必要が生じている。 立地の妥当性に言及せず、大幅に計画の内容が変更になったまま、技術的な側面からの安全性についてのみ議論することは著しく妥当性に欠けている。

A環境影響の面から
 既設処分場には大量の一般廃棄物に加え、焼却灰、医療廃棄物、産業廃棄物などが長年にわたって持ち込まれ野焼きも行われていたことから高濃度のダイオキシン類が検出されている。河川保全区域に今のまま廃棄物が放置されることは、下流域に汚染を流出される危険もあることから早急な撤去が求める声が高いことは理解できるが、かといって現計画の新処分場に廃棄物を移動することは、掘り起こし移動する際にもたらされる汚染物質の流出に加え、移動後の新設処分場の安全性に問題があることから逆に周辺住民の不安を募らせることにもなりかねず、抜本的な問題解決となっていない。

B構造物としての安全性の面から
 現計画は、「既設廃棄物最終処分場の再生事業」として国の循環型社会形成推進交付金及び合併特例債でまかなうことを前提としている。事業者である美馬環境整備組合(美馬市とつるぎ町)にとってそれがもっとも財政的な負担が少なくて現実的な計画であるというが、東日本大震災が発生し、こうした公共事業における安全性の確保が見直されているなか、従来通りの処分場の設計標準を満たしている、というだけでは市民の納得は得られない。

 ・吉野川の堤防よりも急傾斜な堰堤(高さ3〜5m、のり面勾配1:1.5)で15mの廃
  棄物の山が支えられるのか。地震時や洪水、台風の時などにのり面に亀裂
  が入り崩壊の危険はないのか。
 ・想定される地震の震度はどの程度まで見込んでいるのか。一般的な構造設
  計基準では不十分ではないか。
 ・新処分場予定地では埋蔵文化財の調査を行う計画となっているが事業に支
  障はないのか。地盤改良や一般的な遮水構造でよいのか。
 ・「拝原」という地名からもわかるように、計画地は地域にとっては、神を拝礼す
  る広場であったとも言われている場所であり、春日神社の目の前に五階建て
  にも匹敵するようなごみの山をつくれば、地域の景観や眺望を破壊するだけ
  でなく、歴史文化、精神風土も破壊することにならないか。その圧迫感と崩壊
  への不安は看過できない問題である。環境権が毀損されることにならないか。
 ・吉野川の堤防が延長されたとしても、台風、豪雨時に発生する内水湛水や吉
  野川の増水によってごみの山が不安定となり崩壊しないか。
 ・複雑な地下水の動き、地下水の増加や圧力によって新処分場の底盤は破壊
  されないか。
 ・廃棄物をそのまま移動しても、ガスを通す防水シートで覆って嫌気的環境に
  封じ込めれば、今後長期間にわたる維持管理が必要となり返ってコスト面で
  も負担増とならないか。
 ・徹底的な中間処理を行い、廃棄物の減量化と安定化を優先すべきなのでは
  ないか。等々

 といった様々な問題点が指摘され委員会では市民推薦委員の反対意見が主流となった。一方、事業案に積極的に賛意を唱えた発言が少なく、事業者推薦委員からは、専門性を活かした賛成意見も聞かれず、地権者ら2名が声高に賛意を示したに過ぎなかった。

 なによりも、自治体の費用負担が最も小さくて済むという視点から決められた現計画は、その設計思想に大きな問題があると言わざるを得ない。人間が造る構造物には限界があり、技術には跛行性があることは福島第一原発の事故を見るまでもなく当然のことである。しかし、長閑で穏やかな集落の一角に15mもの高さのごみの山をつくり、「所詮壊れるものであり、壊れたら直せばよい」という論理で地元住民を納得させることは、到底できない。道路や橋なら壊れた箇所を直すことに希望もあるが、壊れたごみの山を修理することに希望や未来はない。

 立地代替案の検討や現処分場安定化のための代替方策の議論を敢えて封じた委員会のあり方そのものに問題があると言わざるを得ない。

 第8回検討委員会は、会議の終了予定時刻16:30を過ぎても延々と議論が続いていた。しかし、東京への帰りの飛行機の時間もあり、私は17:00過ぎには中座せざる得ず、その他の地元以外の委員2名の委員も中座することとなった。最終的に第8回委員会は、3名の市民推薦委員が中座した後に、委員長が「安全性は担保できるとみており、この方向でまとめたい」と発言し、委員会が閉会となったことが徳島新聞の報道や傍聴していた市民から伝えられた。
 以下の徳島新聞の報道をご覧いただきたい。

−−−−−−−徳島新聞の報道:2011/5/8 14:51−−−−−−−−−−
美馬ごみ問題は現計画推進の方針 検討委、異論続出で紛糾

 美馬市脇町拝原の旧ごみ最終処分場のごみを近接地に埋め戻す計画について審議する「拝原最終処分場検討委員会」は7日、同市脇町のうだつアリーナで会合を開き、現計画を進めるとの内容で報告書をまとめる方針が委員長から示された。しかし、反対する委員から非難の声が続出し、議事は紛糾した。

 埋め戻し計画は、吉野川堤防から河道側に埋められているごみ(推計約21万7千立方メートル)を取り除き、堤防の反対側に移すとの内容。この日の議論で、委員長の嘉門雅史氏(京都大名誉教授)が「安全性は担保できるとみており、この方向でまとめたい」と発言した。

 水質への影響が懸念されることや推定埋設量が2倍に膨らんだことなどから計画に反対している副委員長の中嶋信氏(徳島大大学院教授)や委員の中川重文氏(拝原地区ごみ最終処分場建設反対同盟会員)らは「多くの異論がある」「全く安全ではない」などと反発。傍聴者からもやじが飛び、騒然となった。

 結論は出なかったものの、反対意見も付記した報告書案を事業主体の美馬環境整備組合(管理者・牧田久美馬市長)の事務局がまとめ、7月上旬の次回会合に提出することになった。しかし、反対派委員の批判は強く、さらなる紛糾は必至だ。 検討委は昨年7月に発足し、賛否同数の12人と2人の行政代表者の計14人で構成。今回を含め計8回にわたり審議や現地調査を行った。組合は本年度内の着工を目指している。

−−−−−−−−−−−−−−引用終了−−−−−−−−−−−−−−−

 まさに、委員長の独断であり、委員会での議論を一方的に打ち切る民主主義のルールにも反する暴挙と言わざるを得ない。地域住民や市民グループからは、第三者的立場からの技術士(建築部門)の意見書や公開質問状も出され、現計画の問題点をさらにクリアにしていくことが期待されていた矢先のことである。
 次回、7月3日に予定されている最終委員会は、間違いなく紛糾することになるだろう。地元以外の皆様にも是非関心をもって見守っていただきたい。

つづく