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 日本のマスコミが無視する
「ドイツの家畜飼料
ダイオキシン汚染ニュース」

池田こみち
環境総合研究所副所長
28
January 2011
独立系メディア E-wave


 2010年12月、ドイツの家畜飼料にダイオキシンが混入し大きな問題となっていることが年明け日本でも報道された。

 以下は1月5日の時事通信の報道である。

家畜飼料にダイオキシン=農場1000カ所閉鎖―ドイツ
時事通信 1月5日(水)5時38分配信

 【ベルリン時事】ドイツ北西部ニーダーザクセン州当局は4日までに、家畜の飼料にダイオキシンが混入し、鶏卵やブタ、七面鳥が汚染されている恐れがあるとして、約1000カ所の農場を閉鎖した。

 同州で昨年12月下旬に実施された検査で、飼料からダイオキシンを検出。当局が調べたところ、オランダから輸入された飼料の原料にダイオキシンが混ざっていた。

 隣接するノルトラインウェストファーレン州は、同じ飼料を与えた鶏8000羽を殺処分した。ニーダーザクセン州農業省によると、汚染の疑いのある鶏卵などは2、3カ月前から市場に出回っていた可能性があり、回収を急いでいる。

 その後は、まったく報道されていない。

 しかし、ヨーロッパではその後も汚染された食品の拡大が確認され、連日「ドイツのダイオキシン汚染スキャンダル」として大きく取り上げられている。

 ドイツのバイオディーゼル燃料製造会社から出された脂肪酸がこともあろうか家畜飼料製造工程に混入したため、PCDD/PCDFの汚染が広がり、ドイツからオランダの鶏卵へ、オランダからイギリスの食品メーカーへと広がり、さらにドイツ産の肉類(豚、鶏、七面鳥など)は隣接するポーランドやチェコにも輸出されていたことによりEU全体にひろがる大きな社会問題となっている。

 当初、影響を受けた農場は4760カ所にも及ぶと見られていたが、1月13日現在では、分析調査の結果、408カ所と訂正されている。特に、養豚、養鶏(七面鳥)の農場が大きな被害を受けている。

 一体、原因はなんだったのか、どうしてそのようなことが繰り返し発生するのか、どのような対策が講じられているのかなどまったくニュースが伝わってこないのは極めて不思議である。

 このニュースの日本政府側の窓口は厚生労働省の医薬食品局食品安全部監視安全課 輸入食品安全対策室であり、これまでに2回プレス発表を行っている。しかしその内容は極めて限定的で、関係国から日本には汚染食品が入っていないことを伝えているに過ぎない。

ドイツにおける鶏肉・鶏卵・豚肉のダイオキシン汚染について 
平成23年1月12日現在 

平成23年1月18日現在

 ドイツ最大の報道機関であるシュピーゲルの解説記事やドイツ政府が公表している情報を総合して問題を整理しておきたい。

●汚染のレベルはどれほどだったのか。
 汚染された餌を与えられた鶏卵については、最大濃度が12pg-TEQ/g(fat)であり、EUの許容最大濃度は3.0pg-TEQ/g(fat)であるので、4倍の濃度となる。

 一方、鶏肉については、4.99pg-TEQ/g(fat)が検出されている。EUにおける鶏肉の許容濃度は2.0pg-TEQ/g(fat)である。

 さらに、養豚場の17サンプルについては、15検体はEUの許容限度濃度である1.0pg-TEQ/g(fat)以下であったものの、2検体はわずかに基準値を超過していた(1.07pg/g(fat)と1.51pg/g(fat)とのことである。

 これらの汚染された豚肉は食用として流通しておらず、また、汚染されたとみられる農場から出荷された食肉、鶏卵、乳製品等はすべて撤去されたと当局は報じている。

産業界の責任
 今回の事件は皮肉にも環境ビジネスの一つであるバイオディーゼル製造会社から出されたリサイクル油(実際にはそのなかの脂肪酸)が本来工業用にしか使えないものであるにも拘わらず、食品産業の根幹を支える飼料メーカーに流れ、大量に使われていたことである。

 値段が飼料用の油に比べて1/3程度安いため、価格競争に勝つためにはそうしたものまで使わざるを得ない状況にまで追い込まれていたという見方もある。その背景には安いものを求める消費者にも責任があるとの指摘もある。

 当局の立ち入り検査を受けた飼料メーカーの社長は、今回の事故はあくまで、従業員による単なる人為的なミスであると主張している。

 自主的な検査も行っていたようだが、その結果は過小評価されたり、公表されなかったりしていたことも明らかとなり、消費者保護の立場からは、現在の飼料業界に対するダイオキシン類の規制が不十分であるとの声が上がっている。

行政責任
 EUでは、食品や飼料についてダイオキシン類の最大許容濃度(Maxximum Level)が定められている。

 筆者らは所沢のダイオキシン汚染事件の後、早い段階から日本においても魚介類や農作物、飼料等について、そうした基準値を設定することが必要ではないかと指摘してきたが、ドイツをはじめベルギーなどEU諸国で何回となくこうした事件が起こることをみると、指針値や基準値は定められてるだけでは不十分であることがわかる。

 業界や事業者による自主測定であるため、サンプルの抽出率、分析の頻度、公表のあり方などが徹底していないため、せっかく定められている指針値が有効に機能していない。

 ダイオキシン類の分析費は1検体400ユーロと高いことから、多くの事業者は自主的な検査をあまり行っていないのが現状のようだ。

 一部には、食品産業はドイツ国内では4番目に大きな産業分野であり、輸出に大きく依存していることから、業界の負担増となるダイオキシン類の検査の義務づけなどが先送りされていたのではないかとの指摘もある。

 今回の事件を受けて、ドイツ連邦政府の消費者保護省の長官は「これまでは食品そのものについて主に扱ってきたため飼料については不十分だった」と認め、消費者保護政策を見直す方針であることを明らかにした。

 食品の安全を守るためには、どのような仕組みを構築する必要があるのか、指針値や基準値の設定だけでは不十分であることは言うまでもない。

●翻って-日本では
 日本では、農水省や厚生労働省が食品や魚介類のダイオキシン類濃度を測定し公表している。農作物については、焼却炉の規制強化により大気中ダイオキシン類濃度が大幅に低下したため、以前のような野菜の汚染などは生じていないようであるが、魚介類については依然として高濃度となっている。

 日本人の食生活に魚は欠かせない。少なくとも魚介類のダイオキシン類濃度についての指針や基準値は定めるべきではないだろうか。水俣病のように毎日同じ漁場(水俣湾や有明海)から取れた魚を食べないまでも、妊婦・胎児へのリスクを回避するためにも必要なことではないだろうか。

 折しも、日本では今週、千葉の幕張メッセで「水銀条約」の制定に向けて関係国の政府間協議が行われている。ダイオキシン類も水銀などの重金属類、その他有害化学物質は微量であっても環境中に排出されることにより食物連鎖に取り込まれて大きな影響をもたらすことになる。

 廃棄物焼却施設は石炭火力発電所などと並び、大気中に水銀を排出する施設の一つとしてその排出削減への取り組みが必要との議論も行われている。ごみは資源として適切に管理し焼却処理に依存する現状を見直すことが大切だが、まずは有害物質の発生源としてしっかりとした監視と規制を行うことが先決だろう。

参考資料:
シュピーゲル・インターナショナル 2011.1.10より
http://www.spiegel.de/international/germany/0,1518,738610,00.html
Dioxin contamination incident in Germany
http://www.bmelv.de/cln_163/SharedDocs/Standardartikel/EN/Food/DioxinSummaryReport


http://www.spiegel.de/international/germany/0,1518,738610,00.html