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宮崎の環境を
どげんかせんないかん
  −東国原知事への進言−


池田こみち

2007年12月19日
無断転載禁


 激動の2007年の年の瀬が迫る12月15日の土曜日、急遽、地元市民グループ「みやざき・市民オンブズマン」(代表:金丸浩成氏)からの要請を受けて、宮崎県川南町のかかえる環境問題の現場を視察することになった。

 そして、同日夜には「環境行政改革フォーラム in みやざき・川南」と銘打って宮崎県の環境問題、就中、川南町の抱える環境問題をどうするか、についてみんなで考え議論する標記の講演会が企画されたのである。

 折しも、東国原知事の「宮崎をどげんかせないかん」が今年の流行語大賞のひとつに選ばれ、宮崎は全国の注目の的となっている。美味しい地鶏、マンゴーなどの農産物がどんな環境のところで作られているのか、これからその真価が問われるのではないだろうか。

 宮崎の物産や観光地を全国にPRして売り上げに寄与するのは知事の重要な役割だが、それが、2007年の世相を反映する漢字「偽」とならないためにも、知事には、早い内に宮崎県の環境の現状がどうなっているのか、しっかりと見極めてほしい。美味しい物、美しい観光地を支えるためには、基盤となる環境がしっかりと管理されていなければせっかくの売り物が「偽り」となってしまうからである。

 さて、南国宮崎にふさわしく、お昼前に空港に降り立つと、暖かい日差しが降り注ぎ、のんびりとした空気が流れていた。空港まで迎えに来てくださったのは、みやざき・市民オンブズマン活動を支えている野中兄弟、さっそく宮崎市から北に30数q離れた日向灘に面する農業の町、川南町に向かった。

 川南町は人口17,000余、全国各地から農業を志す人々が集まり拓かれたことから川南合衆国と呼ばれ、畜産を中心に全国でも有数の農業生産量を誇っている。

 川南町の大部分は洪積層台地で、西部に位置する上面木山(標高1040m)の麓から東端に接する日向灘に向けてゆるやかに傾斜した波状の台地が広がり、酪農、果樹栽培、茶栽培、野菜作りなどの農業が盛んに行われ、町の中心には二級河川平田川が流れている。また、川南漁港は小さいながらも、県内有数の水揚げを誇る漁港として有名である。


 地図:川南町の位置図

 そんな川南町だが、重大な環境問題をいくつも抱えている。そのひとつが、「悪臭」「水質汚濁」「土壌汚染」といった公害問題。これらは、町内に複数設置されている産業廃棄物処理施設からのものであるという。

 国道10号を行き交うトラックの運転手さんたちが川南町に入ると窓を閉める、というくらいその悪臭はすさまじく、町民の大きなストレスとなっているばかりか、酪農の町としてのイメージを大きく損ねている一大問題なのである。そしてもう一つが農林水産省による農業灌漑用水(尾鈴畑灌)のためのダム建設による自然破壊と財政圧迫の問題であるという。

 宮崎空港から国道10号を北上して、川南町まで約1時間ほどで到着、夜のフォーラムの会場となる「トロントロンドーム」で環境問題に取り組む地元の方々と待ち合わせし、さっそく車二台による町内視察に出発した。視察カ所は次の5カ所である。


 地図:視察ポイント位置図グーグル地図

(1)伊倉地区の廃プラスチック中間処理施設周辺地域

 川南町は太陽と海、身近な自然と神話の伝説をもつすばらしい町であるとして、都会から移り住む人々も多いという。日豊線の川南駅からほど近い海沿い台地に、日量14トンの産業廃棄物中間処理施設が建設されているが、そのすぐ目と鼻の先には、老後の生活を日向灘を臨むこの地で暮らそうと移り住んだ方のお宅があった。昼夜続く破砕作業の騒音、なんとも言えない異臭、粉塵に悩まされ続けているという。東京の廃プラ中間処理施設周辺での杉並病の問題もあって、隣接する住宅地では健康被害が心配されている。


 写真:伊倉地区 産廃中間処理施設


 写真:住宅地から臨む伊倉浜(日向灘)

(2)小池地区の畜産廃棄物処理施設(フェザーミール加工場:桐谷物産) 市街地を抜けて農地の真ん中にこの施設はあった。養鶏場からでる廃棄物(鶏の羽や食品として使用しない部分等)を飼料化している工場とのことだが、200mほど離れた地点でも「悪臭」が漂っていた。一日の内でも時間によってはこの臭いが市街地から海沿いにまで広がっていくそうだ。この工場からの排水はパイプで導かれ、近くを流れる綿打川に放流されている。この上流域にはもうひとつ大規模な堆肥センターがあり、硝酸性窒素など河川の水質への影響が危惧されている。


 写真:排水が流れ込む川


 写真:畜産廃棄物処理施設

(3)切原(きりばる)ダム建設現場

 現場は、川南町の西、尾鈴山系に囲まれた名貫川右岸から小丸川左岸に囲まれた水田と畑地が混在する農業地域である。すでに工事は着工しており、山肌は痛々しく削り取られ、身近な自然の破壊が進んでいる。


 写真:ダム工事現場


 写真:ダム完成イメージ図(出典:九州農政局設置の現地看板より)

<切原ダム概要(出典:ダム便覧)>
河川:小丸川水系切原川
目的:農業用灌漑用水ダム
型式:重力式コンクリートダム
規模:堤高/堤頂長/堤体積 61.3m/227m/230千m3
流域面積/湛水面積: 3.1Ku/11ha
総貯水容量/有効貯水容量:2040千m3/1900千m3
ダム事業者:九州農政局
着手/竣工:1990年/−
総事業費:未定


 写真:視察中の一行(ダム湖最奥地点)


 写真:ダムに流れ込む川の様子

このダムに流れ込む河川の水量は極めて小さく、ダムに水を貯めるのも難しいように見受けられた。実際、水量を補うためか、隣接する尾根の向こうからトンネルで水路を確保し、ダムサイトに導水しているというから大がかりな工事である。

 現時点で340億円が投入されており、地元負担の額も30億円を超えるとされている。この地はもともと水資源の乏しい地域であるため、農家は早くから水を大量に使用しない農業を進めてきており、今更、農業用水灌漑目的のこうしたダムの必要性について大きな疑問が投げかけられている。ダムサイトには貴重な植物群落の存在も確認されており、現在、移植などが検討されているとのことだ。




(4)山有堆肥センター(家畜糞尿と下水汚泥による堆肥化工場)

 ここは、切原ダム現場からほど近い山の尾根にある大規模堆肥工場である。詳細はみやざき市民オンブズマンのホームページに写真を含めて掲載されているので参照して頂きたい。
http://miyazaki-ombuds.com/environment/sanyu/index.html当初、鶏糞等の家畜糞尿をYM菌(超高温好気性発酵技術)を用いて堆肥化するものであり、畜産の町である川南町にとって有効な施設であるとのふれこみで住民の期待を背負って建設された。しかし、実際には耐え難い悪臭を放ち、周辺の立木は枯れ、野積みされた堆肥と称する製品からの汚水が周辺の水系を汚染するという公害発生源となっているのである。堆肥の原料は家畜糞尿だけでなく、


  写真:山有堆肥センター全景


  地図:グーグルアース地図 ダムと堆肥センターの位置関係

(株)山有の本拠地である鹿児島から大量の下水汚泥を持ち込んで処理しているという。周辺住民やオンブズマンが行政に対策を申し入れても適切な行政指導が行われることもなく、日々、悪臭は川南町を覆っている状態である。

 工場隣の谷は、切原ダムの建設残土が持ち込まれ、すでに埋め立てられていた。のり面下の水路の水は赤茶色に濁り、薄く油膜がはったり、泡がたっていることもあるという。実際、杉の木は皮がはがれ、瀕死の状態であった。

 季候の良いこの地で有機農業を目指して転地してきたり、都会から戻ってきた人々も多いようだが、悪臭の日々に耐えきれず、再びこの地から去ろうとしているとのことだ。


 写真:立ち枯れている杉林


 写真:堆肥センター下の水路の水

 途中、川南町の名所といわれる「夫婦滝」に寄ってみた。すると、本来清らかなせせらぎのはずが、滝壺には泡が立ち、水中の石はうっすらとヘドロ状のもので覆われていて、魚類などの生命が息吹が感じられなかった。同行された地元の方々のお話では、昔はこの水辺で子供が泳いだり遊んだりしたとのことだが、今ではあまり訪れる人もない。滝の上には堆肥センターがあることを知っているからに他ならない。


 写真:名勝 夫婦滝


 写真:泡立つ滝壺

(5)山本地区のバイオマス発電施設(鶏糞焼却ボイラー発電)周辺

 山有の堆肥センターから少し台地を下ったところに、周辺の農地とは不釣り合いな巨大なプラントが見えてくる。これは、鶏糞を利用したバイオマス発電施設であるという。ところが、先の堆肥センター同様に、悪臭発生源となっている。敷地内にはバイオマス発電事業を始める前から行っていたいわゆる鶏糞堆肥工場が今でも原料保管エリアとして残されており、悪臭が周囲を覆っている。

 すぐ隣接する民家におじゃましてみると、そのお宅では、井戸水が汚染され、保健所の検査の結果、飲料には使用できなくなっているという。また、長年飼っていた猫や犬が汚染された井戸水で次々死んでいったということだ。大量の鶏糞が持ち込まれることにより、発電施設での処理が追いつかず、あまったものを農地に深く埋め込んで上に農作物を作ることにより、「施肥」と判断されてなんら問題とならないという仕組みも極めて杜撰である。大量に土に投棄された鶏糞により地下水の汚染が引き起こされたことは想像に難くない。


 写真:バイオマス発電施設



 地図:空撮した発電施設 グーグルアース地図
 以上の視察を終え、一行は夜7時からのフォーラム会場へと急いだ。夜のドーム前庭は、クリスマス電飾がにぎやかで多くの町民が訪れていた。


 写真:A フォーラム会場となったトロントロンドーム


 写真:フォーラム立て看板

 土曜日の夜にもかかわらず、大勢の方が参加され熱心に講演に耳を傾け、議論に参加していただいた。まず、主催者であるみやざき市民オンブズマン代表の金丸さん(川南町在住)から、川南町内の環境の現状について写真を示しながら説明が行われた。地元住民であっても、少し離れた場所のことはほとんど知らない。また、悪臭に悩まされていてもその原因施設のことについて把握していないのが実態であり、こうした機会に町内で起こっていることを知ることは大切なことである。


 写真:現状を説明する金丸さん


 写真:講演する池田

 池田からは、環境問題をどう捉えるか、問題解決のための方策をどのように検討する必要があるのかといった基本的な内容と共に、類似の堆肥モドキ製造施設の問題を青山貞一氏(元長野県環境保全研究所長、長野県政策アドバイザー)の指導のもと徹底的な県の介入により問題解決に成功した長野県の飯山市の事例や、現在進行中の梶山弁護士による長崎県での事例などを紹介し、熱心な質疑応答も行われた。

 今回のフォーラムを機会に、迷惑施設が集中している川南町民が団結して、闘う姿勢を示しながら町や県に対して必要な対策を求めていくことを期待したい。また、東国原宮崎県知事は、早急に宮崎県内の環境問題の実態について県職員からだけでなく、第三者的な評価、意見に耳を傾け、必要な対策に着手して頂きたい。

 同時に、金丸さんはじめ、みやざき市民オンブズマンを支える地元の若手メンバー、環境問題を重視する町議、市民グループなどが一層連携を強めて、町内外への情報発信と行政への監視を続けていただきたい。独立系メディア、環境総合研究所も今後も宮崎県の環境行政を注視していきたいと思う。今回のイベントを企画・準備された方々、ご参加いただいた皆様に改めてこの場を借りてお礼を申し上げます。