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改めて問う、
廃プラスチックは焼却適合物か?


池田こみち

2008年5月20日 無断転載禁


 東京23区では、今年度から本格的に廃プラスチック類の焼却処理(サーマルリサイクル)が始まる。 しかし、長年プラスチック類を分別してきた区民にとって依然としてそれが焼却適合物となることについて多くの懸念が残ったままである。

 廃プラスチック類は、まず容器包装リサイクル法などに準じてリサイクルできるものはリサイクルし、なお残るプラスチック類を焼却して発電する、というふれこみではある。だが、実際のところ、廃プラをリサイクルにまわすかどうかは、各区の判断に任されている。

 杉並・練馬・港区のように容リ法に乗せてリサイクルすることを前提にしている区もあれば、焼却炉が区内に存在しないにもかかわわらず、文京区のように、まったく分別をしない区もある。区内に二つも焼却炉があり、一方をガス化溶融炉にしてまで分別をしない世田谷区など、それぞれの区の事情によって対応はまちまちなのである。

 現行でも分別が不徹底で可燃ごみに5〜6%の廃プラが混入しているのだが、今後、本格実施に移行した場合には20%を超えることが予想される。そうしたなか、そもそも可燃ごみに入るようなプラスチック製品にはどれほどの金属類が含まれているのか、について、23区清掃一部事務組合が調査をとりまとめた。その調査の内容と区民はそれをどう受け止めればよいか、この調査は多くの問題点を映し出している。

 朝から激しい雨に見舞われた2008年5月20日の午後、各区の区議、NGOメンバーらを含め、総勢22名が飯田橋にある区政会館にオフィスを構える「23区清掃一部事務組合」(以下、一組と略称する)を訪問した。

 既に一組のホームページに公表されていた「プラスチック製品中の含有重金属類分析調査結果について 平成20年4月22日」について説明を求め、質疑を行う会合に参加するためである。一組側からは、企画室長のほか、実際に調査を担当された技術課職員も出席し、説明に当たった。まだご覧になっていない方のため、簡単にその調査内容をご紹介しておこう。

 <調査の概要:ヒアリングをもとに作成>

 (1)分析機関:株式会社分析センター http://www.analysis.co.jp/

 (2)委託費 :競争入札で落札額1,300万円

 (3)サンプリング(製品の調達購入):職員が3人で一日がかりで100円
    ショップからすべてを購入した。今後、ごみになりやすいプラスチック
    製品という観点から選択したとのこと。全103品目。

 (4)分析の手順
    @プラスチック製品を素材ごとに分解し重量を測定
    A次に、素材ごとに蛍光X線分析で30項目の金属元素の測定を
     行った。
     (蛍光X線分析:対象となる試料にX線を照射することで発生する
      蛍光X線のエネルギーを測定する装置を用い、試料に含まれる
      元素の種類や濃度を判断するために用いる。一次スクリーニン
      グに用いられる場合が多い。)
    Bその上で、9項目の金属含有濃度の分析にあたっては、各素材
      ごとの重量比をベースに粉砕した素材を計量調整し、分析用の
      試料とした。
    C分析方法は、EUのRoHS指令の分析方法を前提としてオリジナ
      ルに検討して方法を決定した。溶剤(強酸等)で抽出後は液体
      試料となるので、その後の分析はICP発光分光分析法と原子
      吸光法を用いて測定している。

  (5)含有濃度測定項目:カドミウム(Cd)、鉛(Pb)、亜鉛(Zn)、総ク
     ロム(Cr)、ヒ素(As)、総水銀(Hg)、セレン(Se)、リチウム
     (Li)及び、総クロムが検出された物について、六価クロム(Cr-6+)

  (6)結果の一例(最高値が検出されたものはどんなものだったのか)
     調査では、購入したプラスチック製品を可燃91品目と不燃10品目
     に分けているがここではあえてその区別はしないこととする。
     @カドミウム:   32mg/kg  保温パック
     A鉛    : 3.690mg/kg プラスチック製めがね
     B亜鉛   :102,000mg/kg  おもちゃ(リモコン自動車)
     C総クロム : 19,200mg/kg  キーホルダー型ライト
     Dヒ素   : 25mg/kg キーホルダー型ライト
     E総水銀  :   71mg/kg  腕時計
     Fリチウム :  160mg/kg  キーホルダー型ライト
     なお、六価クロムとセレンはすべて不検出だった。
     (詳細は概要版を)

 思いの外濃度が高い、という感想を持つ方が多いのではないだろうか。これらが焼却炉に投入された場合には、いったいどのような影響が生ずるのか、こそがまさに区民の懸念であり不安である。

 概要版には、一組がとりまとめたとする「まとめ」があるが、そこでは、次のように安全であることを主張している。

「・・廃プラスチックをサーマルリサイクルする場合、清掃工場では、廃プラスチックだけを焼却するのではなく、その他の可燃ごみと併せて焼却を行うことから、今回調査した品目を含めプラスチック製品を焼却した場合、含有重金属類が清掃工場での焼却にどの程度影響を与えるかは判断することはできません。

 ただし、当組合の清掃工場では、ごみを焼却した後の排ガスに含まれる重金属類を、ろ過式集じん器や洗煙装置等の高度な設備によりほとんど捕集・除去しております。また、排水中の重金属類についても、薬品凝集沈殿法により汚水処理設備で適正に処理を行っています。その結果、実証確認等における重金属類の測定値は、法規制値や自己規制値を十分に下回っています。」

 それでは、今回の調査結果をどう見ればよいかについて、整理しておくこととする。質疑応答では、参加された各区の区議からも多くの懸念が表明され、さらなる検証の必要性が指摘された。

 ●調査の目的
   1300万円もの費用かけた調査の目的は、あくまでも製品に含まれる
   金属濃度を明らかにすることまでであり、肝心なそれを焼却したとき
   にどうなるのか、が検証されていない。

 ●分析した金属類はごく一部
   今回は六価クロムを含めると9項目を測定しているが、日常的に排ガ
   ス中の濃度を測定しているマンガン(Mn)が含まれていない。また、
   EUで既に規制されている項目(コバルト、タリウム、アンチモン、バナ
   ジウム、ニッケル)も含まれていない。測定項目を選定する際には、
   区民の問題意識や国際的な動向なども考慮して選定すべきである。

 ●燃焼不適物の定義が不明確
   従来からプラスチック類は燃焼不適物として分別され埋め立てられて
   きた。しかし、今年度からは燃焼適合物として可燃ごみに分別される。
   各区の対応も統一されないまま廃プラスチックが可燃ごみとなれば、
   燃焼不適であった金属類が大量に焼却されることとなり、技術的に
   処理が可能だから可燃にする、という理屈はなりたたない。

   技術設備で対応が可能と言うことはそれだけ焼却炉や埋め立て地へ
   の負荷がかかっているということであり、長期的には問題が大きく、
   また、財政負担の面からも問題である。

 ●今回の調査結果の評価と活用
   この調査は、一組としても初めての大規模調査であり、新たな発見も
   あったとのことだが、これを焼却炉の運転管理や排水処理技術に生
   かすだけでなく、最も区民が気にしている排ガス中の濃度についても
   検証を行っていく必要がある。

   また、資源リサイクル推進などの廃棄物政策の一層の推進にも役立
   てるべきである。

   そのためには、分析結果報告書を第三者の評価検討委員会などで
   十分検討し、想定されるリスク等についても明らかにしていく必要が
   ある。中間処理を業務とする一組が自分たちの調査を自ら「問題な
   い」と評価しても納得が得られるはずもない。

 ●技術至上主義
   製品に多くの金属類が含まれていることが明らかになったが、これ
   までの各種モニタリングや確認実証試験から、排ガス中や排水中に
   はほとんど検出されておらず、23区の焼却炉においては、問題なく
   処理できるとの説明があった。

   ダイオキシン対策によりバグフィルターもとりつけ、温度管理も徹
   底しているため、金属類は気化して環境中に出ることはなく、ほと
   んどが主灰や飛灰のなかに固形物として封じ込められ、その後は灰
   溶融スラグ、キレート処理などで埋め立てられ、問題ないと強調し
   た。

   しかし、廃プラ焼却が本格実施されれば、廃プラの混入率は20%を
   超えることが予想されており、人口密集地に多数の大規模焼却炉が
   ひしめく23区の環境は悪化しないと言い切れるだけの根拠はない。

   すべてを技術依存(言い換えれば金で対応する)というやり方はき
   わめて不安定でありかつ非合理ですらある。都民の税金で、出続け
   る廃プラを処理していけば、生産者の責任はどのように問われるの
   か。

   次世代もそのまた先も、焼却炉や溶融炉、灰溶融炉、化学処理に依
   存したごみ処理を続けて行かざるを得ないのは必定である。

 プラスチック類には金属類だけでなく、さまざまな添加剤が使われていることが既に指摘されている。難燃剤、可塑剤、着色剤、接着剤等々多岐にわたり、それらは大量に排出されることによりダイオキシン類よりもさらに発ガン性が危惧される多環芳香族炭化水素類(PAH類)や臭素系化合物などを環境中に排出する原因となるのである。

 ダイオキシンの濃度が下がればよい、金属類が灰に固定化されればよい、といった個別の技術依存の対策で解決すべき問題ではない。より根本的に、プラスチックをどうするのか、リサイクルをどうするのか、生ごみを焼却し続けてよいのか、排出者責任・使用者責任をどう問うのか、といった総合的な廃棄物政策を区民が賛同できるビジョンの元で展開していくことが今まさに問われている。

 廃プラ焼却はすでに既定路線に乗って着々と進められようとしている。区民の健康と安全を守るはずの区長や区議会、区行政もこの問題には無関心である。本格実施は今年の10月、目前に迫っている。再度、この問題について区民の健康と環境の視点から考えてみる必要がありそうだ。

謝辞:今日の会合をセッティングされた植田靖子さんはじめ、
    参加された区議の皆様にお誘いいただいたことを
    感謝いたします。