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がれき広域処理問題
西日本講演ツアー
第二陣終了
池田こみち
環境総合研究所 副所長
掲載月日:2012年4月16日
 独立系メディア E−wave


 東日本大震災から一年経っても瓦礫の処理が進まないことを背景に、政府は日に日に広域処理推進に向けて圧力を強めているように感じる。

 一方で、「瓦礫の広域処理」という政策のかかえる本質的な課題が明らかになるにつれ、受入が表明された地域の住民の不安は高まり、政府への批判の声が高まっている。

 4月13日金曜日午後の便で羽田を発ち、米子空港には午後4時前に到着、市民派市議の出迎えを受けて、会場に向かった、生憎、冷たい雨で花冷えの夜となったが、会場には地元の県議・市議、松江市など隣接市の市議も含め100名以上が参加された。

 関東地域から子どもを連れて避難している若いお母さんたちがこれまでも市長や市議会に撤回要請を行うなど熱心な活動を行っていた。講演終了後は活発な質疑応答が行われ、8時半に終了した。

 米子は島根原発から30km圏内にあるため、稼動から40年にもなろうとする老朽化した島根原発の影響にも関心が高まっていた。何よりも被災地や関東地域から避難している母親たちが、瓦礫の受入により再び子どもの健康や食品選びにストレスを感じることになるとの不安が強かった。また、地元農業や漁業製品への風評被害に対しても危惧が広がっていた。

 米子駅隣のホテルで一泊し、翌4月14日土曜日は7:25発の特急いずもで岡山へ向かった。岡山で新幹線に乗り換え、新大阪からは特急くろしおで和歌山へ。およそ4時間あまりの移動となった。

 和歌山では、天気も回復し和歌山城を望む会場には50名余りが参加し、新たな会の結成総会と講演会が行われ、ここでも関東や被災地から避難した若い親子に地元の支援者があつまって熱心に質疑が行われた。今後は新たに結成された「子どもの未来と被ばくを考える会」が中心となって、がれき受入ではない支援や活動を和歌山を中心に展開していくこととなった。

 終了後はみんなで夕飯を取った後、最終便の南海フェリーで徳島まで2時間の船旅である。到着したのは9時20分、港には徳島の主催者グループのメンバーがお迎えに来てくださっていた。海は穏やかでゆっくりと客室で休むことができた。

 いよいよ今回の講演ツアーの最終段階、徳島に入った。市内のホテルで一泊して、翌4月15日(日)午後に講演会が行われた。

 徳島に来るのは2011年7月以来のこと。今回の講演会は、ミツバチぶんぶん実行委員会と徳島県廃棄物問題ネットワークの共催で企画され、会場では、「とくしま母子疎開の会」のメンバー(関東や被災地から避難している母親たちと地元で支援する市民による会)が、瓦礫受入ではなく、徳島ができる被災地支援について、熱心に呼びかけを行った。

 今回の講演会は、放射線物質の汚染が及んでいない西日本各地、鳥取県米子市、和歌山県和歌山市、徳島県徳島市でそれぞれ市民グループが主催して開催されたものであるが、それぞれの地域で事情が異なっていた。

鳥取県米子市

 米子市は鳥取県内で唯一、焼却炉に余裕があるとのことで、市長が突然に受入を表明したという。しかし最終処分場がないため、市長は、焼却灰の受入について、国(環境省)が国有林を提供するという言葉を前提に踏み切ったと。

 ところが環境省は、広域処理は最終処分まで含めて引き受けることが前提となっているとして、国有林など最終処分場の提供について現時点で米子市に明確な提示は行われていない。市民も市議会も寝耳に水の市長の発表にとまどいが広がっていた。


講演準備中の筆者


米子会場で講演中の筆者


鳥取県米子講演会を企画、実行された皆さんと

 以下は米子市の土光さんが撮影、編集された池田緊急講演会の動画。




◆がれき広域処理 妥当性に疑問呈す
朝日新聞鳥取版 2012年04月16日
http://mytown.asahi.com/tottori/news.php?k_id=32000001204160006


写真:震災がれきを広域処理することの問題点を指摘する池田こみちさん
=米子市錦町1丁目

 震災がれきの広域処理について考えてもらおうと、市民団体「災害がれき問題
講演会実行委員会」が米子市内で13日、民間シンクタンク環境総合研究所の池
田こみち副所長(62)を招いた講演会を開いた。市民ら約100人が耳を傾け
る中、池田さんは広域処理に疑問を投げかけた。

 池田さんは、被災地では雇用や原発事故の被害補償、放射性物質の除染など、
優先される課題が他にもあると指摘。「被災地のニーズをもっと認識する必要が
ある。(がれきを受け入れるか否かで)国やマスコミが地域分断を生むような構
造は間違っている」と話した。

 妥当性については、がれき焼却で放射性物質を高濃度にしてしまうこと自体を
批判。国が放射性セシウムをほぼ100%除去できるとする「バグフィルター」
も、金属類を対象にした1回の実験データを根拠にしているとして、「科学的な
論拠にならない」と述べた。

 放射性物質を含む焼却灰1キロあたり8千ベクレル以下の安全基準も作業員の
曝露(ばく・ろ)を前提としたもので、焼却灰を埋め立てた処分場からの浸出水
には基準値を超すセシウムが含まれる危険がある、とも指摘した。

 さらに、がれきの問題は放射性物質だけではないとと強調。「沿岸部の街を流
した津波がれきは薬品・油類など有害物質を吸収している。日本では排ガス規制
がダイオキシン類など5項目しかなく、発がん性の高い他の物質は未規制。規制
の甘い日本の焼却炉で震災がれきを燃やすのは、(周辺住民にとって)危険だ」
と続けた。

 米子市の受け入れ意向について参加者から「市長に受け入れをやめてもらうに
は」という質問があり、池田さんは「もっと慎重に考えている自治体もある。が
れきを受け入れる以外にも避難者の受け入れや、安全な食べ物を作ることなど、
それぞれが冷静に地域でできる支援を考えてほしい」と応じた。(佐藤常敬)

和歌山県和歌山市

 和歌山市は少し事情が違っている。和歌山県知事は国の要請に必ずしも納得していない様子で、県内市町村への要請も躊躇してたが、そんな中、和歌山市の3月市議会の最終日3月22日に全会一致でがれき受け入れを決議してしまった。

 和歌山県知事や和歌山市長は依然として慎重な発言を繰り返しているものの、予断を許さないとして、関東や東北被災地から和歌山に避難している母子を中心に「子どもたちの未来と被ばくを考える会」の結成総会に併せて講演会がを企画された。


和歌山会場で開始を待つ筆者


和歌山講演会を企画実行されたメンバー

◆震災がれき「被ばくを考える会」結成
http://www.wakayamashimpo.co.jp/2012/04/20120416_11781.html
和歌山新報  2012年04月16日

 和歌山市議会が東日本大震災被災地のがれき受け入れを決議したことを受け、市民グループ 「子どもたちの未来と被ばくを考える会」 が結成され、 14日に同市小人町の市あいあいセンターで総会と記念講演会が開かれた。 東京都のシンクタンク、 環境総合研究所の池田こみち副所長が講演し、 被災がれきの広域処理には正当な合意形成の手続きや科学的・経済的な妥当性の説明がないと述べた。

 市議会の決議を傍聴した市民有志が、 がれき問題にとどまらず、 放射能による被ばくから子どもたちを守るために考え、 行動する組織をつくろうと話し合い、結成が決まった。



 講演会に先立つ結成総会では、 役員や会則の発表があり、 代表世話人に同市黒田の主婦、 芝野絢子さん(33)ら4人が就任。 芝野さんは 「子どもたちを被ばくから守りたいとの共通の思いを持ち、 知恵を出し合うことで困難な状況を変えていけると信じている」 とあいさつし、 同会の活動への協力を呼び掛けた。

 記念講演では、 環境政策や環境計画が専門の池田副所長が広域処理の問題点を必要性、 妥当性、 安全性から論じた。

 必要性については、 岩手・宮城両県の災害がれき約2000万dのうち広域処理の希望量は400万dだが、 政府の公報は全て広域処理が必要であるかのような印象を与えているなどとし、 必要性を議論できる情報が提示されていないと指摘した。

 妥当性、 安全性については、 首都圏の一般廃棄物でさえ放射性物質に汚染され、 焼却灰や飛灰に濃縮されている状況であり、 広域処理は放射性物質汚染の全国への拡散になると述べた。 さらに経済的観点から、 がれきの輸送により処理コストが高額になり、 被災地にがれきの処理施設を造る方が効率的だとした。

 がれき受け入れについて大橋建一市長は 「最終処分場や放射能の基準などの諸問題が解決され次第、 市民の皆さんの安全・安心を第一に考えて、 受け入れが可能かどうかを検討していきたい」 との見解を示している。

 同会に関する問い合わせは事務局長の松浦攸吉さん (рO73・451・5960) へ

徳島県徳島市

 徳島県は既に全県下市町村で受入が不可能であることが表明されている。徳島県といえば、県知事の目安箱への「受入すべき」という市民の声に対して、受け入れない理由と姿勢を冷静かつ明確に示した担当者の回答が全国でも高く評価されている。

 しかし、一部議員や市民の間には「思いやり」や「絆」を示すものとして受け入れるべきではないかとの声も多く、市民の間でも市の姿勢を応援し、さらに広めていく取り組みが必要と講演会が企画された。


徳島会場のステージ


徳島会場で講演中の筆者


地元徳島県で処分場問題などで活躍されている深田医師
 
東日本大震災:「できる支援を」 がれき考える講演会 
 徳島 /徳島 毎日新聞 2012年04月16日 地方版
http://mainichi.jp/area/tokushima/news/20120416ddlk36040340000c.html

 東日本大震災で生じたがれきの広域処理について考える講演会が15日、徳島市内であった。シンクタンク「環境総合研究所」(東京)副所長の池田こみちさんが宮城、岩手両県の現状や他自治体ががれきを受け入れる際の問題点などを解説し、「避難者の受け入れや東北産の食品を買うなど、がれき受け入れ以外に西日本でできることをまず考えて」と訴えた。

 講演で池田さんは「本当にがれき処理が最優先の支援か」と問題提起。被災地では、雇用創出や心の傷のケアを優先して求める声が多く、がれきを広域処理するのではなく、集めて公園を作る案が出ていることなどを説明した。また、国ががれき受け入れの広報費用に15億円超の予算を割いていることを批判した。

 講演には約50人が参加。同市北田宮3の主婦、宮本光代さん(68)は「今まではがれきを受け入れてもいいのではないかと思っていたが、簡単な問題ではないのだと感じた」と話していた。

 県内で廃棄物を処理する各市町村や広域連合など計28機関はいずれも現時点で、がれき受け入れは「困難」との考えを示し、県はその旨を今月4日に国に回答している。【加藤美穂子】


徳島新聞 2012年4月16日号

 上記3地域の事情からもわかるように、まさに瓦礫の受入を巡って県レベル(県知事、県議会)、市町村レベル(市町村長、議会、市民、受入予定施設周辺住民)の間で考え方の違い、意識の違いが顕在化し、難しい状況となっている。

 何よりも、この問題の本質的な課題をどこまで理解し責任ある判断ができるかにかかっている。一般廃棄物の処理は基礎自治体の自治事務と位置づけられている。それであれば、都道府県は市町村に対して上から要請したり強要することはできないはずである。

 市町村長は、絆や同情から安易な判断をするのではなく、冷静にこの問題の本質的な課題−必要性・妥当性(経済面、環境面、社会面)そして、なによりも政策決定の正当性の観点から、市民の健康や市域の環境・経済を守るという立場から、市民に対して自信をもって、責任ある言葉で説明すべきである。

 地方自治や民主的な手続きを踏みにじった強引な結論ありきの広域処理に対しては、市民一人ひとりがはっきりと反対の意思を示し、基礎自治体の長に適切な判断を促していくことが不可欠である。

 この場を借りて、各主催地で講演会を企画運営された市民グループの皆様に、お礼を申し上げます。ご苦労様でした。今回の講演ツアーでは、各地で関東や東北からの被災者を現地の皆様が暖かく迎え支援していただいている様子に触れることができ、同じ関東人の一人として、まるで娘や孫を送り出した母親のように、嬉しく有り難い気持ちになりました。これからもどうぞよろしくお願いいたします。