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がれき広域処理
−今、問題の三地域を概観する
池田こみち
掲載月日:2012年9月16日
 独立系メディア E−wave


 震災から1年半余りが経過し、今尚行方不明の方が2500名を超えるという現実に改めて心が痛んだ。9月7日付けで発表された、災害がれきの処理処分進捗状況の最新報告を見ると、8月31日現在、仮置き場への搬入は岩手県・宮城県とも85%に達しているものの、処理処分の進捗率は岩手県が20.5%、宮城県が27.6%にとどまっている。

 現時点(2012年9月)で、がれきを受け入れている自治体は、東北三県(青森、山形、秋田)と東京都、茨城県、埼玉県、静岡県、福岡県などごく一部の都県に限られている。

 瓦礫推計量の大幅下方修正が発表され、環境省・被災県とも現在受け入れを行っている自治体以外に新たな調整を行う必要がなくなったことを発表している。

 それにも拘わらず、9月に入ってからも新潟県(糸魚川市、新発田市、新潟市など)、静岡県(裾野市、静岡市、浜松市)、石川県(金沢市)、富山県(富山市)などで説明会や試験焼却などが続けられている。ここでは、話題となっている三地域について概観しておくこととする。

<北九州市>
 北九州市では、当初の予定から大幅に遅れたとはいえ、9月17日からの焼却処理のため、石巻市から800t(全体では23,000tを処理する予定)が運び込まれた。今回は海上輸送となっており、週1回600〜800tが運ばれる予定という。西日本初となる震災がれきの焼却は北九州市内3工場で17日から始まることとなっている。宮城県知事と北九州市長との間で交わされた契約書によれば、処理にかかわる金額は6億6200万円余りにのぼっている。


北九州市の契約金額の内訳
出典:池田こみちが調査により作成

 内訳を見ると、6億2200万円のうち32%に上る2億円以上が輸送費や保管費、3億4千万円近くが(焼却及び埋立)処理費、その他、がれきの放射能・放射線測定費が1700万円ほど、がれきの放射線量測定及び性状・形状確認費が2600万円、事務費及び報償費が合計で1660万円ほど、さらに警備費が930万円ほどとなっており、広域処理することにより、いわゆる処理費のほぼ倍の経費がもろもろかかっていることがわかる。

 果たしてこれが被災地支援といえるのかどうか極めて疑問である。

◆委託契約書(PDF形式:278KB)
 http://www.city.kitakyushu.lg.jp/files/000122158.pdf

 北九州市では、受け入れに反対する市民が清掃工場に搬入するトラックを阻止しようと、連日、体を張った抗議行動を展開している。

 市当局から住民に対しては、十分な説明や質問に対する回答がないままの強硬ながれき搬入である。

 すでに現地での処理が可能となったにもかかわらず、石巻市から1400kmの北九州市での処理になぜ固執するのか、納得できる説明がない。

<大阪市>

  大阪市は6月の幹部会議で、東日本大震災で発生した岩手県のがれきを人工島・夢洲ゆめしまの焼却灰処分施設「北港処分地」(73ヘクタール、大阪市此花区)で受け入れることを決めた。6月末から、橋下徹市長も出席して地元の此花区などで住民説明会を行った上で、来年2月から本格的に受け入れを始め、2012、13年度で計約3万6,000トンを処分する。

 市の計画では、7月の市議会に提案する補正予算案に関連経費約9500万円を計上。11月に舞洲まいしまのごみ焼却施設で試験焼却を行った後、処分地に放射性物質を吸着する鉱物「ゼオライト」を敷き詰め、焼却灰を埋め立てる。来年度予算案にも約3億9000万円を計上する予定。受け入れ量は12年度約6000トン、13年度約3万トンという。

(2012年6月20日17時56分 読売新聞)

 そして、8月末に説明会を開催したが、市民からの疑問や質問を途中で打ち切った橋下市長はいらだちを隠せない様子で「皆さんの意見で市の方針を決めるのではない」「あなたたちの何倍もの市民が賛成している」などと述べ、数人の男性が壇上に詰め寄り、警察官らに制止される場面もあったという。

(出典:毎日新聞2012年08月31日橋下市長:震災がれき受け入れで説明会 緊迫の場面も)

◆東日本大震災により発生した被災地の廃棄物の処理に関する基本合意書 
http://www.city.osaka.lg.jp/hodoshiryo/cmsfiles/contents/
0000179/179477/kihongouiname.pdf


<三重県>

  震災がれきの広域処理問題で、三重県の鈴木英敬知事は7月13日、同県伊賀市の産業廃棄物処理業「三重中央開発」を訪れ、がれき処理後に生じる焼却灰の受け入れを要請した。

 金子文雄社長は「できるかぎり協力したい」と前向きな姿勢を示した。同社が灰の受け入れを決めれば、同県への震災がれき搬入が一歩前進する。鈴木知事は「手応えはあった。市と一緒に丁寧に住民説明をしていく。最終的には伊賀市長と相談して決める」と述べた。

 同県では、名張、伊賀市で構成する伊賀南部環境衛生組合と尾鷲、熊野市、多気町の3市町1組合が受け入れを検討する方針を表明。同組合と多気町が説明会を開始した。

 がれきを受け入れた場合、日常のごみと交ぜて焼却する。県は多気町と尾鷲市、熊野市の焼却灰を受け入れている三重中央開発に灰処理を打診していた。

 同社によると、従来の焼却灰は焼成し、土木工事の路盤材にリサイクルしている。震災がれきの焼却灰は、処分場内で埋め立て用覆土材にするという。【伝田賢史、田中功一】、

(出典:震災がれき焼却灰:伊賀の業者に受け入れ要請…三重知事  毎日新聞 2012年07月14日)

 市直轄の焼却炉や処分場を持っている北九州市、大阪市とは異なり、三重県では県知事が音頭をとり、県内の小さな自治体の焼却炉での処理、灰の埋立は民間産廃業者1社を当てにして進めようとしている。

 この間、熊野市、伊賀市、多気町の3カ所で学習会を開催してきたが、これまで三重県・和歌山県では原発立地計画が持ち上がったときにも徹底した市民運動で阻止してきた実績があり、市民は今回の瓦礫の受け入れについても各地区が連携した運動を展開している。

 そもそも、県知事が当てにした尾鷲市、熊野市、多気町の焼却炉はそれぞれ機械化バッチ炉で焼却能力も小さい。灰の処分場も十分にととのっておらず、県内民間処分場に委託しているような状況であるにもかかわらず、なぜ、それらの地域が受け入れ先としてノミネートされるのか、不思議である。

 それに、最終処分場についても、立地地域である伊賀市や名張市の住民を飛び越えて、県知事が直々に民間業者に要請に行くというのも理解に苦しむ。自分の県内に受け入れの余力がないにもかかわらず、受け入れることに固執するということはその背後になんらかの利権があるのではないかと勘ぐられても仕方がない。既に三重県は瓦礫受け入れのために7000万円ほどの補正予算を計上し準備を整えている。

 各地域の市民グループは、三重県知事宛に、瓦礫受け入れに対する疑問を申入書としてぶつけ、知事からの回答に対してその矛盾や問題点をさらに追求するという抗議活動を続けている。

 その一方で、県内松阪市長が「瓦礫受け入れ不要」との考えを表明しているとのことから、受け入れ対象地域の市民団体が直接松阪市長に面談し、三重県や知事との相違点を浮き彫りにするなど攻勢を強めている。

 また、がれき搬出先の岩手県久慈市長に対しても直接公開質問状を送っている。熊野市でも市長への陳情書提出、署名提出、県知事あて質問状などを次々と繰り出している。多気町でも町議や町長への働きかけを強めようと市民グループが連携を強化している。

 多気町(人口15000人)の焼却炉は機械化バッチ炉、処理能力は日量7.5tの小さな炉であり、到底2000トンもの瓦礫を受け入れる余地はない。岩手県久慈市の担当者に電話で問い合わせてみた。

 久慈市は現時点で4000tの広域処理対象廃棄物があり、そのうちの2000tを三重県に受け入れて貰うことで岩手県と環境省が三重県と調整を行っているという。久慈市には三重県民から多数の意見、苦情、問い合わせなどが寄せられているとのことだが、久慈市は直接交渉できる立場になく、条件が整えばお願いしたいということで県の調整結果を待っているところであり、受け入れ先の状況なども把握していなかった。

 久慈市の可燃ごみは、広野町・久慈市・野田村・普代村の1市1町2村からなる久慈広域連合が運営している久慈地区ごみ焼却場で処理されているという。バグフィルタ付き全連続焼却炉、処理能力60t/日×2炉の設備であるが、久慈市の割り当て分が日量6トンと少ないためここでの焼却には限界があり広域処理を希望しているという。

 しかし、受け入れ側は尾鷲市(22.5t/日×2炉)、熊野市(15t/日×2炉)、多気町(7.5t/日×2炉)と小さく、いずれも機械化バッチ炉である。しかも灰の処分場は市内にない。

 明らかに三重県との調整を進めている岩手県と環境省、そして、県内の実情を知っているはずの三重県知事に問題があると言わざるを得ない。岩手県久慈市から三重県多気町までは約1140km、熊野市までは約1220kmもの距離である。放射能レベルも低く既に分別されているというのであれば、なおさら、地元あるいは近隣地域での処理を進めるのが当然のことではないだろうか。

 新たな調整は行わないと明言したあとも各地で続けられている広域処理受け入れのための調整、説明会、試験焼却などは何のためなのか、改めてその必要性・経済面からの妥当性・意思決定の正当性の面から問い直すことが必要だ。