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目黒清掃工場建替事業
環境影響評価書案に係る
「都民の意見を聴く会」の公述

池田こみち
環境総合研究所顧問
環境行政改革フォーラム副代表

掲載月日:2016年3月2日
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 「目黒清掃工場建替事業」環境影響評価書案に係る「都民の意見を聴く会」の公述人
として以下の通り公述した。


1.対象事業の名称 「目黒清掃工場建替事業」

2.公述人

 氏  名  池田 こみち(いけだ こみち)
  住  所  176-0012 練馬区豊玉北4−25−9
        (勤務地 152-0033 目黒区大岡山1-31-4-401)
  電話番号  03−3993−6532

3.公述内容

 2015年7月に開催された「目黒清掃工場建替事業環境影響評価書案説明会」に参加したが質疑応答の時間も短く十分に参加者の疑問を払拭することが出来なかった。また、この度公表された「見解書」においては、説明会で指摘された疑問について十分な見解が示されていないので以下の点について、口述し事業者の見解を質す機会としたい。

(1)清掃工場の規模について

 東京二十三区清掃一部事務組合は、目黒清掃工場について、引き続き600t/日が必要としているが、清掃一組の廃棄物処理基本計画と各区が策定している基本計画との整合性がどの程度とれているのか疑問が残る。規模の必要性・妥当性についての説明が不十分である。

 そもそもアセスメントの対象が事業アセスであるため、建替事業(ハード)のみであり、なぜ、今後も600t/日の規模が必要となるのか、またその経済的・環境的・社会的妥当性についてはアセスメントが行われていない。

 その背景には、清掃一組が策定している一般廃棄物処理基本計画において、「循環型ごみ処理システムの推進」を計画していることがある。23区民、23区政としては、「循「環型ごみ処理システム」(すなわち清掃工場の継続的な更新・稼動)ではなく、以下にして本来の「循環型社会」を形成するかを求めていくことが重要であるはずである。

 人口も減少傾向が続き、平成に入ってからごみ量も減少の一途を辿る中、一層のごみの排出削減、減量化、資源化を進めていくことこそ共同して取り組むべき課題で有り、過大なハードを整備し続ければごみの減量化は進まず、資源化率も頭打ちとなるのは当然の理屈である。

 ハードのアセスメント以前に23区の廃棄物政策そのものの政策アセスメントの実施が不可欠であると考える。経済的、環境的、社会的な妥当性を考える上で、中間処理を業務とする清掃一組の組織の縮小こそ検討すべき課題である。

(2)清掃工場が過密に集中する23区内の大気汚染について

 評価書においては、目黒清掃工場からの寄与は小さく、すべての項目で基準値を下回るとしているが、23区においては、廃プラ焼却を開始して以降、ダイオキシン類や水銀の一般環境濃度は必ずしも改善されていない。筆者等は、市民参加により松の針葉が吸収・沈着している大気中ダイオキシン類濃度について、廃プラ焼却開始前から今年度まで、3年ごとに検証を行っており、特に東京南部エリアでダイオキシン類や水銀濃度が悪化していることを実証している。

 その背景には焼却廃棄物中の廃プラ混入率が5〜6%程度であったものが、廃プラ混合焼却開始後上昇に転じ、17〜20%へと増えているため、焼却炉への負担も大きく環境への影響が顕著となっている原因と考えられる。

 現行法制度の下での大気中ダイオキシン類濃度や排ガス中ダイオキシン類濃度の測定監視方法(環境濃度は年に数回、排ガス濃度についても年に2回など)については課題もあり、必ずしも現況濃度を反映を再現していない。また、ダイオキシンについては、ダイオキシン類対策特別措置法が制定された当時に制定された環境基準値(0.6pg-TEQ/m3以下)を評価基準とすることは、現状の汚染レベルを踏まえても、国際的な評価基準を考慮しても適切ではない。

 また、予測については、目黒清掃工場の立地位置が目黒川沿いの地形的にも低い場所にあり、周辺が高層ビル群に囲まれていることなどから地形や建物を考慮した三次元シミュレーションが必要である。本件アセスメントにおいては、半径6kmの周辺地域の風洞実験(1/2000)により拡散パラメータの補正を行っているとの説明があったが、これが妥当なものかどうかについて、十分な説明が行われなかった。

 焼却炉の立地点は、武蔵野台地を目黒川が削って谷を造り、東京でも有数の複雑な地形を作っているエリアである。また周辺の都市化、過密化は進み、目黒川に沿って走る山手通りや山手線線沿線道は高層ビルが林立し少なからず拡散を阻害している。

 そうした複雑な地形での焼却炉の立地に際して、仮に風洞実験により大気安定度などのパレメータを検証したとしても、3次元のシミュレーションにより、目黒川を谷間と両岸沿いの高層ビルなどを具体的に配慮しない限り、正規のプリュームモデルでは、地形や建築物がもたらす乱流拡散による高濃度地点は検出できない。

 また正規プリュームモデルでは、いわゆるダウンドラフト現象により煙突周辺半径500m内の高濃度も再現できない。

 さらに正規プリュームモデルによるシミュレーションによる年平均や季節平均値では、結果が非常に過小評価となり、多くの場合、結果は、いずれも一桁から二桁、現実より低い値となる可能性が高い(公述人らは、多くの事例を実際に検証している)。

 素人目には半径6kmの模型による風洞実験を行っていることが非常に高度な解析を行っているかのように見えるが、コストがかかる割にこうした風洞実験は、いわゆる「事大主義的」なものであって、本来、周辺住民が求める解析となっていないことに留意する必要がある。

(3)広域的・累積的な影響の考慮について

 大気汚染はもとより、各種の公害項目については、当該事業による影響だけでなく、周辺地域の既存施設(主として清掃工場)、道路等発生源からの広域的・累積的影響についても考慮すべきである。ひとたび清掃工場が建設されれば、既存の目黒工場周辺住民が指摘しているように、簡単に住居の移転、転居はできないことから、30年余にわたってその影響を受け続けることになる。まさに、地域間不公平を生じさせることに他ならない。

 23区においては、現状の焼却炉の数、規模を以下に削減し、その影響を軽減できるか、また、経済的な負担を軽減できるかを多面的な代替案をもとに検討すべきで有り、本件のように600t/日の規模の清掃工場を建設することが所与のように推進することは、都民の意識からはかけ離れたものであり、見直しが必要である。