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書評
『クリントン・キャッシュ』
〜外国政府と企業がクリントン夫妻を
『大金持ち』にした手法と理由〜

ピーター・シュヴァイツァー著


評者:池田こみち
Komichi Ikeda
掲載月日:2016年12月1日
 独立系メディア E−wave Tokyo  
無断転載禁


  『クリントン・キャッシュ』ピーター・シュヴァイツァー著
〜外国政府と企業がクリントン夫妻を『大金持ち』にした手法と理由〜
  ピーター・シュヴァイツァー著 
  
  日本語版監修 あえば直道
  発行所 株式会社LUFT メディアコミュニケーション
  定価 1800円(税別)


これは英文版原本の表紙


これも英文版の漫画本の表紙


日本語版表紙

はじめに

 本書は、アメリカでは2015年5月に発行された。著者のピーター・シュバイツァー氏は米国のベストセラー作家だが、J.W.ブッシュ大統領のスピーチライターを務めるなど政界に深く関与し、これまでも著書『Throw Them All Out』や『Extortion』の中で、ワシントンの政治家の金と権力にまつわる裏の実態を鋭く暴くドキュメンタリーを発表し注目されてきた人物である。

 その彼が、今回の大統領選のさなか、2015年5月に発表した『Clinton Cash』は、全米を揺るがす大ヒットとなり大メディアがこぞって取り上げ、著名な学者、評論家などが高く評価した。トランプ氏が選挙戦終盤のディベイトで「ヒラリーは拘置所に行くことになる」などと強気の発言をした背景にはこの本があったことは間違いない。

  もちろん、発表当初からクリントン陣営は「でっち上げ」として非難したが、未だに法的手続きも取っていないことからして、シュヴァイツァー氏とその調査チームの綿密な裏付けが、提訴を阻んでいるのだろうとの見方が専らである。 本の出版に引き続き、映画も発表され、YouTubeで見ることが出来る。また、今年に入ってからは漫画本も発売され、今やトランプ陣営だけでなく、全米がクリントン夫妻にまつわるお金の問題に注目しているといっても過言ではない。

  さて、本書の日本語版が発売されたのは2016年2月のことである。監修に当たられたあえば氏は、シュヴァイツァー氏の発表済みの著作の内容、評価、などを見極めて日本語版の出版を決めた、と出版に至る経緯を話されていたが、まさに日本でも主要なメディアこそが本書の内容を取り上げ報道するに値する内容だったと思う。アメリカではAmazonで何ヶ月も売り上げ第一位、書評コメント数も膨大な数に上っていたという。

  しかし、日本のメディアでは英語版発表以降、現在に至るまでほとんどまともに取り上げられず、話題にもなっていなかった。そればかりか、各メディアともクリントンの圧勝を予測し、トランプ氏の暴言や詭弁にばかりスポットを当てるというお粗末な米大統領選挙報道に終始した。ちなみに、2016年12月01日時点でGoogle検索してみると、次のような結果となった。

  全Webサイトとニュースを、“”付きでクリントン キャッシュについて比較してみたが、特にニュースとしては、ほとんど報道されていないことが分かった。このことからも、日本では本書のことが全くと言って良いほど話題とならなかったことが明らかである。

 2016.12.01調べ "Clinton Cash" vs "クリントン キャッシュ"
   インターネット検索数


                    全Web    ニュース       動画
---------------------------------------------------------------
 クリントン・キャシュ(日本語)    10,900       43        128

 Clinton Cash(英語)      60,800,000    3,490,000     120,000

調査:池田こみち

概要

 まず、本書の内容について紹介しておくこととする。以下は、アマゾン英語版の
紹介内容である。(日本語訳は筆者:一部意訳)

 2000年、ビルとヒラリー・クリントンは数百万ドルもの法的債務を負っていた。しかしその後、彼らは1億3000万ドル以上を稼いでいる。この金はどこから来たのか?ほとんどの人は、クリントンが、収益性の高い本の販売や、講演によって数十万ドルの高額報酬を得ることで彼らの富を集めたと考えている。しかし、著者ピーター・シュヴァイツァーは、本書を通じ、その巨額の金を実際に支払った人々が誰なのかを明らかにした。

 シュヴァイツァーのニューヨークタイムスでのベストセラーとなった二つの著作『Throw Them All Out』と『Extortion』は、ワシントンの公的腐敗の構図を詳細に明らかにし、国会議員を辞任に追い込み、また、新しい倫理法の制定への契機となった。クリントン・キャッシュでは、クリントンの金の流れに沿って、彼らの個人的な運命と、非常に親しい個人的な友人たちとの関係、クリントン財団の果たした役割との関係、彼らが係わった外国の国々、そしてそれぞれの政府の高官や最高ランクの人々とのつながりを明らかにする。

  シュヴァイツァー氏は、カザフスタン、コロンビア、ハイチなどの世界経済の端っこに位置するいわゆる「ワイルド・ウェスト」といった周辺でのクリントン夫妻の厄介な取引を明らかにしている。この大ヒット映画では、シュヴァイツァーは彼が発見した厄介な事実を提示しているに過ぎない。綿密に調査され、慎重に集められた証拠に基づいて付けられた見出しの多くは暗示に満ちている。クリントン・キャッシュは、深刻な判断の問題、多国籍企業への負債の可能性、そして最終的には高い地位の公職につく人間の人としての適性の問題を提起しているのである。

 映画   Clinton Cash Movie Full
      https://www.youtube.com/watch?v=7LYRUOd_QoM


 本章の目次 (日本語版と英語版より)注)の数は全編で633と膨大

 まえがき 数字は各章の注の数

 第一章 グローバルな「リンカーン・ベッドルーム」 ....32
 The Lincoln Bedroom Goes Global

 第二章 事業譲渡 ....87
 The Transfer: Bill's Excellent Kazakh Adventure

 第三章 ヒラリーによる「リセット」 ....88
 Hillary's Reset : The Russian Uranium Deal

 第四章 インドの核 ....72
 Indian Nuke: How to Win a Medal by Changing Hillary's Mind

 第五章 クリントン・モザイク(T) ....41
 The Clinton Blur(I): Bill and Hillary's Global Nexus of
 Philanthropy, Power and Profit

 第六章 クリントン・モザイク(U) ....31
 The Clinton Blur(U):The View From Foggy Bottom

 第七章 演壇の経済学 ....56
 Podium Economics : What was Bill Being Paying For

 第八章 軍閥の経済学 ....93
 Warlord Economics : The Clintons Do Africa

 第九章 熱帯雨林の大富豪 ....57
 Rainforest Riches : Hillary, Bill and Colombian Timber and Oil
 Deals

 第十章 クリントン流・災害資本主義 ....64
 Disaster Capitalism Clinton-Style : The 2010 Haitian Relief Effort

 第十一章 「汚職」のボーダーライン ....12
 Quid pro Quo?

 謝辞

所感

 以前から、クリントン氏は1回の講演料が数千万円と聞いて、いったい何の話をどれくらいするのだろうかと疑問に感じていたが本書を読んでそのからくりが明らかになった。政治家には企業が直接献金できないのはアメリカでも同じである。そこでクリントン夫妻は、ビルが大統領を退いた2001年5月にクリントン財団を設立し、環境問題、人権問題、女性問題、人種問題、災害問題、途上国支援など、いわゆる「食いつきの良いテーマ」を掲げて慈善活動を行うとして各方面から寄附を集めた。その額は巨額である。

 また、財団がビルやヒラリーの講演の窓口となり、巨額の講演料が振り込まれた。最高額は1回の講演料が70万ドルというから驚きだ。それだけならまだしも、オバマ大統領となってヒラリーが国務長官であった期間には、クリントン財団に巨額の寄付を行った企業が、政府の政策判断、政策変更(規制緩和や許認可)によって、本業の分野で大きな見返り、利益を得ていることが詳細に明らかにされている。個人的な現金のやりとりなどについても触れられているが、警察が検挙するだけの証拠がなくても、事実を時系列に子細に見ていくと、間違いなく財団に寄附した企業、財団の理事などに座った人物の会社とクリントン夫妻との癒着が浮き彫りになるのである。

 ヒラリーが決断したひとつひとつの案件・決定について、与野党から批判の声があがってもほとんど大きな議論となること無く決定事項となりその後に関連企業が利益を得ているという構図である。

 その中には国内企業ばかりで無く、ロシア、サウジアラビア、インドなどアメリカ側からすれば、要注意国の企業や政治家も多く含まれており、まさに利益相反が歴然となっている。

 漫画本や映画で子細に取り上げられているのは地震後のハイチの支援に係わる問題である。当時、ヒラリーはハイチ支援の前面に立ち、膨大な資金援助やインフラ支援を約束したが、結果としてハイチに投じられた資金のうち、実際にハイチの役に立ったのは10%にも満たないのではないかと指摘されている。ほとんどがクリントン財団にまつわる企業の利益となって消え、見返りにクリントン夫妻が巨額の資金を得ることになったのだ。

 こうしたクリントン財団、すなわりクリントン夫妻の金儲けの実態をアメリカの多くの国民は選挙を前に始めて突きつけられ、愕然としたのだろう。多くの読者がメディアがなしえなかった詳細な裏付けを調査に基づくこの本の内容を大統領選を前に「読むべきである」とし、その上で「我々は本来の民主主義を手にすることができる」、とシュヴァイツァーの努力を賞賛したのだ。

 とはいえ、今回の大統領選のトランプ勝利はこの本の影響だけではない。既に独立系メディア E-wave Tokyoを主宰する青山貞一が繰り返し分析し発表してきたように

青山貞一 ヒラリー・クリントンの七つの課題
 http://www.eritokyo.jp/independent/aoyama-col58384046.htm

のひとつに過ぎない。それとても一度として取り上げることの無かった日本の大メディアとは一体何なのか、日本の民主主義こそ危機に瀕していると言えるのではないだろうか。

 大統領選は終わったが、是非、一読されることをお奨めしたい。