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多摩地域のごみ問題を考える
〜立川市清掃工場移転を機に〜
池田こみち
環境総合研究所(東京都)
掲載月日:2013年4月1日
 独立系メディア E−wave  無断転載禁


 花冷えの3月最終土曜日、立川市の清掃工場移転問題を機に結成された「立川ごみ懇談会」主催の「ごみと環境問題:ごみ減量と清掃工場のあり方を考える」と題した講演会が開かれた。寒い中、50名弱の方が参加された。

 この講演会は、立川市民でもある岩佐恵美さんからの依頼で講師をお引き受けすることになった。岩佐さんは国会議員を通算4期勤められ、ダイオキシン問題にも熱心に取り組んで来られ、環境政策の立案や研究の先輩でもある。

 立川市では、古くなった現清掃工場の建て替えに先だって新清掃工場の建設予定地が発表されるなど山場を迎えている一方で、5年で可燃ごみの50%を削減するという目標年次があと2年に迫り、市当局は家庭ごみの有料化も検討しているとのことで俄にごみ問題への関心が高まっているという。

 東京23区と異なり、多摩地域は30の基礎自治体がそれぞれ市単独あるいは複数自治体による共同処理(広域処理)など独自の取り組みをしていることもあり、隣接する町の廃棄物政策やごみ処理施設がお互いにの環境に影響を与えるという複雑な状況を抱えている。

 私の講演の流れは以下のように組み立ててみた。


図1 「ゴミ減量化」と「ごみ焼却施設」について考える
出典:池田こみち

1.多摩地域のごみ処理の現状
 417万人の人口を抱える多摩地域でのごみ処理がどのように行われているかを概観し、多摩地域の焼却炉の密度が案外高いことを示した。一般廃棄物の焼却炉は稼働中の施設が18施設、炉は46炉、大気環境基準の適用施設にすると170余もの炉があることを知る人は少ないだろう。多摩地域として一つずつでも清掃工場を減らすための取り組みが共通のビジョンのもとにできない現実が浮き彫りになった。


図2 多摩地区の焼却工場一覧
出典:池田こみち

2.立川市のごみ処理の現状
 その上で、立川市の抱える廃棄物処理の問題点を整理してみた。老朽化した清掃工場の問題点とともに、立川市の廃棄物政策の目玉である「5年で可燃ごみ50%削減計画」によって可燃ごみの組成がどう変わってきたのか、立川駅周辺の事業系廃棄物の減量化は可能なのかなど、現状を認識することが大切である。


図3 立川市のごみ量の推移 
 出典:池田こみち

3.ごみ焼却と環境汚染
 次に、古い清掃工場は排ガス中ダイオキシン類濃度も高めであるし、維持管理費もかかるので建て替えざるを得ないとすれば、清掃工場は新しければ問題ないのかという点が重要になる。そこで、焼却偏重の日本の清掃工場が抱える問題点を整理して示した。大都市では清掃工場の密度も高く、廃プラスチック類の焼却率も高いことからヨーロッパ諸国に比べ、依然として大気中のダイオキシン類濃度は高めに推移していることや、その監視体制や法制度は旧態依然であり、未規制の様々な有害物質が環境中に排出されていることなど、焼却炉が安全なものというのは原発神話に通じるものがあることを知っておく必要がある。


図4 東京都内ダイオキシン類排出量内訳
出典:池田こみち

4.廃棄物処理のためのコスト
 そして、清掃工場に依存したごみ処理というものがいかにコストのかかるものか、23区や首都圏の大都市と比較して示した。東京23区は清掃一部事務組合が中間処理を行っているが、その年間予算は700億円を超えている。ただし、収集運搬や最終処分の費用は含まない。一方、多摩地域のごみ処理経費は、年間600億円余りで推移しており、立川市の場合にはトン当たり4万円〜4万5千円と首都圏の政令指定都市と変わらないことも明らかになった。新たに清掃工場を建設すればさらにコストは上昇する可能性もあるのだ。


図5 多摩地区のごみ処理費用の動向
出典:池田こみち

5.まとめ:循環型社会の形成のために必要なこと
 そして最期には、多摩地域として清掃工場問題から脱却するビジョンを描き、それに向けて進むことができないのか、改めてごみ処理を清掃工場に過度に依存する日本の廃棄物政策の歪みを指摘した。燃えるか燃えないかでごみを分ける日本のスタイルが如何に異常か、資源化できるか、できないかで分別するゼロ・ウェイスト政策になぜ移行できないのか、改めて考えてみた。


図6 まずは、発生抑制、排出抑制こそ優先施策とすべき
出典:池田こみち

 上記について約1時間お話しした後、10分ほど休憩を取り、後半は参加者全員で質疑応答及び意見交換を行った。立川市の市民ばかりでなく、稲城市、国立市、日野市など周辺地域からも参加していただき、市民レベルで多摩地域の廃棄物問題や廃棄物政策について議論できたことは有意義だった。

 以下、今回の講演会を企画された岩佐さんからのメールを紹介しておきたい。過分な評価を頂き、恐縮しています。

 私の講演が多摩地域のごみ問題を市民レベルで議論するきっかけとなったとすれば、大変喜ばしいことである。この場を借りて主催された「立川ごみ懇談会」の事務局の皆様にお礼を申し上げたい。清掃工場の建て替えには時間がかかるのでその間、有意義な議論を展開し、立川が先進的な廃棄物政策を推進できるよう頑張って欲しい。

−−−終了後の岩佐さんからの感想
昨日の講演内容はスッキリわかりやすく、会場の発言にもありましたように、参加者は、いかに日本のごみ行政が遅れているか、行政の情報公開がされずに市民がないがしろにされているかを、素直に受けとめ、今後、市民としてどう行動していったらよいかという思いにかられたのだと思います。参加者の胸に、ごみについての現状と問題点がすとんと落ち、これからどう行動したらよいかという思いが芽生えたということは、今後につながるとても貴重な機会だったと思います。全体の参加者数はそう多くありませんでしたが、通常、私たちごみ懇の講演会には参加されない他市を含めた方々が参加され、率直で斜に構えることのない意見を出され、活発な討論の機会を得られたことは、私たちの今後の活動にとっても、とても貴重なことでした。池田さんのていねいな講演準備に、参加者は、きっと感銘を受け、真面目に議論に参加してくれたのだと思います。後半部分の討論の内容がよかったのは、基調講演のたまものだったと感謝しています。