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PCB処理施設(JESCO)見学記

池田こみち鷹取敦

掲載日:2007年9月8日



 9月3日から始まった国際ダイオキシン会議が7日金曜日午前中の総括報告、学生による優れた研究の表彰式等が行われ一通り終了した。参加人数は主催者報告に寄れば述べ1200名近くに及んだとのことだ。金曜日午後は、希望者によるPCB処理施設の見学が行われた。海外からの参加者も多く参加しバス3台に分乗して、会場のホテルオークラから中央防波堤の処理施設に向かった。

 PCB処理施設とは、平成13年に制定された「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法(PCB特措法)」に基づき、過去に使用され保管されていることになっている高濃度PCBを安全に処理することを目的として作られたもので、全国に5カ所(北海道、東京、豊田、大阪、福岡)に設置されている。100%国が出資する国策会社である。
 施設の詳細はhttp://www.jesconet.co.jp/をご参照いただきたい。

 簡単にこの施設におけるPCB処理の概要を説明しておくこととしたい。

◆JESCO(日本環境安全事業株式会社)とは
     旧環境事業団(特殊法人)の実施していたPCB廃棄物処理事業を継承して設立された政府全額出資の特殊会社である。
設立 平成16年4月1日
平成16年 日本環境安全事業株式会社設立
環境事業団を解散し、業務を日本環境安全事業株式会社及び環境再生保全機構に承継した。

資本金 6億円(全額政府出資)
監督官庁 環境省
会社根拠法 日本環境安全事業株式会社法(平成15年5月16日法律第44号) 取締役には環境省職員が就任している。

◆東京事業所
 東京事業所は、平成17年11月に創業を開始し、まもなく2年目になろうとしている。メインプラントは、プロポーザル方式により三菱重工の脱塩素化分解方式を採用している。処理能力は日量2トン、埼玉、東京、千葉、神奈川の1都3県を受け入れ対象地域としている。
 旧環境事業団を転身組織であるため、従業員は旧環境事業団職員と環境省からの出向、そして、プラントメーカー(三菱重工)社員となっている。

◆処理の対象となるPCB機器類
 高濃度(50ppm以上)で10kg以上のトランス類・コンデンサ類とPCB油。
 ただし、東京施設では、50ppm以下の低濃度PCB機器類(柱上トランス等)の処理も行っている。

◆処理の手続
 処理の対象となるPCB機器類を所有保管する事業者は、会社の提示する処理料金(全国一律)に従って、処理する機器類の重量に応じた料金を支払、処理を委託する。最低処理重量は10〜15kg以上のクラスで422,000円となっている。ちなみに、100kgだと711,000円だ。

◆処理の技術
 持ち込まれた高濃度PCB機器類は、「脱塩素化分解方式によるPCBの化学分解」方式で処理される。そのため、同施設は特別管理廃棄物の中間処理施設として東京都の認可を受けているが、いわゆる煙突というものはなく、化学的な処理によってPCBが分解され、CO2と水になるというものだ。洗浄に使用した溶剤類(ISA:イソプロピルアルコール等)は、生成して不純物を除去し、繰り返し使用しているとのこと。
http://www.jesconet.co.jp/facility/tokyo/outline/outline_02.html

<技術の説明>
処理方式は、PCB分解には、水熱酸化分解法を採用し、容器・内部部材からのPCB除去には、溶剤洗浄法を採用している。高圧トランスなどの容器の内部や内部部材に付着したり浸み込んでいるものも含めて化学的に分解する。洗浄や分解が終わり、払い出されるものは全て卒業判定後、金属などにリサイクルするために搬出される。


見学者一行(中央手前が池田こみち)

 会議室でPCB処理事業のひととおりの説明を受けた後、実際の施設を見学し、その後会議室に戻って質疑応答があった。以下は主な質疑の内容である。

 これはJESCOの事業所であるが、実際の施設の運営は三菱重工に委託されており、現場の職員も多くは三菱重工から派遣されている。派遣されている職員のPCBによる汚染の観点からの健康チェックは、JESCOが行っているということだった。具体的には血液中のPCB濃度を定期的に調べ、濃度が増加している場合には、対応するということである。

 東京事業所は三菱重工に委託されているが、全国に5つ設置されているJESCOのPCB処理施設は、それぞれ別の民間会社に委託され、別の処理技術を使って処理されている。東京事業所で高濃度PCBの処理に採用されている「水熱酸化分解」は非常に新しい技術であり、ここはこの技術を使った初めての施設であるため、当然、トラブルなどの発生も想定される。処理の対象となる油は粘土、不純物等がさまざまであり、管の閉塞が起こりやすいこと、洗浄の対象となる機器の形状によっては洗浄効果がなかなか出ないものもあるということだった。具体的にどの程度の頻度でトラブルが起こり、どれくらいの稼働率であるかまでは回答が得られなかった。


解体を待つトランス

 ウガンダからの参加者の質問は、PCBが使用禁止になる以前には、当然多くの人が汚染にさらされていたと思われるが、PCBが有害であることが判明した後、その人達をどのように治療したのか、汚染を取り除いたのかというものだった。これについてはJESCOの職員からの回答ではなく、会場の見学者からの情報提供であったが、体内に取り込まれたPCB汚染を取り除く有効な方法は未だに確立されていない、ということであった。カネミ油症事件後には、九州大学や福岡県などで対外排出の研究も進められているが、繊維質の野菜を摂取するといった程度の療法が紹介されているのみで、有効なものはないとのことだ。

 この施設で使われている水熱酸化分解の方法では、温度が370度で酸素の中で行われるため、ダイオキシンが生成される可能性があるのではないかという指摘があった。施設で塩素をモニタリングしており、その濃度からダイオキシンは生成していないと思うが、ダイオキシンを直接測定しているわけではないということである。この施設は、特別管理産業廃棄物の中間処理施設であるため、煙突から排出される時点でのダイオキシンは年に1回以上は測定しているはずではあるが、生成されているおそれがある場所では測っていない。塩素をモニタリングする比較的高い濃度と、ダイオキシンを測るべき超低濃度では、全くレベルが異なるため塩素を測ってダイオキシンの生成の有無が分かるわけもない。他の見学者からダイオキシンは発生しているんだろう、という声が聞かれた。


粗解体室の説明パネル

 この施設では受け入れの際に処理すべき機器の重さに応じて処理費用を取る。重量区分によって処理費用は異なるが、例えば10〜15kgの場合は42万円、100〜110kgの場合は75万円、1tの場合は400万円、という具合に細かく決められている。ちなみに20tを超えるものは原則として受け入れられない。この事業所で受け入れられないということは処理できる場所はどこにも無いということになるから、処理せずに保管しつづけなければならないということになる。

 上記の処理費用で全てまかなわれているのは操業に要する費用の全額と、施設建設費のうち半分ということであった。建設費の残り半分は国からあらかじめ補助されている。

 以上が会議室でもたれた質疑応答の概要である。他にも聞きたいことがあったがここで時間切れとなった。


アルカリ洗浄装置

 JESCOの前身は環境省管轄の特殊法人の1つ環境事業団である。特殊法人改革の一環として環境事業団のPCB廃棄物処理事業等を承継して作られた100%国出資の株式会社がJESCOである。旧環境事業団自身がPCB処理技術を持っていたということではないから、全国5つの事業所ではそれぞれ民間に委託して、処理施設を作り、運営も民間委託で行われる。

 東京事業所では「水熱酸化分解」の技術を持つ2つの会社からプロポーザル方式で三菱重工を選んだそうである。他の事業所では他の方法を採用している他の会社に委託している。

 そもそもJESCO(日本環境安全事業(株))には施設建設の能力も運用の能力もないのだから、JESCOが事業を行う意味はどこにあるのだろうか。PCBの処理の受け皿としてJESCOが指定されているため、JESCOの全国5つの事業所でPCB処理は独占されている。その一方で実際に処理を行っているのは民間の会社であり、JESCOの職員がいなければ出来ないというものではない。

 以前から本コラムでも指摘してきた(NHKでも昨年春に指摘されていた)環境省の外郭団体等への随意契約の問題は、単に不適切な理由で随意契約を行っているというだけではない。外郭団体からさらに民間への業務の事実上の丸投げ、その際に外郭団体から民間への委託先選定等がきわめて不透明であること、外郭団体が委託の元請けになることで利益を得て、環境省からの天下りの受け皿となっていることなど多くの問題がある。

 JESCOのPCB処理事業にも似たような構図が見られる。PCB処理そのものは国から発注されている事業ではないが、法律によって排他的にPCB処理を行う会社と位置づけられ、建設費が国から補助されている。株式会社になったとはいえ前身の環境事業団は環境省の外郭団体であり、現実にJESCOには環境省で廃棄物行政を担当していた官僚等が天下っている。JESCOのサイトには6人役員のうち国のOBである3人の経歴が掲載されている(特殊法人等整理合理化計画及び「公務員制度改革大綱」に基づく公表事項)。

取締役 比護 正史 財務省大臣官房審議官、
環境事業団理事
取締役 三本木 徹 環境省大臣官房付、
(財)廃棄物研究財団専務理事
監査役 加納 正弘 総理府社会保障制度審議会事務局長、
環境事業団理事
出典:http://www.jesconet.co.jp/company/pdf/yakuin181001.pdf


 なお、施設見学に話を戻すと、国際会議の会場であるホテルオークラからJESCOの事業所のある中央防波堤まで車でたった30分の距離を移動するバスは、旅行代理店(JTB)に委託され、添乗員までついていた。また、先のコラムで指摘したように、ダイオキシン会議のオープニングセレモニーは過剰に華美なものであり、演出はサウンドエンジニアのGOH HOTODA氏によるものであり、イベント運営会社に委託されているもではないかと思われるような趣向のものであった。

 JESCOではないがここにも安易に「丸投げ」し、高コストの原因となっている構図が見られる。ダイオキシン会議の実行委員会が、最終日の見学先にJESCOを選んだのは偶然ではないと感じた。

 見学は極めてスムースに窓越しに設備(受け入れ台、貯蔵タンク、洗浄タンクなど)を見るだけだったが、途上国から参加された見学者からは見学途中で細かい質問も出されていた。新たな環境技術として今後途上国などにも広がっていくのだろうか。技術への過信はときに思わぬ副作用、弊害をもたらす危険がある。透明性の高い運転管理を進めてもらいたいものである。

 施設のある江東区は都内でも大規模な廃棄物処理施設が集中している地域である。現に、すぐ隣には、東京23区一部事務組合による灰溶融施設、また、民間の特別管理廃棄物による廃棄物発電施設などが立地している。07年春に実施した23区南生活クラブ生協による松葉ダイオキシン調査では、東京都南部、とくに江東区内の濃度が高いことが明らかになっている。十分な監視体制も不可欠であろう。