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再生リサイクル製品から

有害ダイオキシン類等、高濃度検出


池田こみち Komichi Ikeda
環境総合研究所顧問
掲載月日:2019年5月18日
独立系メディア E−wave Tokyo
 無断転載禁


 連休中の5月1日に気になるニュースがIPENからリリースされました。再生リサイクル製品(子供のおもちゃなど)から有害なダイオキシン類等が高濃度で検出されたというものです。

 そして、連休明け5月11日にはバーゼル条約の締約国会議において、「汚れた廃プラの輸出を規制する」ことについて合意がなされ、日本では、益々廃プラの焼却が進むのではないかとの懸念が広がりました。

 その情報に加えて、IPENやその他の民間の有害化学物質を監視するNPOが、独自の調査に基づいて、廃プラのリサイクル製品に有害物質が高濃度に含まれているというのですから、益々、「廃プラはリサイクルよりも焼却へ」という流れが加速することが危惧されます。

 廃プラのリサイクルより焼却の方がよい、というのは完全に間違っています。リサイクルも今回のように、素材に臭素系難燃剤などを含むプラスチック製品がリサイクルされてまた子供のおもちゃなどになった場合、ダイオキシンを含んでいるなどとんでもなく問題が大きいですが、焼却はある意味もっと環境汚染、公衆衛生面でリスクが大きい処理方法です。

 汚染を大気中に拡散させ、農作物や不特定多数の人々の健康にリスクを与え、複合的な汚染は一層問題を複雑にします。おもちゃや食べ物は情報さえ適切に得られれば、リスクを回避することは出来ますが、大気は選べないからです。

 私たちが行っている市民参加の松葉調査では、松葉中に本来含まれてるはずのない、毒性の強い低臭素化のBDE(ジフェニルエーテル)が多く含まれており、ダイオキシン類が高い地域ではそれらの濃度も相対的に高い傾向が見られます。


出典:環境総合研究所 23区南生活クラブ生協による松葉ダイオキシン類調査
結果報告会PPTより


出典:環境総合研究所 23区南生活クラブ生協による松葉ダイオキシン類調査
結果報告会PPTより

 欧米では臭素系ダイオキシン類や臭素系難燃剤に対する関心が高く、規制の強化を求める声が強いのですが、いかんせん、日本ではまったくそうした動きは見られません。それどころか益々焼却強化に突き進もうとしているのです。

 実際、環境省が自治体に対して、産業廃棄物系のプラスチック廃棄物について自治体の焼却施設で受け入れてほしい、とする趣旨の通達を出すことが報じられています。受け入れれば財政支援を行うとしているようですが、これはとんでもないことです。

廃プラ、産廃も焼却要請へ 環境省、市区町村に 全体の8割占める
  毎日新聞2019年5月16日(木) 03時00分(最終更新 5月16日 03時01分)
  https://mainichi.jp/articles/20190516/k00/00m/010/010000c

 今回の再生プラスチック製品から検出された有害物質の問題をきっかけに、プラスチック製品の使用削減という抜本的な問題解決に向けた動きにつなげるべく、リサイクルか焼却かといった表層的な論争ではない、本質的な議論が世界で、そして、日本でも巻き起こることを期待したいと思います。

 以下、IPENのニュースリリースの訳です。あまり洗練されていない粗訳ですが、ご容赦下さい。


◆アルゼンチン、ブラジル、カンボジア、カナダ、EU諸国、インド、日本そしてナイジェリアといった国々で、子供のおもちゃやその他の再生プラスチック製品から高濃度のダイオキシン類が検出されている
High Levels of Dioxins Found in Children’s Toys and Other Products Made of Recycled Plastics Found in Argentina, Brazil, Cambodia, Canada, the EU, India, Japan and Nigeria
 IPEN 2019年5月1日発表(スウェーデン、イェーテボリ)

 アルゼンチン、ブラジル、カンボジア、カナダ、EU諸国、インド、日本そしてナイジェリアといった国々で販売されている再生プラスチック製品から、臭素系ダイオキシン類や臭素系難燃剤などを含むいくつかの最も有害な化学物質が驚くほどの濃度で検出されたことが明らかになった。

 ダイオキシン類は子供用の玩具や髪飾りから検出され、その濃度は、焼却炉から排出される灰など、有害廃棄物に匹敵するレベルであった。

 これらの結果は今週(5月第一週)、POPs(残留性有機汚染物質)及び廃棄物についての地球規模の政策強化を提案するため、バーゼル・ロッテルダム・ストックホルムの合同会議にあつまる世界の意思決定者たちに伝えられることとなる。

 臭素系ダイオキシン類は中でも非常に有害な化学物質であり、脳の発達に影響を及ぼし、免疫システムや胎児に損傷をもたらし、癌のリスクを高め、甲状腺の機能に障害をもたらすリスクをもつものとされている。これらの化学物質は、臭素系難燃剤の製造過程で、非意図的に生成される。

 また、臭素系難燃剤を含むプラスティックがリサイクルされ、新しいプラスチック製品として再生されるために熱を加えられると、さらなる臭素系及び塩素系ダイオキシン類が生成される。ダイオキシンやPBDEの濃度は調査対象としたすべての製品において確認された。そして半数の製品では、提案されている塩素系ダイオキシン有害廃棄物基準を超過していた。[1]

 調査を行った再生プラスチック製品の半分以上が、PBDE類濃度については現行の規制値である1000ppmPBDEを満たしており、PBDE類の緩い規制の範囲内だったれらの製品は、730〜3,800pgWHO-TEQ/gの臭素系ダイオキシン類を含んでいた。

ダイオキシン類は非常に低濃度であっても極めて有害な物質である。ダイオキシン類についての懸念すべきレベルは数十ピコグラムであることがわかっている。ダイオキシン類の濃度が非常に高い場合、PBDEの緩い規制が、PBDEだけでなくPBDD/F(臭素化ダイオキシン類)による潜在的な被害を受ける可能性があることを示している。

 環境衛生分野のアドボケーターらは、これらの致命的な有害化学物質を新製品から排除することができる2つの適切な政策を指摘している。ブラジル、カナダ、カンボジアそして日本はEU諸国とともに、世界的なPBDE禁止から、PBDE汚染プラスチックのリサイクルを許可するリサイクル免除を受けている。※

 残留性有機汚染廃棄物に対するより厳しい管理は、LPCL(残留有機汚染物質低含有レベル)として知られるより厳しい有害廃棄物に対する規制基準によって達成することが可能となる。

 こうした規制値をどう設定するかによって、禁止化学物質を含む廃棄物が隔離され破壊されるのか、埋め立て地や焼却炉に入れられるのか、あるいはリサイクルされるのか、貧困国への出荷が許可されるのか、その運命(行き先)が決まることになる。

 しかし、もし規制が緩ければ、また、もしLPCLs(の規制値)が高く、有害化学物質を含む廃棄物がより大量に流入することが可能になれば、その結果として、有害化学物質は、有害なリサイクル原料から作られる製品を汚染するだけでなく、ダイオキシン汚染もまた、増大させることになる。

 「塩素系ダイオキシン類は、エージェントオレンジの使用によるダイオキシン汚染などのように、今日もなお深刻な公衆衛生への影響を引き起こすことで悪名高い。」とIPENの科学技術アドバイザーであるJoe DiGangi氏は述べている。

 「臭素系ダイオキシン類は塩素系と同様に有害で有り、こうした化学物質がいかなる消費財にも含まれることはあってはならない。ましてや子供用の製品には。」

 「POPs(残留性有害化学物質)とされる物質は永遠に(長期間にわたり)毒性を有している。POPs物質は明らかにされ破壊されるべきで有り、経済の循環の中に組み入れられてさらなる被害をもたらすことはあってはならない。」とIPENのダイオキシン・ワーキング・グループの共同代表であり、ArnikaのJinderich Petrlikは述べている。

 誰かが有害な廃棄物を子供のおもちゃに詰め込むと、子供を危険にさらすか、さらに悪いことになる責任を負うことになる。

 しかし、私たちの現在の政策である、PBDE(含有製品の)リサイクル免除(再生品化を認める)、そして現在廃棄されているPOPに対して私たちが現在持っている非常に緩い規制は、まさに、子供を危険にさらし、それ以上に悪い結果をもたらすことに繋がっている。

 有害物質(hazardous materials)を玩具にすることを許可しているのだ。消費財からPOPを排除するためにより厳格な規制・管理をおこなうことは、今や道徳的な義務ですらある。」

 リサイクル免除は単に国内の人々の環境衛生への影響に限らず、大量の廃棄物が最終的に行き着く途上国の人々に大きな影響をもたらすことになる。より安全側にたった規制を提供するために、研究者は以下を推奨する:

@リサイクル製品について、現在提案されているDecaBDEについての1,000ppmの 規制を許容せず、むしろ、10ppmを規制値として設定すべきである。

APOPs廃棄物の定義(低POPs含有量レベル)に対するより厳しい規制、理想的に はすべての規制されたPBDEの合計に対して50ppmとしてそれを確立すること。

B現在ブラジル、カンボジア、カナダ、EU、日本、韓国、トルコで確立されてい るような、商業利用されているPenta-とOctaBDEのリサイクル免除を撤回する。

C世界的な削減と撤廃のために、ストックホルム条約にPBDD/Fを追加する。

Dバーゼル条約の枠組みの中で電子廃棄物の定義を改善する。

※リサイクル免除とは
 ちょっと分かりにくいのですが、POPs条約対象のPBDEsを含む製品であっても、今のところリサイクル及び再生品の使用は許可されています。そのため、資源回収された難燃剤含有プラスチックやそれを利用した再生製品は今後も国際的に流通することが予想されます。(池田)

※IPENとは
 なお、IPEN(International POPs Elimination Network)とは、多様な文化、スキル、および知識を尊重し享受している、個人と公益団体のが構成するユニークなグローバルネットワークです。

 IPENは、化学物質の製造、使用、廃棄が人や環境に害を及ぼさない、毒性のない将来を達成するという共通の取り組みを共有しています。IPENはスウェーデンで非営利の公益団体として登録されています。