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公共工事の諸問題
予定価格の原点から考える
その2
 「予定価格」の総額主義に関連して

阿部 賢一

2006年7月7日


3. 総額主義に関連して

3−1 予定価格の総額主義


 わが国の公共工事契約の特徴は、「予定価格」の総額主義の原則である。予決令第80条第1項に「予定価格は、競争入札に付する事項の価格の総額について定めなければならない。」と規定されている。


 『平成四年版官公庁契約精義』では、この「総額主義の原則」を次のように解説している。すなわち「予定価格は、仕様書や設計書に基づいて作成され、一定の給付の個々の要素についての員数と単価の積数及びこれらの総額が算出されるものである。」*

 「員数と単価の積数」を別の言葉で言えば、工事内訳項目(細目)の数量に単価を掛けて金額を出し、それを全部集計して総額を算出するという数量内訳(明細)書である。

 欧米諸国の工事契約では、この数量内訳(明細)書は契約書類を構成する書類であり、工事のさまざまな局面で重要な役割を果たす。しかし、わが国の公共工事契約では、設計図書には含まれていない。

* 高柳岸夫・村井久美共著『平成四年版官公庁契約精義』(建設総合資料社)---227p

 公共工事標準契約約款(以下、契約約款という)第一条は次のように規定されている。

 「発注者(以下「甲」という。)及び請負者(以下「乙」という。)は、この約款(契約書を含む。以下同じ。)に基づき、設計図書(別冊の図面、仕様書、現場説明書及び現場説明に対する質問回答書をいう。以下同じ。)に従い、日本国の法令を遵守し、この契約(この約款及び設計図書を内容とする工事の請負契約をいう。以下同じ。)を履行しなければならない。」

 契約約款には、契約の発注者名、請負者名、契約年月日、契約金額、契約期間が明記される。この契約金額は、入札・落札された金額、すなわち「契約総額」が記入される。すなわち落札総額が記入される。

 すでに述べたとおり、低価格入札が続発する状況に対応して、最近では、発注者側の国交省・地方自治体が工事費内訳書の徴収の拡大を図って、工事コストの調査を行なうようになった。

 この重要な工事費内訳書、すなわち公共工事契約の一般的な数量内訳(明細)書が契約書類に含まれていないということが、予定価格内訳の秘密主義と重なって、わが国の公共工事コストを極めて不透明なものにしてきた元凶である。

 総額主義が原則といいながら、落札価格の内訳を調べるからということで、契約約款に含まれていない工事費内訳書を入札者に提出させるということも、発注者側の「お上意識」で、どう見ても対等な契約関係とはいえず、矛盾している。工事の出来形全体に対して、総額いくらで請負うかという、極めて単純な契約方式がわが国の従来からの公共工事契約である。

 平成17年3月、国土交通省は新しい積算方式「ユニットプライス型積算方式の解説(以下、『解説』という)」*を公表した。従来からの「予定価格」の「積み上げ積算方式」から「ユニットプライス型積算方式」へ移行する方針を決定し、平成16年12月から舗装工事の一部を対称に試行を開始した。

*国交省国土技術政策総合研究所総合技術研究センター建設システム課
 http://www.nilim.go.jp/lab/pbg/unit/kaisetsu.htm

 平成17年度(2005)内には、試行件数を平成16年度(2004) の8件から43件に増やし、発注する舗装工事の約半数を「ユニットプライス型積算方式」が占めることになった。

 また平成17年度中に道路改良工と築堤・護岸工で、農林水産省では管水路工で「ユニットプライス型積算方式」を試行することになった。

 先進国も発展途上国も含めて海外ではすでに一般的な「ユニットプライス型積算方式」の導入がわが国では、なぜ平成16年度から始まったのか。

 国交省は、「ユニットプライス型積算方式」による「総価契約単価合意方式」といい、海外は「単価契約」であると『解説』ではいっているが、筆者も含めてわが国の国際工事経験者は一般に「総価単価」方式といっている。

 それは、総価一式金額[Lump Sum Price]で発注者と請負者が合意し、契約書類として、その内訳である数量内訳(明細)書が付くからである。

 『解説』では、「日本では、会計法において、雑役務以外については、単価契約が認められていないため、総価で契約した後に単価協議・合意を行なう、総価契約単価語合意方式をとっている。」という。

 その根拠は、予決令第80条第1項ただし書には、単価による予定価格の決定が例外的に認められていること、すなわち、一定期間継続してする製造、修理、加工、売買、供給、使用等の契約については、単価契約を予定し、これら単価についての競争に係る予定価格は、単価について定めることができる、としている*。
-----『平成四年版官公庁契約精義』228p

 単価契約するものについての、上述の説明で明快であり、これが一般の工事(施設物)の出来形に対する契約総価の内訳明細の単価と、その意味するところが異なることは明快である。

 予定価格の総価主義の原則については『平成四年版官公庁契約精義』に述べられていること以下に紹介する。

 「ある入札価格を構成する一部の要素についてみれば、他の入札の価格の場合のそれより有利であっても、一定の給付に対する総額において国に不利であれば、これを落札価格にすることは適当でない。すなわち、入札による競争は総額によって行なうことが適切である。したがって、予定価格についても、個々の構成部分の単価について定めることなく、入札に付する事項の総額についてさだめることとした。」-----『平成四年版官公庁契約精義』227p

 この説明は工事(施設物)をつくる契約の各入札者の工事費内訳の単価がそれぞれ異なるのはその積算方針や根拠が同一でないので当然のことであり、入札者の見積もり内訳の安い単価の部分だけを発注者がつまみ食いすることができないことも当然である。「単価」についての『解説』の解釈がどうしてこのようになるのか、どうもわからない。

 契約約款第三条では、請負者は、「設計図書に基づいて請負代金内訳書(以下「内訳書」という。)及び工程表を作成し、発注者に提出し、その承認を受けなければならない。」と定めながら、第2項で、「内訳書及び工程表は、この約款の他の条項において定める場合を除き、発注者及び請負者を拘束するものではない。 」と規定されている。

 入札者に「内訳書」は提出させるが、契約当事者間を拘束するものではない、と規定して、予定価格では単価を定めない、とした考えを契約約款に反映させたものである。

 「内訳書」には発注者の承認が必要としながら、それが契約当事者間を拘束する契約書類とはしないというのもおかしな論理である。

 入札競争は総額によって決まるというのは当然であるが、その内訳である個々の構成部分の単価について定めないで、構成部分の全体をまとめた総額について定めるという。個々の構成部分の単価はあくまでも、予定価格の内訳、すなわち発注者側の予定価格算出根拠にしか過ぎない。個々の構成部分の集計が総額であるのであるから、予定価格の構成内訳であり、この構成内訳の単価はあくまでも発注者側の積算資料であり、例外としての「単価契約」は別として、それで契約するわけではないはずだ。

 入札者側は総価(総額)を提示し、落札・契約するのであり、発注者が要求する工事費内訳書はその内訳明細である。落札者の総価を落札とするなら、個々の構成部分の単価を「契約」に受け入れることに別段問題はないはずである。工事変更に伴う数量の増減や項目の加減については、設計変更に伴う処理に、その単価をどのように使うかを契約約款に定めればよい。
契約約款第18条「条件変更等」及び第19条「設計図書の変更」が規定されており、当初の契約総額の変更があり最終契約総額が増減する場合が想定されている。

 請負者側の工事費内訳書は、契約上当事者間を拘束しないというのも、考えてみれば奇妙なことである。

 総価を落札とするのなら、その内訳明細書を認めればよいのである。発注者側が、請負者の工事費内訳書に不明な点があれば、契約交渉でそれを両者協議して項目の変更や数字の訂正などを協議すればよい。最低入札価格自動落札方式というが、契約前に相互に契約内容を点検すべきは当然である。

 海外で一般的になっている数量内訳(明細)書を、入札書類として、入札者に記入提出させればよい。入札者に発注者が指定した書式での工事費内訳書を提出させれば済むことである。

 海外ではアンバランスドビッドということが行なわれやすいので、発注者の数量内訳(明細)書のチェックは入札プロセスにおける必須チェック項目のひとつである。アンバランスドビッドとは、簡単にいえば、工事開始当初の工種項目の単価を意識的に高くし、工事最終段階の項目の単価を意識的に安くするという入札である。これによって工事当初に工事支出金額を、「出来高払い」において出来るだけ多く入手しよう、工事資金をできるだけ早く回収しようとすることである。

3−2 総価単価方式

 海外で一般的な総価単価方式を、なぜわが国の公共事業発注者はやってこなかったのか。予定価格は総価であり単価は定めないという考え方をしてきたのだろうか。
しかし、平成16年度から始まったな「ユニットプライス型積算方式」による「総価契約単価合意方式」が、会計法や予決令を改訂せずに、試行できたこと、そして今後本格導入が予定されているということは、現行の会計法規の中で、十分実行出来ると云うことを如実に示している。


 その原因は、わが国公共事業者独特のこれまでの工事費積算方法にある。従来からのわが国の公共工事費積算方式は、「積み上げ積算方式」と呼ばれるものである。

 現行の「積み上げ積算方式」では、まず直接工事費の総額を産出し、それに共通仮設費率を乗じて共通仮設費を算出し、それにより得られる純工事費(直接工事費+共通仮設費)に現場管理費率を乗じて現場管理費を算出し、最後に工事原価(直接工事費+共通仮設費+現場管理費)に一般管理費率を乗じて一般管理費等を算出して、これらを合算して工事価格を算出する。

 それぞれの適正な「率」を決めるためには、膨大な資料収集作業とその分析が必要である。

 これを体系図化すると別紙−1のようになる。

別紙−1 公共土木工事費の積算体系
出典:http://www.kensanren.or.jp/page/kokyokoji.pdf

 『解説』では、現行の「積み上げ積算方式」の課題(外部から寄せられる意見)として5項目を挙げている。

1−価格の根拠が不明確-----発注者が契約の当事者でない下請業者と資材供給業者の間の取引を聞き取り等により調査しているため、その価格の信頼性にはおのずと限界がある。

2−民間活力が導入しにくい-----発注者が施工のプロセスを想定して作成した積算参考図書を示すため、受注者は創意工夫の意欲が低下。

3−契約上の協議が難航------単価合意をしないため施工量の増減の場合の契約変更金額が不明確。

  発注者が必要と考える事項についての条件明示をするため、明示のない条件が変わった場合の変更協議が難航

4−工事目的物の価格が不明確------直接工事費と間接工事費が別々となっているため、工事目的物と価格との関係が不明確。

5−積算業務に労力がかかる------積算業務や労務単価等の調査に労力・時間がかかる。

 さらに、予定価格算出のためにさまざまな調査、資料収集をおこなってきた。すなわち、「単価表を構成する歩掛、機械損料、資材単価、労務単価は、それぞれ膨大な調査を行なって、標準的な値として平均値や最頻値を求めている。」と述べ、一例として、「通常の舗装工事では、一つの工事について150個程度の単価表を積み上げる作業が必要になる」という。 
 この「積み上げ積算方式」の膨大な作業を官庁発注者は、直轄・直営時代からと延々と続けてきたのである。

 従来からの積算方式を根本的な「考え方」から変えるのであるから、なかなか踏み切れなかったということだろうが、世界の趨勢がすでに「単価」方式であるのに、いつまでも「孤塁」をまもっていられなくなったということで、これもWTO等グローバル化の影響でもある。

 膨大な労力をかけた「積み上げ積算方式」を基にして算出された予定価格が適正価格なのかという疑問も内在している。平均的といわれる材料単価や標準的といわれる工法で算定された予定価格と、各入札者の個別の状況や条件に基づく応札価格との乖離が生じている可能性も関係者から指摘されている。

 発注者側の想定するいわゆる適正な「予定価格」と、世の中の「実勢価格」、請負者側の施工する「実行予算」とは、同じ工事コストの算出にあたっては全く別のものだという実感がわが国関係者にはある。膨大な資料を収集して、それらをベースに「予定価格」を設定しても、それが、実際の施工ではどのような費用支出になっているかを検証したという報告は残念ながら見出せない。

 予算は獲得することに意義があり、単年度で使い切ってしまうことを主眼にしてきたからであり、事後の監査に目を向けてこなかったが、最近になってようやく事後評価が始まったばかりだ。

3−3 「ユニットプライス型積算方式」の導入

 『解説』では、現場状況の把握をさらに進めて、できるだけ現実に合致した的確な積算を行い、「予定価格」をできるだけ「実勢価格」に近づけるための手段として『ユニットプライス型積算方式』に着目し、その導入の試行に着手したと、国交省はいう。

 これまでの経過を振り返ると、公共工事コスト削減について、政府は、平成9根1月、全閣僚を構成員とする「公共工事コスト縮減閣僚会議」(以下「関係閣僚会議」という。)を設置した。関係閣僚会議は、同年4月、「公共工事コスト縮減対策に関する行動指針」(以下、旧指針という。)を策定し、平成9年度から11年度の3年間で、当初目標のコスト縮減率が約10%を達成したと報告している。

 さらに弾みをつけて、政府は、平成12年9月、「公共工事コスト縮減対策に関する新行動指針」(以下、現指針という。)を新に策定した。そして、それを実行に移すことで、平成14年度までのコスト縮減率は12.9%、卸売物価、労務費等の下落を考慮した実際の工事コスト縮減は20.6%となったとの報告がなされている*。

* 平成11年4月、国交省 公共事業コスト構造改善プログラム(解説) 平成17年7月25日
http://www.mlit.go.jp/tec/cost/cost/050725/pdf/03.pdf

 そして、さらなるコスト縮減を目指して、平成15年9月、「関係閣僚会議」は、「公共事業コスト改善プログラム」を決定した。この中で、「単価等の積算の見直し」が大きな項目となった。すなわち、「積算価格の説明性・市場性の向上をはかり、積算業務の省力化等を推進するとともに、新たな入札契約方式への対応等を図ることを目的とし、現行の積算手法等を見直す」ことになったのである。

 そのための施策事例として、「施工単価方式」による積算体系の導入、市場特性をより適正に反映した資材単価の採用」が掲げられた。

* 公共事業コスト構造改善プログラム 平成15年9月29日
http://www.mlit.go.jp/tec/cost/cost/pdf/150929.pdf

 わが国政府はこのようにさまざまなコスト縮減策を進めてきたが、より一層のコスト縮減を目指して、予定価格の積算方式として、ようやく「ユニットプライス型積算方式」の導入を開始したのである。これでようやく欧米先進国その他ですでに一般的となっている発注者側の工事費積算方式を採用することになった。

 このために平成5年度から、積算体系(工事工種の体系化)の整備、数量算出要領、施工管理基準、共通仕様書等の改訂整備を着々と進めてきた。

 コスト縮減のためのさまざまな「単価」問題についても、わが国の議論の通例で、用語の定義が明確になされずに、さまざまな用語表現がなされている。国交省や財務省の報告書などをざっと読むと、「施工単価方式」による積算体系、「ユニットプライス型積算方式」、「施工単価」、「市場特性をより適正に反映した資材単価」、「市場単価」などの用語が頻出する。

ユニットプライスはunit priceでありその一般的な邦訳は「単価」である。ただ単価といってもわかりにくいので「施工単価」、「市場単価」というのがわかりやすい。
(財)経済調査会では、建築及び土木の「市場単価」を別紙‐2のように定義している*。

* 市場単価とは?
https://book.kensetsu-plaza.com/syosai/sijyoutanka.html

別紙−2


【土木工事市場単価・港湾工事市場単価・地質調査市場単価】  元請・下請間の間に形成された施工単位工事あたりの取引価格のうち、次の要件を満たしたものを指します。

 1.「民間」と「民間」との間での取引の実例があること(必ずしも取引の一方が専門工事業者である必要はなく、総合工事業者と総合工事業者との間の取引も含む) 

 2.施工単位当たりの取引が行われていること 3.「民間」と「民間」との間で良好な取引が行われていること 原則として、3つのうちひとつでも満足できない場合は、市場単価が成立しないこととなります。

【建築工事市場単価】 十分な市場競争のもとで元請・下請の間に形成された施工単位あたりの取引価格を指し、材料費・労務費・機械経費・運搬費および下請経費等によって構成される単位当たりの取引価格です。

【市場単価方式とは】 歩掛を用いず、この価格を直接工事費の積算価格の算出に用いる方式を「市場単価方式」といいます。

【市場単価導入のメリット】 公共工事を発注する際の積算は、原則として歩掛を用いて積上げる積算(歩掛積算方式)で実施されていましたが、市場単価が基本的に直接工事費に相当する施工単位当たりの市場での取引価格であり、積算の機動性の確保、市場における各種の価格決定要因の円滑な予定価格への反映、施工業者間の取引価格の基準化、発注者の積算業務の合理化・省力化等により、官公庁の積算においても幅広く用いられてきています。

【調査の概要、調査基準等】 導入工種、導入までの考え方、調査概要およびその条件、単価設定条件等の詳細につきましては『季刊 土木施工単価』および『季刊 建築施工単価』誌面をご覧下さい。


 『解説』では、『「ユニットプライス型積算方式」は、受注者(元請企業)と発注者が総価で契約した後、ユニットごとに合意した価格を、発注者がデータベース化していき、ユニット毎に実績のデータベースの単価(ユニットプライス)を用いて積算する新しい積算方式』*と述べている。

* 「ユニットプライス型積算方式の解説」
 http://www.nilim.go.jp/lab/pbg/unit/kaisetsu.htm

3−4 ユニットプライス型積算方式の効果と留意点

 『解説』で、結論としては「ユニットプライス型積算方式」を採用することにより、従来の「積み上げ積算方式(歩掛積算方式)」に比べて、積算業務が相当程度簡素化され、発注者側の「予定価格」設定業務の効率化・省力化が図れる。」と説明している。

 その効果として、次の5項目を挙げており、発注者、受注者双方にメリットがあると主張する。それぞれの項目についての『解説』のいう効果とそれに対する筆者のコメントを述べる。以下、「」内が『解説』の記述である。

@価格の透明性、説明性の向上

 「発注者が契約当事者であり、発注者と元請業者との合意単価をベースにユニットプライスを直接的に調査できるので、価格の透明性、説明性が向上する。」

 これまで、物価本(建設物価調査会「月刊建設物価」、経済調査会「積算資料」「建築コスト情報」「土木コスト情報」等)をベースに「価格設定」がなされてきたが、発注者側は、元請業者・専門工事業者間での取引市場における実勢価格を調査し、その結果を 「市場単価」として公表されることになり、積算価格の透明性が確保されるとともに、元請・下請間の取引価格の適正化への期待がある。

 そして、発注者と請負者の合意単価がデータベース化される。

 入札する各社が自らの実情(人員、手持ち機械器具、現場経験、地元協力業者との連携等々)に合った自らのコスト設定が必要になる。過激な競争環境でダンピング入札をすると、落札価格が下落、その結果、工事が赤字化、請負者は自分の首を絞めることになりかねない。

 通常の場合、費用と頻度の分布形は、最頻値を中心に安い側高い側対称形に減少する山形となるが、予定価格の上限拘束性のため、落札価格は、予定価格以上の費用が発生せず、費用と頻度の分布形は安い側はなだらか、高い方は急坂の歪んだものとなる。このためのデータの調整が不可欠である。


出典:国交省国土技術政策総合研究所総合技術政策研究センター建設システム課
   「ユニットプライス型積算方式の解説」(『解説』)
http://www.nilim.go.jp/lab/pbg/unit/kaisetsu.htm

A民間活力(創意工夫)の導入促進
「発注者が積算を行なうために想定した施工のプロセスを示さないため、受注者の技術力の活用や新工法の採用など、創意工夫の意欲が向上する。今後予定されている「性能規定発注方式」にも馴染む積算方式である。」

 従来、発注者が施工のプロセスを想定し作成した積算参考図書(例えば数量計算書等)を示すため、それらをベースにして入札価格を積算する。このため、受注者には創意工夫の意欲が低下していたが、今後は「完成イメージ図」と完成性能仕様が与えられるから、あとは、入札者は自分で数量を拾い出し、入札者独自の歩掛りを定め、その持つ技術力を発揮し、歩掛りがまだ整備されていない新工法を採用するなどして、入札するということになる。技術力や積算能力のない業者は脱落して行かざるを得ない環境が生まれることが期待されている。

B契約上の協議が円滑化

 「施工数量が増減した場合、契約変更金額が容易に算出できる。条件変更の場合、変更協議が容易になる。」

 かに数量変更の場合、「単価」x「数量」で計算は簡単になる。しかし、付随する条件がその変更によって変わってくる場合、「積み上げ積算方式」ではできた細かい工種も、材料・労務・機械経費・運搬費および下請経費等一式などが、ひと括りにまとめられ、「一式金額」ということで、一方的に請負者に押し付けられる可能性がある。ユニットプライスの「積算範囲」、すなわち、「ユニットに含まれる費用の明示」と、その「設定」には充分慎重に対処し、発注者、請負者双方に共通の理解がなければならない。

 例えば、筆者が経験した事例だが、窄孔ヶ所数やその窄孔総延長が半減すると、仮設や投入窄孔機械などの稼動減少を強いられ、条件設定が変化するので「窄孔単価」が当初の設定と違ってくる。すなわち、実行予算の窄孔費用が割高になる可能性(数量が多ければ単価は安く、少なければ、仮設・運搬費用などの重みが加わり、高くなる)とともに、「窄孔単価」に組み込んだ「一般管理費」分が最終精算で減少する。

 すなわち、「工事原価」に、ある比率の「一般管理費」を想定しても、契約総額が最終精算で相当程度減額となると、予定していた一般管理費分が確保できなくなる、ということである。

 この様な事態を避けるため、海外工事の場合、数量増減に影響されない項目、いわゆる工事全体を運営するための「共通項目」が詳細に列挙され、直接工事項目と区別される。
例えば、現場事務所設営費、現場宿舎設営費、それぞれの撤去費などの共通仮設項目や、現場人件費、工事保険料、通信費、現場車両費、借地料、租税公課等いわゆる一般管理経費などの項目である。

 これらは[Preliminary Item]として、本設工事の工事単価及び数量とは別途に工事数量(内訳)書[Bill of Quantities]に値入れすることが求められる。多い場合は十数ページに及び詳細項目が列挙されている。

 このようにすれば、数量の変更関係と関係がないが、工事遂行の必須項目を列挙して、積算し、出来高払いとして、支払いを受けることが出来る。

 海外工事で、数量内訳(明細書)書が契約書類に含まれる総価単価方式の場合、工事その他の数量変更の規定で、±10%の場合は単価変更なし、それ以上の場合は、単価別途協議などと契約条件書に明記されたりしている。このため数量変更があった場合は、当事者間で当初総額(Lump Sum Price)で契約合意していても、最終数量精算段階でその総額が増減する。

 わが国の総額主義の契約でも、設計変更や、条件変更により、当初契約総額が、最終精算で、その総額は増減される。

 「積み上げ型積算方式」では、「工事原価」の「間接工事費」としての「共通仮設費」と「現場管理費」、これと「一般管理費等」(「工事原価」x経費率)に大きく二分されており、振り分けができる。しかし、「ユニットプライス型積算方式」では、これが合算されると、請負者は、一般管理費を含めた「実行予算」を組むことになることに注意が必要になる。

 一般管理費とは、「会社の本支店での必要経費、試験研究費、公共事業としての適正利益」と定義されている*。

* 参照:別紙−1「公共土木工事費の積算体系」

「積み上げ型積算方式」では、工事原価の間接工事費や一般管理費等は経費率を乗ずる方式となっているが、「ユニットプライス型積算方式」では、それらを詳細項目化し、「経費率」を乗ずるというやり方をしない。
海外の「総価単価方式」では、「共通項目」[Preliminary Items]を設けて、「一式金額」ではなくて、出来るだけ詳細な項目建てにしてそれぞれの費用を積算するのが一般的なやり方である。この点について、『解説』には説明がなされていない。

C工事目的物と価格の明確化

「工種ごとに直接工事費とそれに連動する間接工事費が一緒になっているため、工事目的物と価格の関係が明確になり、工事コストの管理が容易になる。」

 民法第633条には「請負の報酬は、目的物の引渡しと同時にこれを与えなければならない。ただし、引渡しができないときは報酬を請求することが出来ない」と規定されている。現在行なわれている公共工事については、契約締結時の前払金(契約金額の40%以内)、中間前払金(契約金額の20%以内)、部分払金、完成時払金などに分かれて支払いがなされている。しかし、これは民法の規定のお目こぼしであり、民法本来の規定にもとづけば、工事対象物が出来たら請負者からの請求を受けて発注者が支払うという「出来形払い」システムである。すなわち工事対象物が完成したら工事代金を支払うのが原則である。公共工事契約が総額主義原則となっているためである。工事費内訳書は契約書に含まれず、工事対象物は単価契約はできないという解釈であったことはすでに述べた通りである。

 海外の総価単価方式の場合は、「出来形払い」ではなく、原則「出来高払い」である。工事数量(内訳)明細書が契約書を構成しており、すでに施工された数量に「単価」を乗じた金額を、月次払いで支払うのが一般的である。具体的な例を挙げれば、掘削した土量、埋め戻した土量、打説したコンクリート量の施工数量に単価を乗じて、毎月の「出来高」を集計して、その合計金額を請負者に支払うという方式である。
工種や構造物の部分の施工実績に応じて月次払いが行なわれるので、支払われる対象が明確化されている。

 わが国の工事代金の支払いが大福帳的な一括払いであるのに比べて、海外の工事代金は、工事の進捗状況に応じたきめ細かな進捗払い[progress payment, monthly payment]であり、これにより実行予算管理が出来るのである。

D積算業務の効率化
 
「従来、積算業務、労務単価調査等に多大な労力を掛けてきたが、それら各種調査の労力・時間の節約になる。」

 「積み上げ積算方式」は膨大な作業を必要とする。『解説』では、一例として、通常の道路「舗装」工事の場合、下位の単価表から積み上げていく必要があり、既述の通り150個程度の単価表を作成するとのことである。

 「ユニットプライス型積算方式」では、データベースから、工事の設計書のプライス条件に見合ったユニットプライス(単価)を選定するだけであり、複雑な単価表など作成する必要はない。

 これにより、発注者側の「予定価格」作成作業は労力・時間とも大幅に節約されることになると、容易に推察がつく。

 「ユニットプライス型積算方式」は言葉をわかりやすく言えば、「市場単価方式」であり、元請、下請間の取引価格による市場での価格である。「市場単価方式」とは、「積み上げ積算方式」における歩掛を用いずに積算する方法で、材料費、労務費、下請経費などを含む単位工事(工種)あたりの市場単価を調査してそれに数量を掛けることによりその工事(工種)の直接工事費を積算する方式である。

 それゆえ、発注者側の積算作業の効率化・省力化が図られるとともに、市場単価も公表されることになり、民間の取引価格の公開化、適正化が促進され、市場における価格の変化を迅速に予定価格へ取り入れられるということになる。

 市場単価が用いられた工事(工種)が試行段階を経て本施工されると、国交省「国土交通省土木工事積算基準」「公共工事建築積算基準」等の該当歩掛が削除され、市場単価そのものが入札価格積算に用いられるというプロセスになる。

3−5 「ユニットプライス型積算方式」(市場単価方式)への反論

1) 公共工事市場は市場原理が働かない(脇参議院議員)

 しかし、「ユニットプライス型積算方式」(市場単価方式)には、関係者からの反論もある。

 平成15年、建設省OBの脇参議院議員は、「公共工事市場は市場原理が働く本来の市場ではない」「公共事業の概念は適正価。市場がないのに市場原理で市場単価が決められるわけがない」と、安ければよいという価格重視で、不良・不適格業者参入とダンピング(過度な安値受注)激化の悪循環に苦悩する地方建設関係者を前に、全国各地の全建ブロック会議後の懇親会で述べた。さらに、「通常の市場は生産者が責任を持って価格と品質を決める。

 しかし、公共事業市場で生産者(建築業)はなにも決められない。すべて消費者(発注者)が、仕事の量から価格(予定価格)、工期を決めており、これは市場でもなんでもない」「建設業はサービス業であり、国などの代行業。サービス業を本当の市場的なものにしようとするなら、能力がある会社、良い仕事をする会社のサービスをどんどん買えばいい。

 つまり、発注者は消費者として、技術力や経営力を判断する対応が必要だ」そのために具体的には、「原価計算と適正利潤を決めて適正価にし、それを上限拘束とし、その中で競争すればいい。ただ、ちょっとした気遣いや技術力で良いものができたり、逆に悪かったりするから、基本的には価格ではなく、技術力をきちっと評価して決める。市場がないから、発注者自らが評価して一番いい企業を選ぶことが妥当かもしれない」「一番大事なことは、出したお金が無駄なく良い仕事に変わる、企業が仕事をしやすい仕掛けをつくることが本来の目的」であり、「建設業がきちんと仕事ができるようにすることが発注者の務めで、その部分がかなり抜けている」と価格競争だけを助長しかねない現状の地方自治体の入札・契約制度変更を批判した*。

*日刊建設通信新聞(平成15年12月17日記載)インタビュー記事 《公共事業に市場原理ない》

 脇氏は「適正価」というが、まずその前提として何が「適正」かの議論が必要である。そして、誰が「適正」と判断するのか。それ以前の問題として、脇氏は消費者(発注者)が公共工事のすべてを決めているというが、彼の言う発注者は、自治体首長、議会、役人たちであり、本来は国民の代理人である。

 しかしながら現実には彼らの都合で「公共工事」がさんざん利用され、国民の借金を増やし、ムダと指摘される「公共事業」を撒き散らしてきたこと、そのために、本当の発注者であるべき国民・住民からの厳しい批判、そのうえ、繰り返される「談合」多発による入札制度改革の目的をまったく忘れている。「均衡ある国土」政策で潤ってきた地方建設業者への配慮だけしか感じられない発言である。

 公共施設であるがゆえの「運用・運営」には「市場性」以外の「公共性」要素の重みがあるのは当然であるが、「公共施設」を造る「工事」そのものに「市場性」がない、という論理はおかしい。

 公共施設の「仕様」「質」などの諸条件を設定し、「モノをつくるという工事」を発注することに価格の「市場性」を持たせ、経済効率性を高めるべきは当然である。そして、「仕様」「質」などの諸条件を達成すべく、価格面だけでなく、経営面や技術力も加味して最適な請負者を選定し、工事の適切な「監督」、「監理」を行うことは発注者の責任である。

(2)「市場単価」ひとくくりに対する懸念

 公共事業の積算については、「積み上げ積算方式」では二省協定単価にもとづく労務単価により積算されてきた。

 これに労働者の標準的生産性を考慮した歩掛り調査が行なわれてきたが、「市場単価方式」となると、発注者と請負者の「実勢価格」を反映した「市場単価」での契約となるので、それらの調査の必要性がなくなる可能性がある。

 わが国の建設業態の特徴である重層下請構造のなかで、労働者の賃金が適正に保たれるという仕組みが適切に働かない現状、すなわち、下請叩き、下請苛め、労働者の低賃金など、下層になるほどコスト圧迫を受けやすいわが国の産業構造上の問題を考える必要がある。

 「市場単価」でひとくくりにされると、どのくらいの労力がかかるかという歩掛りの「考え方」排除され、かつ労務費へのコスト圧迫、すなわち二省(国土交通省、農林水産省)協定労務費調査が形骸化し、それに伴う設計労務費の適正な算定がなされなくなることへの懸念もある。

 その結果、発注者は、二省協定労務費や歩掛りにより、公共工事に携わる労働者の標準的生産性を考慮して「予定価格」を積算してきた従来の「積み上げ積算方式」での発注者側の意志が働かなくなくなることにもなる。

 国土交通省は当面、「ユニットプライス型積算方式」を契約件数で全体の44%を占める「舗装工」「道路改良工」「築堤・護岸工」の3工種からはじめ、順次他の工種へも進めてゆく方針である。

 しかし、すべての工種に適用できるかという問題、さらに重要なのは公共工事の発注の70%を占めるといわれる自治体発注の大多数の小規模工事には導入が難しいのではないか(自治体発注者の対応能力)、この場合「積み上げ方式」や「見積徴収方式」等との併用となり、結果的に期待されている「積算の効率化」が実現できるか、などが今後の検討課題である。

 公共工事のコストを安くするということが、最終的には、そのしわ寄せが、現場で働く建設労働者の低賃金化へと行きつくのが現実である。実際に現場で働く建設労働者の賃金、安全や労働条件などを守る、向上させる仕組みがまだまだ不充分かつ貧弱なわが国の状況の中で、「市場単価方式」の導入がどのような影響をもたらすのか注視していく必要がある。

■(つづく)------------------------------------
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