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ユビキタス社会の落とし穴    青山貞一

 
 米粒よりはるかに小さなコンピュータ(ICタグ,ICチップと言う)を野菜、果物、食品の包装紙の一部につけ、賞味期限、価格、産地、添加物の有無などをスーパーのレジや自宅で自動表示する。そんな時代がすぐそこまできている。

 こんなコンピュータネットワーク社会をユビキタス社会と言うらしい。ユビキタスは、いつでもこでも、コンピュータがネットワークすることを意味するそうだ。

 家電メーカーや大学の研究者、技術者は、ユビキタス社会を夢の社会と考えているようだ。しかし、これには大きな落とし穴がある、と思う。

 ユビキタス社会の第一の課題は、人権やプライバシーについて論議がなされないまま、一人歩きしている点だ。これは何もユビキタス社会に限ったことではない。

 しかし、豊で便利な社会を側面から支援するはずのユビキタス社会は同時に、ジョージ・オウエルが小説「1984」で描いた世界、すなわち官僚が高度に人間を管理する社会を技術的にサポートする可能性がある。田中康夫長野県知事が危惧する住民基本台帳ネットワークもユビキタス社会の一部と言える。だが、おそらくユビキタス社会が蔓延すれば、人権、プライバシーなど管理社会の被害、リスクはさらに拡大すると思う。これについては、機会を改め言及したい。

 第二の課題は、仮に冒頭に述べた食品など商品、消耗品にICタグ,ICチップがつけられた場合、消費者は当然その部分をゴミとして廃棄する。日本は世界で一番一般ゴミを燃やしている国だから、米粒よりはるかに小さいICタグも包装紙と一緒に焼却炉に入れられる。となると、ICタグ、ICチップに含まれる各種の重金属類が当然のこととして排ガスになり、焼却灰に含まれることになる。ICチップの詳細組成は不明だが、通常のICにはガリウム、ヒ素、セレン、水銀、クロム、カドミなどが含まれている可能性がある。ひとつひとつの量は少なくとも、日本中のスーパー、コンビニで使われれ、ゴミとして捨てられれば、総量は膨大なものとなる。

 現在、廃棄物のガス化溶融炉から重金属が排出される問題が専門家の間で大きな問題となっている。野菜、果物、肉、お菓子などにICタグ,ICチップがつけられ、廃棄され、それが日本中で焼却処理されるとなれば、大気中の重金属濃度が上昇することになるだろう。

 まともに製造者責任、排出者責任、汚染者負担が問われない日本では、単に便利さだけでこの種の技術が社会に蔓延すれば、間違いなく環境や健康へのリスクが高まるだろう。

 製造者が100%責任持ってICタグ,ICチップを回収し適切に処理することなしに、ノーテンキにこの種の技術至上主義的行為を歓迎することはできない。