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台湾で環境計画を考える
 池田 こみち

 掲載日:2004.8.17

●環境計画の存在意義と役割

「台北101」玄関前で

 お盆のさなか、久しぶりに台湾(台北市)を訪れる機会を得た。日本の環境基本計画は1994年に閣議決定されて5年後の1999年に改訂、2000年度から第二次計画を現在運用中である。環境省では、第二次計画の見直しにむけ、今年度の計画点検作業を終えてから本格的な作業に取りかかり、2005年度には第三次計画の策定を行う予定であるという。

 いわゆる警察行政といわれた事後対応型公害規制行政から未然防止型計画行政へとシフトしてから国レベルでは10年、自治体レベルでは20年近くが経過している。当初は公害行政から環境行政への転換として大いに注目され期待もされた環境計画だが、この間どれほどの効果を上げてきたのだろうか、今回の台湾環境省からのワークショップ参加要請を受けて、改めて考えるよい機会となった。

 私自身、コンサルタントとしてこの間、政令指定都市から人口2万人規模の町レベルまで20余の自治体の計画策定に関与してきたこともあり、環境計画がどのように自治体の政策の中に位置づけられ役割を果たしてきたのかについては、少なからず関心がある。経験から、計画が本当に生きたものとなるかどうかは、計画策定の前段階である調査の段階からいかに市民や事業者の参加を得て行ったか、またそれ以上に、日常的な環境行政を如何に市民や事業者とのコミュニケーションをとりながら進めているかにかかっていることは間違いないことであるが、どうも国レベルも自治体レベルも「環境計画」の影が薄いように感じられてならない。

 国レベルの計画について言えば、「環境基本法」に基づいて策定された計画ではあるが、国土交通省、農水省、経済産業省などの事業官庁の進める事業に対してそれほど歯止めとなっているとも思えない。個別開発事業の実施に際して行われる環境アセスメントもこの計画との整合性についてはまったく配慮されていないのが実態である。また、事業者や国民にとっても、身近なものではなくどのように運用されているのか、計画があることにより何がどう変わったのか、などについて関心を持っている人も少ないのが実態である。

計画の点検と見直し

 今回、台湾の国家環境計画(NEPP)の見直しに際してのアドバイスということで、改めて日本の環境基本計画の点検・見直し(改訂)がどのように行われているかについて情報収集するとともに、環境省の担当課へのヒアリングも行った。

 まず、日本の環境基本計画の場合、毎年、点検作業が行われている。何を点検しているかといえば、環境基本計画には、いわゆる数値目標・定量目標が盛り込まれていないため、11項目の戦略的施策の進捗状況が点検の対象となっている。

 点検を行っているのは、中央環境審議会である。点検の方法は次の通りである。

・アンケート調査
 全都道府県・政令指定都市・基礎自治体、国民、事業者へのアンケート

・ヒアリング(公聴会)
 全国3〜5カ所での国民各界各層からの意見聴取(1回10名程度)

・パブリックコメント
 E-mail、ファックス、郵便による意見の公募

・各省庁への関連施策照会(文書による)

となっている。これらはすべて環境省の計画担当課が事務局となり、民間のコンサルタントに調査を委託する形で中央環境審議会に提出する検討資料として用意される。それなりにお金と労力をかけた作業であるが、果たして今の環境基本計画の「点検」のための調査として有効かどうかはなはだ疑問である。

 自治体、事業者、国民の間でも年々環境への関心が高まり、取り組みも進んでいることは間違いないが、それが国の環境基本計画の戦略的施策の進捗と直結しているかと言えば必ずしも関係ないというのが実態ではないだろうか。また、他省庁の進める環境政策も国の環境基本計画に示された施策の推進として進められているというものではない。実際、環境省に寄せられるパブリックコメントの数も少なく、内容も個別環境課題に関する訴えや苦情のたぐいが多く、必ずしも計画の進捗点検に関係ないものが多いという。どうやら、環境計画の点検作業、見直し作業そのものを大きく見直す時期が来ているようである。

台湾環境計画への期待



 今回のワークショップでは、日本が現在直面する環境課題を紹介するとともに、上記のような日本の点検、見直し作業の実態を「反面教師」として説明した。台湾の計画は、オランダのNEPPを参考に定量目標が示されており、日本より実質的な点検見直しが可能となっていることは確かである。ただし、現計画の策定にはほとんど国民の参加はなく行政主導であったことから、見直しを契機に、市民や事業者の参加を進め、より市民やNGOにとって身近な計画として国全体の政策の上位に位置づけられることが期待されている。

 日本の自治体の計画策定は現在都道府県、政令指定都市ではすべて策定が終了しており、基礎自治体を含めて500の自治体レベルの計画が運用されている。一方台湾では自治体レベル、中でも市町村レベルの計画策定はこれからの課題となっている。しかし、重要なことは計画が策定されているかどうか、ではなく、策定した計画がどう生かされているのか、意味があるのかが問題である。台湾では是非、環境計画がより重要な役割を果たせるものになるよう期待したい。そのためにも今回のような研究者を交えたワークショップは有効なものであり、日本でも環境審議会での形式的な議論を繰り返すのではなく、見直しのあり方そのものの議論を一からやり直して欲しいものである。