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日本人外交官殺害の真相?(8)
   青山 貞一

掲載日:2004.5.11

 東京新聞は、2004年5月10日朝刊でひさびさより米軍誤射説を特集している。他紙が無視するこの国際的な重要事件を特集で追撃する同新聞は立派である。

 この日本人外交官(故奥大使)の銃撃殺害事件について、日本の警察庁は2004年4月、被害車両の鑑定などの中間報告を行った。

 ”案の定”と言うべきか、その報告は、「米軍誤射の可能性は低い」というものであった。しかし、政府、とくに外務省は依然として肝心な多くの情報を公開していない。まさに、「米軍誤射」の可能性が色濃く残っていると思えてならない。外務省、警察庁も自身があるなら、堂々と情報を公開し、現物(車、弾痕、破片など)も公開すべきである。

 警視庁の中間報告では、クルーザーを撃った弾痕が、現在イラクの武装勢力が日常的に使っているいわゆる「カラシニコフ自動小銃」の可能性を示唆している。その理由は、残存する銃弾の破片の重金属の含有分析と、入射角度だ。

 東京新聞は別の角度からこれを反証する。

 東京新聞がインタビューしたカラシニコフの使用経験がある日本人男性は、次のように証言する。

  「貫通した穴が大きすぎる。カラシニコフだともっと小さい。近くで撃てば、なおさらだ。それに弾痕が集中しすぎ。あの銃は撃った後の反動が大きく、車の窓から身を乗り出しながらだと、こうは当たらない。車内で固定するには薬きょうが飛び散り危険だ」と。

 さらに、「一台から前後の座席で撃つのも薬きょうの飛散から危険。となると、二台以上だが、車の後部には弾痕がない。わずかでも車間距離を保ち、これだけ的を絞れるというのは神業だ」とも述べている。

 一方、貫通した弾痕の角度分析だが、警察庁は車両の弾痕36カ所で、うち貫通跡は22カ所。そのうち弾の進入角度を測定できたのは10カ所、さらに9カ所が地上約1m高、すなわちほぼ水平撃ちと報告している。この水平撃ちが、米軍の高機動装輪車が屋上装備した機関銃からの発砲はないという中間報告となっている。

 しかし、東京新聞がインタビューした日本人男性は、米軍の高機動装輪車は何も屋上に装備されている自動小銃だけでなく、車の中からも銃撃することは十分可能であると証言している。そもそも奥大使が乗ったクルーザーが警告を受けた後、銃撃を避けようと道の畦側にどんどん入り込み、車体が傾いていったとすれば、水平撃ちという警察庁の報告は、根拠を失うことになるからだ。

 東京新聞の記事はさらに弾丸の破片の重量に大きな疑義を寄せる。

 不自然なのは、車内に残っていた弾丸の破片が少なすぎることだ。車内で発見された金属片のうち、遺体に残っていた分も含め、銃弾らしきものは49片で合計約35g。弾頭4発分強の重量だ。22発が貫通したのなら、何者かが弾丸を処理した疑いがある。それが「テロリスト」とは到底、考えられない、と。

 その通りである。さらに重金属分析を専門とする立場から言えば、遺体中の破片を含め捜査、検証の初期段階で上記については、部位別破片番号などに対応し、各重金属の分析結果、すなわち重金属の種類別の組成構成が示されなければならない。これは車中についても同様である。どこにあった(落ちていた)破片であるか、写真を含め、証拠として提示すべきである。

 通常、科学警察研究所が行う調査、分析、評価に準ずる報告があってしかるべきであろう。

 冒頭に述べたように、この事件について、外務省は徹底して情報公開を拒否していることが問題だ。すでに事件後、5カ月以上が経過している。もし、クルーザーが公開され、第三者が弾痕や破片の解析を行えれば、すなわちクロスチェックが行えれば、警察庁とまったく異なる結論に到達する可能性もあるだろう。

 情報公開法が施行されてこの方、外務省はもっとも情報の非公開が多い役所となっている。何でも外交上の機密などと言って非公開としてきたのである。しかし、今回、故奥大使のご遺族などのへの配慮を理由にしている。これが本当にご家族への配慮となるのか、ご遺族も実は本当のことを知りたがっているのではないかと推察する。

 疑惑はますます深まるばかりである。