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「虚偽告発」の恐れ濃厚!?
長野県議会、今後の行方

青山貞一

2006年2月18日


 長野県議会に設置されてきた百条委員会(以下、単に百条委)だが、田中康夫知事の言葉を借りれば、まさに長野県議会は小説のみならず事実よりも奇なり」だ。

なぜなら、この百条委は、長野県経営戦略局の元参事の発言にもとづき、地元新聞がスクープ報道したことに端を発して設立されたのだが、こともあろうか、長期にわたる百条委で明らかになったのは、その元参事の証言が「偽証」に相当するものであったとされるからだ。

 事実、百条委では事実認定をめぐる最終的な採決においてあおぞらの林奉文議員が「元参事の発言こそ『偽証』」と主張した。

 だが、百条委では林議員の主張は多数決で否決され、なんと元参事を“無罪放免”と認定したのである。

 他方、元下水道課長と田中康夫知事を「公用文書毀棄罪」と認定し、さらに田中知事の証言は「偽証」であると事実認定した。

 ※この間の「事実と経緯」の詳細については、以下を参照して欲しい。


田中康夫:
選挙を控えて必死の方々、ご自愛を

北山早苗:県議にとって悩ましき?2月県会
           報酬、条例、百条偽証の採決

北山早苗:知事へ文句を言いたい事は一つ。
           &、岡部氏と公文書隠蔽の真相


百条委は、どうみても本来、「偽証」と認定すべき者を”無罪放免”とし、他方、田中康夫知事の発言を無理矢理、「偽証」と事実認定してしまった可能性が高い。

 すなわち、この事実認定は、あまりにも政治的な意図に満ちたものであり、きわめて恣意的な判断(弾劾)であると言えるのだ。

 もし、田中知事及び北山県議が示す先の経緯が事実であり、真実ないし真実に相当するものであるなら、百条委で行われた田中知事「偽証」の事実認定の採決は、当然のこととして単なる思い違いや間違いではすまされない。

 まして、来る2月県議会で仮に事実にもとづかない田中知事の「偽証」認定をもとに刑事告発を行えば、その行為自体が刑法第172条に言うところの「虚偽告訴(告発)罪」となる可能性が濃厚となるからだ。

 ちなみに、刑法第172条の虚偽告訴罪とは、「
人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴、告発その他の申告をした者は、三ヶ月以上十年以下の懲役に処する」と言う罪のことである。

 簡単に言えば、「
他人に刑罰や懲戒を受けさせる目的で、起きていない犯罪の発生を司法機関に申し出る行為」である。

 この場合、刑法第172条における「虚偽」の申告とは、客観的事実に反する申告(告発等)を行うことを言う。採択に賛成した議員は、よもやこの虚偽告訴(告発)罪の存在を知らないはずがない。


 虚偽告訴罪は、虚偽の申し出による被害者が具体的に存在する点で、虚偽の申し出における告訴・告発の対象が存在せず、また事件も存在しない虚偽申告(軽犯罪法第1条第16号)とは異なる。

 虚偽告訴罪の法定刑は三ヶ月以上、十年以下の懲役、偽証罪の法定刑と同じ重罪である。

 ただし、告訴・告発した事件についての裁判が確定する前または懲戒処分が行われる前に虚偽であることを自白した場合には、刑が減免されることがある(刑法第173条)。


虚偽告訴罪の解説 
(申告者が裁判確定前、懲戒処分前に自白したときは刑を減軽、免除)

  1. 刑法172条:人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴、告発その他の申告をした者は、三月以上十年以下の懲役に処する。
  2. 「客観的真実に反する事実」を自己の確信に反して(虚偽であると知りつつ故意に)処分権限ある官署に申告した場合に限る(虚偽の申告)
  3. 客観的真実を虚偽であると誤信をして申告しても虚偽告訴にならない
  4. 実在する他人を刑事または懲戒処分を受けさせる「目的」が必要
  5. 「虚偽の申告」の虚偽は、未必的認識(虚偽であってもかまわない)で足りる
  6. 虚偽の申告をしても官憲の職務を誤らせる危険のないときは本罪は成立しない
  7. 被害者の承諾があっても本罪の成立に影響しない
  8. 未遂:正当な権利行使でも告訴意志ないのに脅迫すれば権利乱用であり本罪となる 
  9. 虚偽告訴罪は親告罪(被害者等の告訴がない限り刑事訴追のできない犯罪を言う)ではない。したがって、被害者による告訴だけでなく、第三者による告発も可能である。                                                    

今後、2月の県議会で百条委が認定、採決した田中知事の「偽証」を長野県警あるいは長野地検に告発した場合、次の2つが想定される。すなわち、告発が受理されるか受理されないかである。

 明確なことは、いずれの場合も「偽証」でないことを意図して「偽証」として告発したことが明らかになれば、その告発そのものが虚偽告発として法的に問われることになる。

 
2月8日の会見で田中知事が述べた次の一節に象徴される県議諸氏の言動が法的に問われることになりかねないのである。

 「
明らかに一方的で、狂信的ともいえる魔女狩りの歴史がこの信州の地で刻まれていくという場に立ち会える数奇な運命に感謝を申し上げたい 

  長野県議会には、反田中会派による感情的な価値判断と、皆で渡れば怖くないと言う集団心理によって、事実がねじ曲げられることがないよう、切に希望したい。