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グローバルIT時代の交渉  
青山 貞一


掲載日:2004.4.12
  
 8日〜11日における3人の人質解放交渉の経緯を見ていて非常に気がかりなことがある。

 それは、このグローバル情報通信(IT)時代、政府首脳やその代理人などがテレビ番組に出演し安易な発言をしたことが、そのままあるいは数時間後に交渉相手に伝わる可能性である。

 11日午前中、フジテレビ、TBS、NHK、テレビ朝日などでは、安部官房長官はじめ元大使、国会議員、政府の説明員らが出演し、人質救済問題を議論していた。武装勢力が「自衛隊のイラクからの撤退」のみを人質解放の条件としていたことから、上記の政府及び与党系の関係者は、「テロには屈しない」とか「自衛隊撤退には応ぜず」さらに「テロとは交渉しない」と明言していた。

 問題は、その後の発言である。アルジャジーラテレビへのFAXにより人質解放の可能性がリリースされた後、明確に「撤退しなくて良かった」「政府の対応は正しかった」といったコメントを述べる人間を意図的に出演者として登場させ、次々に発言させたことだ。

 この数時間のマスコミ報道は、まだ何ら人質解放が具体化、実現していないにもかかわらず、「政府の対応は正しい」さらに「正しかった」というメッセージを伝えた。報道機関は自ら「政府の対応は正しい」などと言えないこともあり、さまざまなコメンテーターを使い、そういう世論誘導を行おうとしていたと推察される。

 問題は政府の意向を先取りした報道機関による恣意的な情報操作疑惑だけではない。もっと深刻な問題は、「テロには屈しない」とか「自衛隊撤退には応ぜず」と言う政府首脳の発言と、それに続く「政府の対応は正しい」さらに「正しかった」というメッセージが、武装勢力はもとより解放を仲介している関係者の耳に簡単に入ることである。

 もし、政府なり与党が本気で人質解放を優先したいならば、実際に解放が実現するまで、この種の発言は厳に慎むべきであり、各種報道機関も安直に政府広報に通ずる番組は控えるべきではなかったのかと考える。