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北朝鮮ミサイル発射
〜狙いと背景を分析〜

日刊ゲンダイ

掲載:2006年7月6日

─ Dailymail Businessより ───────
■ その狙いと背景とこれからを分析
■ 北朝鮮ミサイル7発発射と万景峰号入港禁止を見る内外の専門筋
■ 独裁崩壊寸前のこれだけの事態
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意図も意味もよく分からない発射だが、
政治的にも軍事的にも効果はあったのか、なかったのか

アメリカの金融制裁で追い詰められた金正日政権の抑えが
きかなくなった軍部暴走の危機的状況が始まっている
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「どうせ脅しに決まっている」「撃てるはずがない」――と甘く見ていた日本政府を嘲笑うかのように、7発ものミサイルを発射した北朝鮮。独裁国家は日本人が考えるほど一筋縄ではいかないことを見せつけた。

 それにしても驚かされたのはテポドン、ノドン、地対艦ミサイルなど、さまざまな射程のミサイルを矢継ぎ早に7発もぶっ放したことだ。1発ならまだしも、世界中が自制を求めるなか、カネなしの北朝鮮が総額数十億円もかけてこれほど多く撃つとは一体どういうつもりなのか。

 今回のミサイル発射が、米国へのメッセージなのは明らかだ。これまでも北朝鮮は、米国を動かそうとするたびに「核カード」「ミサイルカード」を切ってきた。

「米国の金融制裁で、北朝鮮は想像以上に追い詰められています。偽ドル札のロンダリングができなくなり、外貨が入ってこなくなった。自前ではエネルギーも物資も揃えられない北朝鮮にとって、外貨が入手できないことは致命傷です。困窮した北朝鮮は、今年ついに金正日総書記の誕生日に贈り物も与えられなかった。

 モノやカネで幹部の忠誠心を保ってきたのに、このままでは政権が崩壊しかねない。米国に金融制裁を解除させるためには、危機的状況をつくり出すしかなかったのでしょう」(コリア国際研究所所長・朴斗鎮氏)

 実際、北朝鮮は「瀬戸際外交」を何度も成功させてきた。98年にテポドン1号を日本海に撃った時は、まんまとクリントン政権から経済制裁の緩和を勝ち取っている。その“成功体験”が忘れられず、再び強硬策に出たということだ。

「ミサイルを発射しても、どうせ米国は軍事攻撃はできないし、最後は中国、ロシアが助けてくれるという計算もあったはずです。ミサイルを7発も撃ちまくったのは、米国がどう動くか迎撃態勢を確認し、貴重なデータを中国、ロシアへ渡そうとしたためではないか」(朴斗鎮氏=前出)

▼ 軍部のコントロールが効かず暴走か ▼


 その一方で、ミサイル発射は、軍部が暴走したものという見方も根強い。今回の発射劇は、あまりにリスクが大きいからだ。

「これまで『撃つぞ、撃つぞ』と脅しめいた言葉を吐くだけで、実行に至らなかったのは、北朝鮮も決行した時のマイナスが分かっていたからでしょう。なのに、米国を射程内に入れるテポドン2まで放っているのは、冷静な判断ができない状態になっている可能性がある。金正日総書記は、慎重でクレバーな人物といわれる。北朝鮮の政権内部に異変が起きているのではないか。金正日総書記が軍部を抑え切れず、暴走を黙認している恐れがあります」(国際問題評論家・高橋正氏)

 もちろん「ミサイル発射は国内の引き締め。金正日体制の結束を図るのが狙い」という分析もある。

 いずれにしろ、ミサイル7発が、崩壊寸前の独裁国家の悲鳴なのは間違いない。

▼ 北朝鮮がイラクと同じ運命を辿る可能性 ▼

 問題はこれから事態がどう進むかだ。すべてはアメリカがどう出るかにかかっている。北朝鮮はクリントンを譲歩させた98年の再現を狙っているのだろうが、甘すぎる。アフガン、イラクと平気でドンパチを始めるブッシュはクリントンとはまったく違う。北朝鮮の脅しに屈することは絶対にない。単細胞なだけに、逆にムキになって北朝鮮を攻撃しかねない。事実、米国はすぐさま「ミサイル発射を強く非難する」「米国や同盟国を守るためにあらゆる必要な措置をとる」と声明を出し、武力制裁まで匂わせているほどだ。

「ブッシュにとって北朝鮮は『悪の枢軸』、金正日はフセインと同列の存在です。北朝鮮の挑発に乗って交渉のテーブルにつくはずがありません。ミサイルがアラスカ沖に落ちたわけではないから、すぐに空爆することはないでしょうが、まずは国連の安保理で非難決議を採択し、不法行為の取り締まりや人権問題などあらゆる分野で圧力を強めていくはずです」(軍事ジャーナリスト・世良光弘氏)

 そんな状況になったら、今度こそ北朝鮮は本当に“暴発”しかねない。北朝鮮にとって最悪のシナリオは米国に無視されることだ。その時に北朝鮮が取れる手段は、核実験や米国にテポドンを撃ち込むことぐらいしか残っていない。そこまでエスカレートしたら、もう米国も黙っていない。北朝鮮はイラクの二の舞いだ。

▼ 金正日の暗殺、クーデターも… ▼

 北朝鮮にとっての誤算は、友好国の中国、ロシア、韓国まで敵に回してしまったことだ。「情勢を緊張させる行動をとるべきではない」(中国)、「国際社会の期待を裏切る行動に強い懸念を表明する」(ロシア)、「深刻な遺憾」(韓国)と一斉に批判している。


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■ 《北朝鮮・ミサイル連射》オソマツ日本政府
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CNNにも負けていた官房長官会見
「北朝鮮に強い安倍」って本当なのか
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 早くから「北朝鮮情勢が緊迫すればするほど、総裁選で断然有利」といわれてきた安倍官房長官。ミサイル連射によって、願ってもない展開になってきたが、やっぱり荷が重いのではないか。

 きのうは早朝から安倍官房長官の“独壇場”だった。テレビで北朝鮮のミサイル発射のニュース速報が流れる中、政府のスポークスマンとして緊急会見に度々登場。「北朝鮮なら安倍」を印象づけていた。だが、どこまで情報を正確に把握していたのか、となると不安になってくる。

「安倍官房長官はまず早朝6時18分から1回目の会見を行い、“3度にわたり、北朝鮮から何らかの飛翔物が……”と発表していましたが、その時、米CNN放送は“3発目はテポドンです”と具体的に伝えていた。

 2回目の8時20分の会見のときには“4発目、5発目が発射された”と安倍長官は言ったが、その最中に6発目が発射されていました。日本政府の発表が米国のテレビよりも遅いのでは心配です。

 しかも、記者から“ミサイルはどこから発射されたのか”の質問が飛んでも、安倍官房長官は“調査中”“確認中”と言うだけ。でも、CNNはすでに“東海岸からです”と指摘していました」(ジャーナリスト・上杉隆氏)