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横浜環状南線(圏央道)質問集会
〜住民と事業者の科学的議論〜
その1 大気汚染予測編


鷹取 敦
環境総合研究所

掲載日:2005.9.20


 いわゆる「時のアセス」※により2005年3月17日、事業評価監視委員会が横浜環状南線(首都圏中央連絡自動車道(金沢〜戸塚))を「事業継続」とする結論を出した。

  ※再評価を実施する事業(国庫補助事業)
   ア 事業採択後5年間を経過した後も未着工の事業
   イ 事業採択後10年間を経過した時点で継続中の事業
   ウ 事業採択前の準備・計画段階で5年間が経過している事業
   エ 再評価実施後一定期間が経過している事業
   オ 社会情勢の急激な変化、技術革新等により再評価実施の必要が生じた事業


 この道路事業では、横浜市栄区の住宅密集地である公田地域の谷間にインターチェンジが計画され、近隣住民の多くが大気汚染・騒音などの環境悪化等を心配している。この「事業継続」には近隣住民の熱心な申し入れにより異例の付帯意見がつけられた。

 付帯意見では、環境保全対策については、より良い予測手法の確立をふまえた環境影響の照査※や、住民への説明、住民の疑問・意見への誠意ある対応、合意形成については住民の理解を得ること、合意形成に向けての対話、理解を得られるよう一層の努力などがうたわれている。

  ※環境影響「照査」とは、いわゆる環境影響「評価」とは異なり、環境
    アセスメント法・条例に基づいて行われるものではないが、環境ア
    セスメント実施から時間が経過したものについて、前提条件、予測
    手法を最新のものに置き換えて事業者によって自主的に実施され
    ている調査。


 この付帯意見を踏まえて、2005年9月18日に「環境アセスに関する質問集会」が開催された。住民が提案し横浜市と住民が共同で司会進行し、事業者が実施した環境アセスメントおよび環境照査についての疑問点を質問する集会である。第一回目は大気汚染予測がテーマとなり、第三者的な立場から質問する専門家として招かれた私も、近隣住民の代表お3人とともに質問を行った。


質問集会の全景


住民側専門委員


事業者側委員

 IC(インターチェンジ)が計画されている公田地域は、横浜市西南部の丘陵地の複雑な地形であり、ICはその谷間に計画されている。このような地域では、地形の影響を受け、風は複雑に変化し、大気汚染の拡散に大きな影響を与える。

 風向・風速ともに場所によって大きく異なるため、大気汚染の予測もそれに対応する予測モデルを用いなければならない。

 しかし、環境アセスメントでは平地であることを前提として簡略化された予測モデルであるプルーム式・パフ式を用いて予測されているのである。住民は当然、この点に疑問を持った。この地域にプルーム式・パフ式を適用してもよいという理由を説明して欲しいというのが、今回の質問集会の目的であり、唯一の論点である。

 事業者側から質問に対応するために出席したのは、国土交通省 横浜国道事務所の課長と専門官、日本道路公団の技術課長だ。横浜国道事務所の課長は霞ヶ関から出向しているエリート官僚である。事前にしっかりと勉強しており、プルーム・パフモデルを採用している国のマニュアル(道路環境影響評価の技術手法)についてはしっかりと頭に入っているようであった。

 最初に横浜国道事務所よりプレゼンテーションがあったが、その内容は住民の疑問に応えるものではなく、アセスメントマニュアルの基本講習のようなであった。プルーム・パフモデルが栄区の地形に用いることが出来る理由はほとんど説明されることはなく、会場からは不満の声が上がった。

 これに対応するため、事業者からプルーム・パフモデルと地形との関係について技術的な説明が行われるが(技術的な詳細は本稿では省略する)、さらに疑問点や充分に説明されていない点を指摘すると、説明の内容には謝りや不足があったり、一般論であって公田の地形に対応できる説明でなかったり、本地域における科学的な根拠を示さずマニュアルに書いてあるので正しいと信じています、という趣旨の返答が繰り返された。

 本地域のような複雑な地形ではプルーム式、パフ式は適用できないと考えるのが当然であるが、仮に使えると主張するのであれば、それを立証するためには、本地域でその前提条件が成立することを確認するための実測調査が不可欠である。

 そして、そのための費用は本事業の道路の数十cm分の費用があれば充分である、という明快な主張に対して、事業者から噛み合った回答は得られない。

 会場から、それでは本地域で検証するための実験を行って欲しいという要望が出るが、事業者は「出来ない」と言うばかりであった。

 マニュアルを「信じている」だけで、簡単に行える検証を拒否するのであれば、それは科学ではなく宗教である。

 「まいった」とこそ言わないものの、客観的にみれば事業者の主張は破綻していると言わざるを得ない、会場で傍聴した住民はそのように感じたようだ。事業者の説明責任は果たされなかったと評価すべきだろう。

 住民と事業者の冷静で事実に基づいた科学的な議論は、今後も継続されるそうだ。