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日本の農業は
自律したか!?



  田中康夫

掲載日2006年6月1日



「ウルグアイ・ラウンド対策」として農林水産省が1994年度から2000年度に掛けて投じた税金は、総額にして6兆円を優に超えています。地方単独事業も加えれば、73000億円近いのです。

 が、それで日本の農業が自律したかと問われれば、答えは否です。その使途は他の起債同様、ハコモノと道路と公園の建設に限定されていたのですから。結果、全国津々浦々に、自律的な個人の農業者の願いとは裏腹な“遺跡”が多数出現しました。

「集団営農」と称する悪平等的助け合いに、巨大農業団体と一蓮托生で固執する日本は、コルフォーズ、ソフォーズ、人民公社も潰えた21世紀の地球上で未だ猶、集団的自衛権ならぬ集団的計画経済社会主義を実践する奇特な国家なのです。

千曲川の源流を擁する高原野菜の村にも、その“遺産”が存在します。

ふるさと農道の一環として建設された巨大な橋梁は、八ヶ岳高原線と近時、JR東日本が呼ぶ小海線の野辺山駅よりも一つ手前、信濃川上駅の上方に78メートルの橋脚2本と共に、その威容を誇ります。

ふるさと農道は往時、ウルグアイ・ラウンド対策で設けられた事業の一つで、事前に通行量予測を実施せずとも着工可能でした。無論、多額を予算を投じて事前予測調査を行おうとも、“士族の商法”故にドンピシャリと当たった試しは皆無に等しいのでしょうが。

 とまれ、当初予算は19億円。最終総工費は485000万円です。その謎を就任直後に尋ねると、悪びれもせずに農政部長は答えました。

「知事、公共事業は小さく産んで大きく育てるものです」。

 因みに、件の人物は在任中に繰り返し、「今度の知事は、職員を信用して歩み寄ろうとしないから駄目だ」と周囲に“広言”していました。

 そりゃぁ、僕だって信用したいと思います。けれども、19億円が485億円に膨れ上がっても恬として恥じず、逆に居直り発言する古いOSの職員に唯々諾々と従っていたなら、確実に今頃、信州・長野県は財政再建団体に転落していたでありましょう。

 職員の為でなく、団体の為でなく、220万人の県民の為に奉仕者として仕える。爾来57ヶ月を経て幸いにも、同じ使命感を抱いて走り続ける多くの職員が、現場にも中枢にも輩出されてきています。総合愛情産業のパブリック・サーヴァントとして県民に奉仕する意識に覚醒した彼等に感謝するや大です。

無論、その分、既得権益を死守し続けたい守旧派の残党は、“愉快犯”的な言説を繰り返す地元のメディアと以前にも増して徒党を組む傾向に有るのでしょうが。

 話を戻せば、ダム、隧道、橋梁は、当初計画とは比較にならぬ程に多額の補正予算が途中で組まれて金額が膨れ上がる、国家財政を破滅へと導く麻薬なのです。而して、その費用の大半は、スーパーゼネコンを始めとする県外企業に還流されていくのです。

更に驚愕すべきは、地元の県議会議員も実は、県内業者よりも県外企業への優遇策を望んでいたりするのです。その意図する所は何か、更に詳述します。