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IUCN勧告
「日本のジュゴン,ノグチゲラ,ヤンバルクイナの保全」
が採択される

掲載日:2004.11.28

記者発表資料Ver.3
2004.11.26
IUCN, Bangkok

IUCN勧告
「日本のジュゴン,ノグチゲラ,ヤンバルクイナの保全」が採択される


第3回IUCN世界自然保護会議(2004年11月17-25日,バンコク,タイ)

タイのバンコクで開催されている第3回IUCN世界自然保護会議において,日本の環境団体(注1)が提案した「日本のジュゴン,ノグチゲラ,ヤンバルクイナの保全」勧告が,賛成多数で採択された.今後,この勧告は第3回IUCN世界自然保護会議で採択されたIUCN勧告となる.

注1:WWFジャパン(3),日本自然保護協会(2),沖縄大学地域研究所(1),日本野鳥の会,日本雁を保護する会,エルザ自然保護の会,野生動物救護獣医師協会,ジュゴン保護キャンペーンセンター(20),(カッコ内はIUCN会議への参加者数)


1. 勧告の採択

この勧告案に関する採決は,11月25日午前の本会議(8:30−12:00)において,電子投票によって行われた.われわれの勧告案(CGR3.REC032)については,10:15から10:30にかけて行われ,投票総数は,政府が116,NGOが231,合計347であった.

2. 投票の結果

 投票の結果は以下のとおりである.

賛成
反対
棄権

政府
70
4
42

NGO
185
22
24

3. 勧告の内容

採択された勧告は,以下のとおりである.なお,原文は英語であり,以下は日本の環境NGOによる仮訳である.環境NGO提出の原案と比較すると,事実関係を述べる前文においては,いくつかの字句修正(ジュゴンの分布域の表記,UNEPが出版したレポートからの引用の削除)と二つのパラグラフの追加(日本政府による調査と保全の努力の表明,環境アセスメントの実施)があった.具体的な勧告を記述する主文では,小さな変更があったが(アメリカ政府による協力について,「要請があれば」が加わり「研究者の派遣」は削除された),勧告の核心である環境アセスメントに,ボーリング調査を含めること,ゼロ・オプションを加えること,保護区を設定し保全計画
を作ること,については修正はなかった.

CGR3.REC032

日本のジュゴン,ノグチゲラ,ヤンバルクイナの保全
Conservation of Dugong, Okinawa Woodpecker and Okinawa Rail in Japan 日本のジュゴンは,沖縄島周辺のみに生息し,分布域が狭く,個体数が少なく,他の個体群から孤立していること,ノグチゲラ,ヤンバルクイナは,地球上で沖縄島の山原(やんばる)の森にのみ生息する固有種で個体数が少ないことにより,3種ともに絶滅のおそれのある種(ジュゴンはCR D1(日本哺乳類学会1997),ノグチゲラはCR , ヤンバルクイナはEN(環境省2002))であることに留意し,ジュゴンの最も重要な生息海域のひとつでは,米軍の軍事飛行場と日本の民間航空の軍民共用空港建設計画が進み,魚網による混獲が発生し,ノグチゲラ,ヤンバルクイナの生息地では,米軍用の7か所のヘリパッドと軍用道路の建設計画があり,侵入種のマングース,ノネコによる捕食が発生するなど,これらの3種への脅威が高まり,絶滅の危機がさらに進んでいることを憂慮し,IUCN第2回世界自然保護会議(2000年10月4-11日 アンマン,ヨルダン)が,沖縄島のジュゴン,ノグチゲラ,ヤンバルクイナの保全のために,生息地におけるアメリカ合衆国海兵隊の軍事施設の建設と演習に関する環境アセスメントを完遂すること,それにもとづいて,これらの種の生存のために適切な対策を講じるよう勧告(Rec. 2.72)していることを想起し,

 日本政府が,ジュゴン,ノグチゲラ,ヤンバルクイナの保全のための調査といくつかの救済策を実行し,生息地における軍民共用空港,ヘリパッド,道路の建設において,自然環境への重大な影響を避けるための最大限の努力を決意したことを歓迎し, 日本政府が,日本の法律にもとづいて環境アセスメント手続きを開始したことを認め, UNEP/DEWA(2002)によって出版された研究レポート「ジュゴンの現状と国別・地域別の行動計画」における絶滅の警告に注目し, IUCN世界自然保護会議は,その第3回会議(2004年11月17-25日,バンコク,タイ)において,

1. 日本政府に対し,以下のことを要請する;
a) ジュゴン生息海域における軍民供用空港建設計画に関する環境アセスメントでは,ゼロ・オプションを含む複数の代替案を検討すること,また,ボーリング調査,弾性波探査などの事前調査も環境アセスメントの対象にすること.

b) ノグチゲラ,ヤンバルクイナ生息域における米軍ヘリパッド建設計画に関しては,これを環境アセスメントの対象として,ゼロ・オプションを含む複数の代替案を検討すること.

c) 早急に,ジュゴン,ノグチゲラ,ヤンバルクイナの保護区を設置して,保全に関する行動計画を作成すること.

2. アメリカ合衆国政府に対し,以下のことを要請する;

a) 沖縄の希少な野生生物生息地におけるアメリカ合衆国軍の基地建設について,米軍の環境管理に関する基準にもとづいて,日本政府と環境保全,野生生物保護の観点から協議すること.

b) 要請があれば,日本政府が実施する軍事基地に関する環境アセスメントに協力すること.


4. 本会議における勧告案の関係者のコメント

 本会議における勧告の採決に際し,提案団体,日本政府,アメリカ政府の各代表は,以下のような主旨のコメントを述べた.これは提案団体の録音にもとづいて発言主旨を要約したものであるが,日本政府,アメリカ政府の発言に関しては,本人の確認を得ていない.この文書の記載者の責任により,以下に記載する.

(1) 環境省(日本政府機関)
2回のコンタクト・グループで合意に達しなかった.原案では,議論されていな
い問題点,認識の異なる点があるので,環境省として修正案を提出したい.修正案については,すでに提案者と合意している.(以下,前述の修正について文章を朗読)

(2) 外務省(日本政府)
日本政府は,当該地域において積極的な政策をとっている.基地の機能を考慮しながら,環境に関する影響が最小限にとどまるように留意している.現在,市街地からの基地移設計画に取り掛かっているが,環境への影響を最小にするための努力をする.国内法にもとづいて環境アセスメントを行っている.勧告が成立するしないにかかわらず,努力する.現在のボーリング調査,弾性波調査についても,法律では求められていないが,環境保護のための対策をとっている.政府も提案者も,コンタクト・グループで妥協点を見つけようと努力したことに感謝する.IUCNのファシリテーターの指導力に感謝する.しかし原案に関して,残念ながら合意に達しなかった.そのため,文言に対して同意することができなかったので,IUCNの政府機関のメンバーである日本の外務省として,この勧告案への投票を棄権する.

(3) アメリカ政府(国務省)
 アメリカ政府は,沖縄のジュゴン,ノグチゲラ,ヤンバルクイナの保全を支持し,他の絶滅危惧種の保全も支持する.われわれは,この勧告案の提出者の種に対する危惧について共感し尊重する.アメリカ政府は,移設に関して,包括的かつ透明性のある環境影響評価を行うことに対して,コミットしていくつもりである.もし,日本政府が要請するならば,環境アセスメントに協力する準備がある.アメリカ政府は,適切な法律と規則の範囲で,日本の環境保全に最大限の努力をする.これらを進めるなかで,関係者すべてとさらなる協議を行っていく.(以下,前述の修正について文章を朗読)

(4) 提案団体(吉川秀樹:ジュゴン保護キャンペーンセンター)
 日米両政府は,沖縄のジュゴン,ノグチゲラ,ヤンバルクイナの生息地に米軍施設を建設しようとしている.日本政府は,日本の環境影響評価法に従ってアセス手続きにはいったが,アセスにはゼロ・オプションは含まれず,関連するボーリング調査もアセスの対象とはなっていない.日本政府は,アセスにゼロ・オプションをいれ,ボーリング調査をアセスの対象とするべきである.米国政府は,基地建設における米国の責任を認識し,アセスに協力すべきである.我々の勧告案への支持をお願いする.

(5) 環境省
日本の法律では,環境アセスメントの結果,事業を行わないという選択があり得る.提案団体の発言は,その点に誤解がある.

(6) 提案団体(ケリー・ディーツ:ジュゴン保護基金委員会)
<このコメントは発言の機会がなかった>
 日米両政府は,沖縄の絶滅危惧種の生息地に新しい米軍施設の建設を,世界中からの反対の声にもかわず押し進めている.日本環境影響評価学会や日弁連は,同計画の環境アセスにゼロ・オプションがないことや,ボーリング調査などが対象になっていないことに注目し方法書のやり直しを要求している.米国政府は同計画への関連を否定し続けている.しかし,米国政府はこの新基地の運用構想を日本政府に提出している.現在も防衛施設局は隣接した米軍施設キャンプ・シュワブよりボーリング調査船を出している.米国政府へ,米国政府の環境管理基準に基づきアセス手続きに協力する義務を認識させるこの勧告案への支持をお願いする.

5. 勧告採択までの経緯
 
今回の勧告案は,2004年7月に提出され,IUCNのResolution Working Group(決議担当部門)で審査され受理された.RWGは「同種(ジュゴン,ノグチゲラ,ヤンバルクイナ)に関する勧告2.72がアンマンで採択されているが,これまでほとんど進展がないので,この勧告を本会議で検討することにした」とコメントしている(IUCNの決議・勧告のテーマは新しいものに限られ,繰り返されることはないが,過去に採択された決議・勧告が未だ解決していない,あるいは,さらなる行動が必要である場合には,受理されることがある).
 IUCN会議では,勧告案は,本会議に提出される前に利害関係者による「コンタクト・グループ」で議論され,合意がなされたものから本会議に提出される.本勧告案については,会期中の21日,22日に,IUCN事務局のファシリテーターと書記の参加のもとで,それぞれ2時間,提案者のNGO,日本政府(外務省,環境省),アメリカ政府(国務省)の間で議論された.アメリカ政府とNGOの間では,他国の主権侵害にならない表現に修正することで合意ができた.しかし,日本政府とNGOの間では,文書の修正に関して合意することができなかったので,この勧告案は,RWGが受理した時点の文書のままで(修正がなされていない状態で)本会議に提出され,投票にかけられることになった.日本政府とNGOの間で合意に到らなかった最大の理由は,勧告の主文において,政府側が「早急に環境アセスメントを完遂し,その結果にもとづいて保護対策を立てる」という主旨の修正を提案したのに対して,NGO側は,政府の文案では,従来行われているような環境アセスメントを繰り返すだけで,着工への道筋をつけてしまうものであり了承できないとして,「ボーリング等の事前調査を環境アセスメントの対象とし,軍民共用空港を造らないゼロ・オプションも含めた国際的な水準の環境アセスメントを実施すべきである」との主張を譲らず合意に達しなかったことによる.その結果,交渉は決裂し,勧告案の修正は行われず,NGOの提案文がもとのままで本会議に提出された.
しかし,24日の本会議では,環境省から(日本政府ではなく)修正意見が出された.修正は,勧告の前文に関するもので,表記の変更と追加記載で,事実の記載であり,主文には手を加えないので,提案NGOはこの修正意見を受け入れた.アメリカ政府からは,コンタクト・グループ時と同じ修正案が提出された.提案団体は,日本政府,アメリカ政府両方の修正案を認めた.その直後に投票が行われ,前述の投票結果にもとづいて,この勧告が承認された.

6.勧告採択の意義およびコメント

バンコク(2004年)における「日本のジュゴン,ノグチゲラ,ヤンバルクイナの保全」勧告は,アンマン(2000年)に続いて2回目となる.前回の勧告がほとんど実現されていないので2回目の勧告になったわけであるが,IUCNという世界最大の自然保護機関が,2回にわたって,この勧告を賛成多数で採択した意義はたいへん大きい.意義のひとは,4年間にほとんど進展がなかったことから,再度の勧告を行うことを認めたことである.もうひとつは,ジュゴン,ノグチゲラ,ヤンバルクイナに代表される沖縄の環境問題は,世界的な関心のある重要な環境問題のひとつだという共通認識が生まれていることである.2度にわたる重要な勧告であり,日本政府とアメリカ政府は,早急に勧告の内容を履行するべきである.
今回の勧告に関するコンタクト・グループなどの会合では,日本の環境アセスメント制度についての質問や問題点の指摘,批判が多く出されている.空港を造らないというゼロ・オプションを含む複数案の検討やボーリングなどの事前調査をアセスメントに含めることは,世界的には当然のことと考えられている.
今回の勧告に従って,日本政府は,短期的には,直ちに辺野古海域におけるボーリング調査を中止し,ボーリング調査とゼロ・オプションの検討を環境アセスメントに含めるべきである.そのため,現在の方法書を根本的に見直す,あるいは追加の方法書を作成すべきである.また,3種の保護区設定と保護計画について具体的に取り組むべきである.さらに,中長期的には,世界銀行の環境アセスメントに関するガイドラインやアメリカ合衆国の国家環境政策法を見据えて,日本の環境アセスメント法や制度を国際的な基準を満たすものにつくりかえていく必要がある.
 自然保護,環境保全の分野で,日本が世界的な貢献をしていくためには,まずは,IUCN勧告を実現し,国際社会のなかで義務を果たし信頼できる国との評価を得る必要があるだろう.

この件に関する問い合わせ先

花輪伸一(WWFジャパン)  電話03-3769-1713(事務所)
吉田正人(日本自然保護協会) 電話03-3265-0521(事務所)
道家哲平(IUCN日本委員会)  電話03-3265-0521(事務所)
宮城康博(ジュゴン保護キャンペーンセンター) 携帯090-3793-9526
蜷川義章(ジュゴン保護キャンペーンセンター) 携帯090-8524-6372

(文責:花輪伸一・吉川秀樹・宮城康博)