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耐震設計基準は崩壊した
新幹線脱線の恐怖

山崎 久隆

掲載日:2004.10.25

脱線写真(朝日新聞)

 史上初めて走行中の新幹線が地震に遭遇し、脱線するという事態になりました。幸い乗客乗員に犠牲者は出ませんでしたが、思いっきり幸運に恵まれたと言うべきでしょう。

 脱線した東京発新潟行きの「とき325号」は、18時ちょうどに長岡到着予定の列車ですので、地震発生時には長岡駅の手前8キロあまりの地点を時速210キロで走行していたと思われます。

 場所は直線で、トンネルを出た後だったため、線路から脱落あるいはトンネル壁への衝突や転覆などはせずにすみました。最後尾の車輌は最大傾斜40度にも傾いたのですが、乗客はわずか7名しか乗っていない車輌で、新幹線全体でも150人くらいしか乗っていませんでした。

 おそらく車内は乱気流に巻き込まれた飛行機のように上下左右に揺さぶられたと思いますが、乗客の少なさが被害者を出さなかった大きな理由の一つだと思います。また、脱線したのは二階建てMAXではなく従来の一階建ての200系のようなので、重心が低かったことも幸いしたのでしょう。10両編成でおおむね900名ほどの着席定員があります。

 この時期は行楽シーズンにあたるので、普段の土曜日午後便は割りに混み合うのですが、三連休にはあたらなかったのと在来線の接続の関係や越後湯沢を過ぎている場所だったことなどの関係で、この車輌は少なかったのだろうと思います。前後の車輌は400名以上乗車していたものもありますから。

 幸運が重なったもう一つは、脱線した路線は外見上大きな損害は受けていなかったということです。阪神淡路大震災時のように、橋脚が崩落していれば大惨事になったことは間違いありませんから。

 逆に「恐ろしいもの」を見たというのは、橋脚破壊です。 新幹線の路線は、他の場所では重大な損害を受けたところがありました。 今日のニュースで盛んに流している「川口町の橋脚破壊のようす」です。 阪神高速道路でも見られた破壊の形状ですが、橋脚が地上2メートル付近で爆裂したかのように樽状にふくれあがっているのです。内部の鉄筋もむきだしとなり大きくへし曲がっています。

 橋脚そのものは倒れてはいませんが、強大な横揺れに襲われていたら倒壊したかもしれません。

 橋脚破壊の原因はおそらく強力な縦揺れの一撃だろうと思います。上下方向に重力加速度を超える大きな揺れが発生しますと、橋脚に圧縮応力が加えられ、その圧力に耐えられずに圧壊したのだろうと思います。

 このときに大きな横揺れが作用すれば、阪神高速道路のような倒壊になる危険性があるのです。

 つまり、とんでもなく大きな縦揺れがこの場所には起きていたことを示しているのだろうと思うので、怖いと思ったのです。この上を新幹線が走行中だったら、たぶん空中に投げ飛ばされるような衝撃と共に脱線転覆は免れなかったでしょう。
 
 史上最大の地震動を観測
 
 今回の「新潟県中越地震」は、マグニチュード6.8と推定されています。阪神淡路大震災(マグニチュード7.3)よりもエネルギーでは四分の一以下という水準です。しかし震源の深さや地盤の状態、断層ずれの方位と角度などいろいろな条件で、強力なエネルギーが局所的にではあれ発生していたと思われます。

 例えば新幹線に関連して言えば、おそらくJR東日本が所有する強震計だと思うのですが、毎日新聞にこういう記述があります。「今回の地震では、震源地近くで阪神大震災の616ガルを上回る846ガルを記録。」重力加速度は980ガルですから、それに迫る強さです。

 さらにもっとすさまじいことがわかりました。毎日新聞の記事を引用します。

「防災科学技術研究所によると、小千谷市のK−NET(強震計)で、最大加速度1500ガルを記録した。阪神大震災の際に神戸海洋気象台が観測した818ガルを上回るなど、観測史上最大級の加速度だ。」「(中略)国土地理院は地殻変動のデータをもとに、今回の地震の震源断層モデルを計算した。それによると、動いた断層は長さ約22キロ、幅約17キロ、深さ約3.2キロ。これが上下方向に約1.4メートルずれた逆断層型の地震と推定している。」

 1500ガルという値は、いかなるものでも空中に吹き飛ばしてしまう威力がある揺れです。たぶん耐えられる構造物は存在しないでしょう。この揺れは「東西南北上下の三成分合成」データですが、縦揺れも820ガルの大きさがあります。

 また、この記事にはありませんが、防災科学技術研究所のホームページでは、揺れの速度データも公表していて、同じ地点の最大は三成分合成で136cm/秒、136カインにも達したというのです。

 史上最大の地震ではないのになぜ史上最大の地震動を観測したかと言えば、この地震で最も大きな揺れに近い場所に強震計が存在したからに過ぎません。阪神淡路大震災やこれまでの地震でも、1500ガルを超えるような強大な揺れがきっと存在した場所があったのでしょう。しかしその場に強震計が存在しなければ、観測できないということです。

 これまでの地震についての知見を揺るがすに十分な記録は、たぶんに偶然的要素により捕らえられたというわけです。

 耐震設計基準の崩壊

 この値をみて、電力や原子力関係者が何とも思わなかったとしたら、それは失格です。
 原発が想定している揺れは、最も大きな浜岡原発でさえ600ガル、柏崎刈羽では450ガルで設計されています。1500などと言う値は論外と言うことになります。 しかも、浜岡も柏崎刈羽も想定している最大地震エネルギーはマグニチュード6.8よりはるかに大きいマグニチュード8.5やマグニチュード8.0などとなっています。

 これらが起きても最大振動600ガルや450ガルを上回らないというのは、どういった根拠に基づくのかと言うことはずっと議論の的でした。そして、新しい地震が起きるたびにこの想定は特に直下に近い場所で起きる場合は全く誤りであることが実証され続けてきたのです。阪神淡路大震災でも最大818ガル、そして今回はついに1500というとてつもない数値が観測されました。

 強震計というそうちは、日本全国網の目のようにあるわけではありませんし、あらかじめ地震が起きる場所に設置するというわけにもいきません。たまたま設置した場所で地震が起きることで、はじめて地震断層の真上でどんな揺れが起きるかの一端を知ることが出来るだけです。

 人の住んでいないところや海底では強震計は設置されていませんので、これまでなかなか数値データとしては知られなかったことでしたが、体験した人々は「体が宙に浮いた」「いろいろなものが空中を飛んだ」という表現で、とてつもない地震動を証言してきました。しかしそれが数字になっていなかっただけで、原発の耐震設計などには何ら生かされてこず、遠くの小さな地震をひろって集めたデータを基準として、マグニチュードと震源距離だけでおおざっぱな揺れの大きさを決めてきただけだったのです。

 それが原発の耐震設計の基礎にされてしまったがゆえに、とんでもな過小評価の上に、極めて危険な装置が乗ってしまう、そういう事態を引き起こしてしまいました。 原発が直下に想定している地震はマグニチュード6.5、これで起きる地震動の推定値は、せいぜいのころ400ガル程度です。しかし今回は、それの倍程度のエネルギーを持つ地震でさえ4倍もの強力な揺れを発生させてしまったのです。

 耐震設計は、根本から瓦解しと言わざるを得ない。それが大災害を引き起こした新潟中越地震の教訓です。